『美しすぎる母』(2007スペイン=フランス=アメリカ)
2008年6月10日(火) ル・シネマ
『美しすぎる母』(2007スペイン=フランス=アメリカ)
<SAVAGE GRACE>
有り余る金と時間を持て余した特権階級の成れの果て。父親の邪心と母親の野心。困惑の中にありながらも美しく育った少年の心はいつしか蝕まれ、悲劇をよぶ。閉ざされた空間の中で壊され、歪められた愛の物語
貧しい家庭で育ったバーバラは惨めな生活から“抜け出し”て、大富豪ブルックス・ベークランドと結婚し、一児を授かる。しかし、激情的な性格が災いして夫から捨てられ、美しく育った息子トニーへの愛に生きる。本作は、そんなバーバラ・ベークランドが、最期にはその愛しすぎた息子に殺されるというスキャンダラスな実話に基づくヒロイン伝説。
一線を越えるほどに愛し合う母と息子の姿は背徳的なおぞましさに包まれているが、演じるジュリアン・ムーアとエディ・レッドメインの好演により、映画の中では美しい男女間の愛のケミストリーに昇華されている。しかしながら、裕福で、暇を持て余し、堕落した背徳的日々に迷走する姿は危うさを感じさせるばかりで、共感できる要素は極めて低い。
悲劇のヒロインたる扱いのバーバラが終始貫く高慢な態度が受け入れがたい。邦題が指し示すところの<美しすぎる母>は、人前で<しゃべりすぎる母>にすぎないように思える。夫が距離を置くのも無理はないとさえ思ってしまう場面もあり、何箇所か観ていて閉口してしまったが、ジュリアン・ムーアの透けるように白くて細い足には驚かされる。入浴シーンで映るそれは少女のようだ。
家庭崩壊したベークランド家のバーバラとトニーに助けの手を差し伸べる男サムを、『いつか眠りにつく前に』や『ジェイン・オースティンの読書会』においてキラリと光る脇役に徹していたヒュー・ダンシーが、ここでも脇役ながら重要な役割を果たしていた。
父も母も、そして息子も、人として決定的な部分でモラルに欠け、冷徹で、残酷で、下品で、自らを卑下に貶めている。人間、金と時間がありすぎても、恵まれているとは言えないという教訓さえ浮かび上がる悲しい家族のストーリー。
ジャジーな雰囲気での幕開けと幕閉め、そして女性ヴォーカルのエンディングテーマ曲はよかった。また、サヴィル・ロウのアンダーソン&シェパードで誂えたというスーツ姿で煙草を燻らすトニーが鮮烈な印象を残す。狂乱の愛に道を踏み外した若者の衣装としてはいささか上等すぎるが、深く愛した母親へのせめてもの敬意の表れであったのかもしれない。
『美しすぎる母』(2007スペイン=フランス=アメリカ)
<SAVAGE GRACE>
監督:トム・ケイリン
出演:ジュリアン・ムーア、エディ・レッドメイン、スティーヴン・ディレイン
配給:アスミック・エース
上映時間:1時間37分
公式サイト:http://utsukushisugiru.com/
ル・シネマ
渋谷区道玄坂2-24-1
Bunkamura 6F
TEL:03(3477)9264
劇場サイト:http://www.bunkamura.co.jp/cinema/index.html
*毎日曜の最終回は1000均一
*毎火曜は1000均一
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