夜中三時くらいやったかのぉ、マユミはとうに寝てしもうてわしは夢とウツツを行ったり来たりしよったんや。
わしはマユミの丸い背中に生える、金色の産毛をぼんやり眺めとった。月明かりにうっすら浮かぶ汗と、マユミの背中が少しずつ動いて息をしとるんが、なんやものすごう安心しよったんを覚えとる。
ちょっとの間、眠りについとったみたいで、なんや暑もないのにわしは背中に汗をかいとったんや。あばらを縦に流れる滴の緩さにはっとして目を上げたら、背中に絶対誰かおったんや。
ただならぬ気が、部屋の一部から渦巻いとる。
わしは振りほどくように、勢いよお体をひねって振り向いたんや。

したらな、おじいがな、おったんや。
おじいに間違いないと思うんや。
しばらく目があっていたけれど、気い付いたら壁の方へ分からんように消えてった。
不思議にこわともなんとも思わなんだ。びっくりさせよって、とは口走ってしもうたがなぁ。

その日の昼や、工場の売却が決まったんは。

これで借金が少しでものうなるなぁ、嬉しいなぁ、言うて、普段やったら飲まへんマユミが昼間っから赤い顔して喜んどった。
おじいが夢枕に出よう話をしよったら、マユミはまたニコニコしておじいも心配やったんやわぁ、そやわぁ、言うて笑とった。

もう人もあんまり住みよらんような街やけど、願って願って祈って祈って走り回って擦り切れて、一生懸命やっとったらどないかなるもんかもしれへんなぁ。
両手を顔で覆って居るけれど、気持ちは酷く冷静で、自分で言っておかしかった。

もういい、死んでやる。 とか、全くもってリアルじゃない。 怒ったのでお腹が減ってきた。


真剣に悲しいのに、腹が減るなんて僕はきっと何かが足りないんだ。


しかし顔は上げたくないよ。
全身の皮膚を少しずつ剥がされていくような感覚



ビー玉は数、用意したし、好きな雑誌だって言われた通りに買うようにしていた。確かに傘の準備まで、気が回らなかった僕も悪い。



何かが作用し、まんべんなく続いていく事を受け流せなくなったのだろうか。

台所でお湯が沸いている。やかんから出る蒸気がこの部屋の唯一の生気となる。青白い冷たさに包まれ、自分が固まっていたことが分かる。 打ち破る何かはいつも唐突にぶら下がって降りてきて、タイミングを計って僕は手を伸ばす、待っていたから。



理由無き抗争は今も続いている。
どうしても割り切れない計算式に頭を抱えているのさ!