【舞台観賞】「ドローイング」(ハグハグ共和国) | ヒトデ大石のなんとなくレポート置場

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2011年8月「ヒトデ大石のどんなブログにしようか検討中。」からタイトル変更。
ライブイベント、舞台観劇のレポートを中心に書いていこうというブログ。
以前はmixiが主戦場だったけど、今はこっちが主戦場(笑)

※この舞台は11/25~11/29まで公演された舞台で、既に終了しています。
 
11月25日以降、ちょっとだけ抜け殻になっていた自分。
理由にいついては……まぁ一つ前の【舞台観賞】のレポートを読んでくれれば、察しはつくと思いますが……。
これまでの自分なら、しばらく舞台はいいや……ってなっていたかもしれない。
 
ただそうならなかったのは、それなりに精神的にタフになったのもあるし、そしてここの劇団は観てみたいと思わせてくれる物があったから……だと思っています。
 
今回、お伺いしたのはハグハグ共和国公演「ドローイング」
ここ数年、ジャングルベル・シアターの次に熱心に足を運んでいる劇団だと思います。
もう今更、この劇団の説明は不要だと思いますが、主宰・久光真央嬢を中心に活躍する劇団で、女性劇団員の割合が高いのが特徴。
今年で15周年を迎え、夏場に「星の王子様 -Love the Life you Live-」を公演したのも記憶に新しい。
 
そんなハグハグ共和国が一年に二度の本公演を実施。
今回はその二本目の公演となります。
夏の「星の王子様」が再演だったのに対して、今回は完全新作。
 
果たしてどのような舞台だったのでしょうか……。
今回の会場は中野MOMO。
前回の大塚・萬劇場から打って変わって、小劇場と呼ぶに相応しい空間で、どのような物語が繰り広げられるのか……。
 
公演終了後につき、ネタばれ有のあらすじから……。
 
 
 
……ある町にある一家が住んでいた。
その一家は袴田家。近所からは通称「バカマ田」家と呼ばれている……。
その袴田家の次男・恒夫(石川健一・以下敬称略)に嫁いだ玲子(伊喜真理)は離婚を、夫につきつけていた。
夫である恒夫の体たらく、そして一家の自由奔放さにほとほと愛想を尽かしたからである。
 
それは恒夫たち兄弟の亡父、七周忌の前日の出来事だった……。
 
やがて集う恒夫たちの兄弟、そしてどっと押し寄せる様々な事情を持った来客たち……。
父の七周忌を境に起こる、不思議な様で、だけど心温まる物語が今、幕を開けようとしている……。
 
 
 
……うん。あらすじらしい(笑)
まぁ序盤はこのような展開で始まる。
舞台の幕が開けた直後に、もう一つシーンがあるんだけど……これの説明は後回し。
 
その後、一通りの登場人物が出てきてダンスを踊る様は、まるでドラマのオープニングか何かを見ているようだった。
この手の演出は毎回、うまいと思う次第。
前回のように映像や、大道具で手の込んだ舞台も魅力的だけど、このような限られたスペースを利用して何かを展開するのも見ていて楽しいと感じます。
 
あらすじにある通り、この物語の軸となるのは「家族」
父の七回忌をキッカケに色んな物が動き出す。
久々に集合した袴田家の面々に、続々と押し寄せる来客たち……CS放送のグルメ番組のクルーたち、出版社の編集、金融会社の社長、謎の「ママ」、そして……弁護士とその秘書。
袴田家の面々は、次から次へと押し寄せる来客によってもたらされる怒涛のような展開に翻弄され、やがて袴田家にとって最も衝撃的な展開が待っている……。
 
前半は明るく楽しい、けれどハチャメチャな袴田家の皆様を中心とした展開が待っている。
これはどこか一昔前のホームコメディドラマを観ているような錯覚に陥る。
どこか今の日本が忘れかけているような風景がそこには広がっている。
 
それが転換するのが中盤。
弁護士・真柴(下平久仁子)と、その秘書・津川(真宮ことり)が持ってきた、父の遺書、そして父と……失踪したはずの母の「エンディングノート」を持って現れた場面から物語は一気に動き出す。
 
既に亡くなった父の事を想う過程において、そして自分たちを捨てたと思っていた母の存在を意識する事で……袴田家の中で静かに感情が揺さぶられ、動き始める。
そして物語は意外な展開を見せ始め、やがてそれは大団円に収束する……ように見えた……。
だけど最後の最後……冒頭のシーンを彷彿とさせるような最後がそこに待っていた……。
 
公演時間は大よそ1時間30~40分程度。
今回の「ドローイング」は、今夏の「星の王子様」と比べて出演者の数も半数程度だし、劇場の規模もかなりコンパクトになった。
このように全く異なる規模で、また全く趣が異なる内容……にも関わらず、ハグハグ共和国ならではテイストがそこには散りばめられていました。
 
この劇団の作演出は主宰でもある久光真央嬢。
同じ人が書いている作品だから、彼女「らしい」物語に仕上がるのは当然の流れ。
しかし「星の王子様」と「ドローイング」……物語の内容であり、根底にあるテーマは全く異なる。
それでも彼女の書く物語は……そう例えるなら「血が通っている」と感じる。
登場人物が一人、一人に、ましては端役ともいえるポジションの登場人物にまでが活き活きしている。
 
これはハグハグ共和国の作品の特徴と言っていいかもしれない。
それ故、人間の深い部分まで、時にはえぐるような感覚で描けるのだと思います。
今回の物語もその例に漏れず、登場人物一人、一人が時には自分の中の内面と向き合う場面が多々見受けられます。
 
唯一らしくない部分があるとすれば、ハグハグ共和国の舞台にしてはハートウォーミングな内容に終始していた事でしょうか。
しかしそのらしくない部分ですら、味を感じさせるものでした。
逆にここまで暖かい物語を書く事に終始しようと思えば出来るというのが、今回証明されたので、久光嬢の物語の世界観の幅広さが出たと思います。
 
 
 
 
さて出演者について語りたいのですが、今回、皆様、魅力的でしたねぇ。
 
まずは物語の主人公たちとも言える袴田家の皆様。
玲子を演じた伊喜真理嬢。すっかり劇団の看板女優になりましたなぁ……。
今回の玲子という役、袴田家に嫁いできた立場という事で、彼らの中では唯一の常識人という立ち位置だった。
序盤こそ離婚寸前だった故、袴田家に対する不満をぶつける立場だったのが、袴田家の置かれた衝撃的な展開を前に「母性」を発揮する。
夫である恒夫を、そして嫁いだ先の袴田家を誰よりも暖かく包み込むその姿が良き妻であり、ある種、良き母でした。
いや……こんな奥さん欲しいわ(爆)そしてそんな嫁を困らせる恒夫は許せないわ(爆)
 
そんな袴田家の次男・恒夫を演じた石川健一氏。
まさに絵に描いたようなダメ人間を見事に演じました(笑)
劇中だけでも妻に逃げられそうになる、小説家だけど〆切りから逃げようとする、借金してしまうなどなど……もうダメ人間のオンパレードです(笑)
だけどどこか憎めない……そんな旦那を演じ切りました。
とにかく彼に玲子さんは勿体無いです。ええ、勿体無い(笑)客の立場ながら微妙な嫉妬を覚えるくらい、羨ましいダメ人間っぷりが最高でした。
 
長男・亮介を演じた北川コヲ氏の「あんちゃん」ぶりは安心して観ていられたし、長女・こずえの月野原りん嬢は安定感抜群の突拍子の無さが良かった。
三男・晴彦の中村和之氏のキレの良さは秀逸。長女の娘・朝日の金濱千明嬢のどこか人懐っこいところはかわいらしかったです。
 
でもこの袴田家の皆様を見ていると、どこか日本のどこにでもいるようで、でも最近は見かけなくなった家族の姿が再現されていたなぁ……そう思う訳です。
 
それ以外の皆様もいい個性の皆様が揃ってますが……。
今回、客演の女性陣が皆様、美人揃いでいいんですよ(笑)
 
CSテレビ班のディレクター・三笠を演じた足立涼子嬢、AD・里中を演じた木原美紗樹嬢、弁護士の秘書として出てきた津川演じた真宮ことり嬢……皆さん美人さんで演技上手かったですなぁ。
個人的には途中からアイドル的立場に転進した里中の木原美紗樹嬢が個人的一押し!(笑)
だけどグルメレポーター兼アイドル・寺西(まみたん)を演じていた鈴木啓子嬢の幅の広い演技も個人的に好き。(前回、涙腺を誘うような少年役だったのになぁ……)
 
でもハグハグ共和国の女優陣も負けてない!
三男・晴彦の恋人だった……はずの相川演じた窪田悠紀子嬢の色気はたまりませんでしたし(照)
編集・富沢りりか演じた宇田奈央子嬢はもう自分がメチャクチャ大好きな演技してました。衣装のチョイスももろ好み(爆)早口言葉、大変だったと思いますが(汗)
そして物語の随所、随所で存在感を発揮した、玲子の母・紺野真昼を演じた戸塚まるか嬢も忘れてはいけない。彼女もある意味、玲子とは違った「母性」の塊でしたからねぇ……。
 
あと脇を固めた男優陣、CSテレビ班のカメラマン兼放送作家・的場を演じた小松聖矢氏の軽い感じは実に小気味よく、花園金融社長・花園を演じた山下徳久氏の硬軟使い分けた好演も光っていた。
 
……でも今回、なんといっても一番の存在感を発揮したのはこの方……下平久美子様(敢えて「様」です)ではないでしょうか!
彼女は当初、弁護士・真柴美夜として、秘書の津川に紹介される。
だけど弁護士というのは実は嘘で、その正体は……なんと袴田家を25年前に出て行った、袴田四兄弟の母・加代だった!
正体が明かされる前から、そのような描写は随所に見受けられたので、彼女の正体自体は実は予想通りだった。
しかしその存在感はまさに圧倒的……いや威圧的とかそういうのではない……その雰囲気がまさに母親のそれ、そのものだったのだ……。
だが彼女自身、実は痴呆が進行していて、孫にあたる朝日を長女・こずえと思い込んだり、長男・亮介に亡き夫の影を重ねるなど……観ている側としてはどこか寂しさすら感じた。
だけど下平さんはそういう悲愴感は一切、演技に出さず……ただ25年前の過ぎた月日を、現在に重ね合わせて生きている、そんな姿を見せてくれました。
 
25年前、家を出て行ったはずの母……それを覚えている上二人(長男、長女)と、それすら覚えていない下二人(次男、三男)のどこか葛藤めいたものが後半の一つのポイントでした。
許せる部分と許せない部分、忘れたい部分でもあり、そうでない部分でもあり……彼女の存在が袴田家に与えた影響は絶大でした。
だけどそんな彼らの心情を大きく、大きく動かしたのは、袴田家特性「甘い麦茶」であり、加代なり、玲子なりの「母性」だったのではないでしょうか……。
 
この舞台にもう一つテーマがあるとすれば、自分は「母性」だったのではないかと思っています。
それを表現するために必要だった、唯一袴田家に欠けていた、唯一無二の存在……それが加代という人物ではないかと思います。
本当に下平さん無くして、この舞台は完成しなかったと思うくらい、とても素晴らしい存在感を放っていました……。
 
 
 
こうして舞台「ドローイング」を観終えた後、自分の心がほっこり暖かくなっているのを感じました。
そういえば最近、実家に帰っていない自分……どうせ年末年始は帰れないので、近々帰ろうと思わせてくれました。
 
でもこうして舞台を観て、まだこんなに暖かい気持ちになったり感動する事が出来るならなぁ……もうちょっと、舞台を観に行く事を続けてもいいかな。
そう思わせてくれました。
 
ちなみに「ドローイング」の意味。
製図など、線を引くという意味があります。
この物語は一つの家族の物語という言わば……長く続く線を引かれていく様を描いた作品なのかなぁ……解釈はこれでいいかわかりませんが(笑)
そんな事を思ったりしました。
 
・ハグハグ共和国・公式サイト↓
http://hughug.com/index.html