花柳界を美化した小説は・・・ | 人差し指のブログ

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「知の湧水」

渡部昇一(わたなべ しょういち 1930~2017)

ワック株式会社 2017年6月発行・より

 
 
 
 大学に入った最初の夏休みのことだったと思う。
K君と一緒に佐藤順太先生をお訪ねした夜のことである。
 
 
 
いろいろお話を伺っているうちに、先生は 「きっ」 とした調子になられて、こんな主旨のことをおっしゃられたのである。
 
 
 「世の中には”悪魔の囁き”あるいは”悪魔の誘惑”としか言いようのない本があるら君たちも注意しなければならない。それは花柳界(かりゅうかい)を美化した小説だ。そういう小説を書いている者はみんな花柳病にかかっている連中だ。若い健康な青年を見ると羨(うらや)ましくて仕方がない。それで一人でも多く自分の仲間にしたいのだからナ」  
 
 
 順太先生の頭の中にあった小説家たちは、
みな明治・大正期の人たちだと思われる。
 
其体的な名前を出されたかどうか覚えていない。
 
 
 この時期の順太先生の語調は、いつとも一寸違っていて厳しい感じがしたので特に記憶によく残っている。
 
 
現代では吉原をはじめとして、
昔のような花街はなくなったことになっているので事情は違うであろう。
 
 
しかし私どもが学生の頃はまだ売春防止法もなく、
四谷の近くにも新宿二丁目にもそういうところがあった。
 
 
私は順太先生を神の如く尊敬していたので、ついにその種の女性に触れることもなく、したがって花柳病とも無縁できた。
 
 
おそらくその時一緒にいたK君も先生の忠告を守ってきたのではないか。
 
 
 ずっと後になって、かつては花柳界にいたという婦人にこの話をしたら、彼女も 「きっ」 となった調子でこう言った。
 
 
「その先生の言われたことは本当です。それはすばらしい先生です」 と。
 
 
 彼女も経験上、花柳界と花柳病とは切り離せないことを体験上知っていたらしかった。
 
そういえば彼女に子供はいなかった。
 
 
                                           
 
 
2017年9月7日に~街道の遊女の「富と利権」と題して加藤秀俊の文章を紹介しましたコチラです↓
 
 
 
 
上野不忍池(東京・台東区)にて昨年11月21日撮影
周囲にある四角いビルが入らないように撮影するのが大変でした