カラスの死体を見た。




 黒い爪が、大きなくちばしが、夏の朝の日差しをうけててらてら光っていた。




 あまり気持のいいものではなくって、それが死骸だとわかってからは


 そちらを見ないようにそこを通過した。




 時間が経って帰り道、同じ場所を通ったら彼奴はおらず、

 そこはいつもの風景に落ち着いていたのだ。




 しかし、とてつもない違和感。


 死骸があったという記憶だけが印象として残る。


 


 何だ?何が起きた?




 忘れても良いはずの記憶は、生物としての生命力を逆に強める結果となったのだ。


 居ない、だからこそ強まる存在感。物質化することによる生の断絶。


 誰かが彼奴を抱えてどこかに埋めたのだろうか。自分自身は目を背けたそれを。


 


 息をする事はどういうことだろう?

 他の苦痛を見て己の傷をなめるなど、してはいけないという事を


 今更痛感するなんて、きっとどうかしてる。




 ただ大きなカラスの死骸だけが、こっちを向いて行く手を阻むのだ。


 感情が分別できず、狼狽している。 


 みっともない、わがままな子供みたいに。

 

 いつもなら切り捨てる様々が、喉に痞えて嗚咽に変わる。