「 上品で美しい国家 」
日下公人(くさか・きみんど) / 伊藤洋一(いとう・よういち)
株式会社ビジネス社 2006年5月発行・より
[日下公人] 日本には天皇陛下がいますが、これは宗教とは違いま
す。
日本の天皇制は国家を継続させるための知恵であり、その継続性以外に理由があまりありません。
アメリカはもともと継続がない国ですから、アメリカ人には古いものがいいという考え方はあまりありません。
「新しいものほどよい」 ですから、口を開けば革命とか進歩とか、革新と言っています。
蘇我入鹿や弓削道鏡など、天皇になろうとした人は日本にも昔からいます。
「自分のほうが実力がある」 などと言い出したらきりがありません。
そこで、「実力ではない。血筋だ」 と決定すれば、みんなあきらめます。
血筋にすれば、権力を狙う人間が天皇になろうとする争いは起きないだろうという、一つの経験から出た知恵なのです。
これは余談ですが、私のいた日本長期信用銀行は実力主義の世界でした。
そのため、ある程度の年になれば長銀から取引会社に転出することになります。
出向先は中小企業で、そういう会社はたいてい同族会社です。
私の同期で、そうした会社に常務とか専務で行った人が、「常務同士、専務同士がものすごく仲がいい」 としみじみ言う。
同族会社ですから、社長になるのは御曹司で、自分たちが社長になることはありません。だから、仲間でいられるのです。
これが大企業だと、「俺のほうが賢い」 とか、「俺は成績を上げた」 などと争いが起きます。
権力争いでゴタゴタしてきりがありません。
同族会社で社長一族以外は社長になれないのも、誰が社長になるか心配しなくていいのですから会社の発展のためにもいいことなのです。
ふだんは意識しませんが、これもまた継続のための知恵で、実際に効果が上がっています。
私は天下った経験がありませんが、”下っ端”として、いろいろな会社と取引をしたとき、その会社の社長一族の名刺を持つ人間が出てきたら、まず、その人は逃げることがないと思って信用できます。
息子さんでも娘さんでも、社長一族であれば、この人と約束しておけば長く続くと考えることができます。
三洋電機へ行って、会長の野中ともよさんと約束しても、野中さんが三洋電機を辞めればそれでおしまいです。
(野中ともよ・元ニュースキャスターで2002に会長就任~2007年に辞任・人差し指)
それよりは創業者一族の 「井植」 と名のついた人とお付き合いしていたほうが将来安心です。
これは一つのたとえですが、そういう効用があったから、世襲制はつい最近まで続いていたのです。
2018年8月24日に 「天皇家という家業」 と題して徳川義宣の文章を紹介しました。コチラです。↓
https://ameblo.jp/hitosasiyubidesu/entry-12393422205.html
奈良・春日大社の藤 4月27日撮影