カラスの死体を見た。




 黒い爪が、大きなくちばしが、夏の朝の日差しをうけててらてら光っていた。




 あまり気持のいいものではなくって、それが死骸だとわかってからは


 そちらを見ないようにそこを通過した。




 時間が経って帰り道、同じ場所を通ったら彼奴はおらず、

 そこはいつもの風景に落ち着いていたのだ。




 しかし、とてつもない違和感。


 死骸があったという記憶だけが印象として残る。


 


 何だ?何が起きた?




 忘れても良いはずの記憶は、生物としての生命力を逆に強める結果となったのだ。


 居ない、だからこそ強まる存在感。物質化することによる生の断絶。


 誰かが彼奴を抱えてどこかに埋めたのだろうか。自分自身は目を背けたそれを。


 


 息をする事はどういうことだろう?

 他の苦痛を見て己の傷をなめるなど、してはいけないという事を


 今更痛感するなんて、きっとどうかしてる。




 ただ大きなカラスの死骸だけが、こっちを向いて行く手を阻むのだ。


 感情が分別できず、狼狽している。 


 みっともない、わがままな子供みたいに。

 

 いつもなら切り捨てる様々が、喉に痞えて嗚咽に変わる。




 




 

時を忘れ没する行為

隙間を埋めるように入り込む水滴


蒸発し、結晶化する

思いの外記号化は進行し、情報に感情は支配される。


どうりで思い出される全てが、過去となる訳だ。

現状認識をさせないつもりだろう。


言ったじゃないか、永さを求めるのはお前の勝手だと。



目を上げると白銀の世界


吐く息がやっとの思いで生を甘やかす


手のひらで水に溶ける


溶けて形が無くなる

煙が低い位置でたゆたう
夏の色香を漂わす都会の喧騒を尻目に、私はひたすらとある事に思いを巡らせていました。

窓から見えるハイウェイも、目の前のブレンドも、いつも私が好んで傍に置いていたもの。

ここのキャフェに出入りし始めた18、19の頃にコーヒーと煙草を覚えた事。
マスターとの出会い。
この街に住み始めたのも同じ頃でした。

学生だった私は、此処でのアルバイトで過ごす時間をとても気にいっており、客の好みのコーヒーを良く暗記して居ました。

フルーツサンドイッチの調理に携われた事も、とても嬉しかったのを覚えています。

このキャフェに纏わる全てが愛しく思い出されます。例え私のエゴだとしても、このキャフェとマスターとの思い出はいつ思い返しても全て煌めきを放ち、宝石のように宝箱に溢れています。

そんなノスタルジックな気分に浸りたい時、キャフェにやって来るのです。
濡れた手で、宝石を掴む為に。
指からこぼれ落ちる宝石すらも愛おしい行為に没頭し、私は生きる気力を取り戻しすのです。