今回は珍しく、終演後に舞台観賞レポートを執筆します。
という事で、昨日まで一週間に渡り公演されていた劇団ジャングルベル・シアターのギャラリー公演「続々・おとぎ夜話 寿」の様子をレポートいたします。
会場は毎度お馴染み、神保町・ART SPOT LADO。
定員は40名程度。前の方は何故か銭湯でお馴染みケ○ヨンの椅子が用意されていたりします(笑)
とにかく普通の舞台だと開演まで、劇団員の皆様って楽屋にいて我々客の見えないところにいたりするのですが、この公演は例外でほぼ全員見当たります(笑)
劇団員の皆様が親切に席を案内してくれたり、座布団を用意してくれたり、色んな意味で至れり尽くせりなんです。
まぁこうして一見すると、和気藹々、アットホームな雰囲気なのですが……そんな中にも劇団員の皆様の表情を見ていると、緊張した面持ちを見せる場面もあったりして……。
そういう意味では、普段我々、一般の客層が触れる事が出来ない、本番直前の劇団員の緊張が伝わってくるので、いつもの観劇とは違った気分にはさせられますね。
そんなこんなで定刻になると、主宰・浅野泰徳氏のご挨拶が始まります。
もうすっかりお馴染みですが民俗学についての簡単な説明から入ります。
そして今回の題材となっている七福神の説明も簡単に入ります。
こうして毎度お馴染みの流れを経て、いよいよ本編開始です。
今回は公演終了後につき、簡単なあらすじを完全ネタバレモードで紹介します!(笑)
さてあらすじの前に一つ説明、この「おとぎ夜話」シリーズは大まかなストーリーと三本のオムニバス形式で進行します。
今回はその進行に沿ってあらすじを説明いたします。
川端諸子(野上あつみ・以下敬称略)は民俗学を専攻する大学生。
地蔵を専門としている事から「地蔵の諸子」と呼ばれている。
しかし先日、自費出版で本を出そうとしたところ詐欺にあってしまう。
(詳細は川端諸子が登場している作品「河童の水際」にて詳しく書かれています)
この一件で人間不信、自己嫌悪に陥った諸子。
自分が民俗学にハマっているのが騙された原因と思い、自分の性格を直すため古本屋のバイトをやめ、居酒屋のバイトを始める。
しかしその居酒屋のバイトも続ける自信が無くなり、ある日やめようとした時の事である。
大学の先輩で店長の片岡(神田英樹)にやめる事を言い出そうとするが、結局言えなかった諸子。
すると突然、厨房の置物に足をぶつける店長。しかしその置物と思われたのは、地蔵にも見える石像。
その石像は七福神の福禄寿と寿老人が、一つの石から削られているものであった。
この石像を巡って、話は動き出す。
・第一話「ふたりぼっちの神様」
店長・片岡が幼少の頃に聞いたという福禄寿と寿老人の話である。
……昔、まだ若かりし福禄寿(大塚大作)はある日、船を作って、世界中の不幸な人間を幸せにする旅に出る決意をする。
しかしいい船の名前が決まらず70年。たまたま通りかかった寿老人(本多照長)が「宝船」という名前を提案する。
この船の名前を気に入った福禄寿は、最初は嫌がる寿老人を100年かけて口説き落とし、二人は世界中を旅する事になる。
途中、ひょんな事から弁天(塚本善枝)を仲間に加え、三人となった一行は世界中の困っている人を幸せにする旅を続けた。
そんな折突然、寿老人が故郷に帰ると言い出す。福禄寿、弁天の説得にも関わらず、結局、寿老人は船を降り、そのまま帰らなかった。
二人になった福禄寿、弁天はしょっちゅう喧嘩をしていたが、今度は福禄寿がある矢文をキッカケに船を降りる事になる。
強がりながらも寂しそうな弁天に、福禄寿は全然似ていない福禄寿と寿老人の似顔絵を弁天に渡す。
「寂しくなったら、その絵を空にかざせ。きっと奇跡は起きる」と言い残し、そのまま福禄寿も船に戻ってこなかった。
一人残された弁天は女手一つでまともに船を動かす事も出来ず……そしてふと福禄寿が残した二人の似顔絵を空にかざした……すると……。
……そんなジャ○プよろしくな話(笑)さすがにオチまでは言いません(笑)
店長が昔聞いた話に、某有名週刊誌連載漫画(笑)の知識がこんがらがった状態で紹介したので、妙に面白おかしくなった(笑)
だが突然現れた石像に心魅かれる諸子。
気になって気になって石像を調べていると、二体の真ん中に彫られた「キク」という文字を見つける。
そこで大学の戸沢教授(西村太一)の元を訪れた諸子。
民俗学に詳しい教授なら、この石像について何か知っていると思い聞いてみるが、思い当たる節は無い。
すると石像のあった居酒屋の場所を聞いた教授は、以前、この居酒屋が洋食屋だった時の事を思い出し、当時の名物料理「アルゴライス」の思い出を語る。
そこで思い出したように、その洋食屋にあった本を思い出す。
・第二話「キク」
戸沢教授が読んだという、この地方に伝わる話という。
昔、ある国にキク(升田智美)という未来を予知できる姫がいた。
キク姫の予知のおかげで国は栄えたが、父である領主(竹内俊樹)からも溺愛された。
一方で彼女がこの国からいなくなる事を恐れ、この国を出ようとすると蛇の呪いがかかると言って、国を出ないよう諭した。
そんなある秋の朝、大国の船団が嵐に巻き込まれ、浜辺に漂着する。
船団の水先案内人・ヒョウタ(西村太一・二役)は金銀財宝を差し出し、国への逗留を願い出ると領主もあっさり了承した。
しかしこの一連の出来事は事前にキクの予知で、領主たちには周知の事実で、誰一人慌てるものはいなかった。
だがキクはその先の予知までは話していなかった。それはなんと自分がヒョウタという男と恋をして、一緒に国外に逃げるというものだった。
最初はその予知を信じられないキクだったが、やがてヒョウタとの距離は近づき、ヒョウタが帰国する前日に遂に結ばれる……。
そしてヒョウタはキクに「嫁になれ」とプロポーズする。一瞬、我に返って予知があたる事を危惧したキクだったが、それを受け容れる。
キクは自分の今までの生い立ちや、予知能力、蛇の呪いなど全てを話し、ヒョウタと共に逃げる事を画策する。
そこでヒョウタの乗ってきた沖に停泊している船に隠れるため、浜辺にある小船にキクを乗せ、ヒョウタは沖を目指して漕ぎ出した。
船まであと少しのところで……突然小船が止まった。そして水を見たら小さな蛇が小船に噛み付いていていた……。
すると小船は突然、大きく揺れ出して、浜辺へと引き寄せられ……。
……そんな怖い話。これも最後までオチは言いませんが、ヒョウタとキクに待っていた運命は……。
しかしこの話を聞いて違和感を覚える諸子。
するとこの話のある部分の矛盾に気付き、外国の話の翻案では無いかと推理する。
(※翻案……海外の話が日本の話にアレンジされる事。明治初期から昭和初期にかけて行われていた)
そして戸沢教授はこの話がギリシャ神話「カノープス」に似ている事に気付く。
更にカノープスは星の名前にもなっており、中国の三星信仰(中国の民間宗教の一つ)では寿老人を現す南極老人星と同一の星を示す……。
このヒントを得て有頂天になる諸子。自分の閃きが石像の謎を解くヒントになった事を片岡に自慢するが、それがキッカケでバイトを遅刻して怒られてしまう。
「自分の仕事を疎かにするような人間に民俗学をやる資格はない!」
そう諸子に吐き捨てる店長は、更にこの石像を翌週土曜の粗大ゴミで捨てる事を宣言する。
だがこの一言で自分の愚かさ、そして民俗学が好きな気持ちに気付いた諸子は必死に調べた。
そして翌週の金曜日、いつもより早くバイト先を訪れる。
店長に「キク」というのは、亡くなったこの店の先代オーナーである事を説明し、更にこの石像にまつわる話、そしてこの店の歴史にまつわる話を語る……。
・第三話「カノープス」
先代オーナー・キクちゃんこと、鈴木クミの話をまとめた内容として紹介されている。
舞台は戦前の日本。東京の名門ホテルで初めて洋食を口にした、鳩川コウタロウ(浅野泰徳)は感動する。
そして料理長であるギリシャ人・カノープス(福津屋兼蔵)をその場で口説き、地元に招こうとするが相手にされない。
その後、一ヶ月に渡り鳩川はカノープスを口説き続ける。
そしてその熱意に折れたカノープスは、鳩川と共に洋食店を開く決意を固める。
こうして二人で始めた洋食店は大繁盛。開店時に取材した事がキッカケで地元の新聞社に務めていたキクちゃんこと鈴木クミ(松宮かんな)はいつの間にか常連となり、更に普通に店を手伝うまでになる。
当初は店の手伝いの後、趣味の一貫でカノープスからギリシャ神話を聞きだすのが目的だったが、みるみるうちに料理の腕前も上がりカノープスのお墨付きももらうまでになる。
何もかもが楽しくて順風満帆に思えた……しかしそんな日々は突然、終わりを告げた。
ギリシャ内戦が勃発してカノープスが帰国すると言い出した。
必死に止める鳩川、そしてキクちゃんだが、最後はカノープスの必死の訴えに鳩川が折れた。
カノープスが帰国して一年後……残った二人の元には、カノープスが亡くなったとの知らせが届いた。
やがて残された二人、鳩川とキクちゃんは結婚し一人娘を授かるが、日本もまた戦争に突入する。
そして鳩川もまた……。
……と、この後で一気に全ての問題が解決しますが、これでもかなり端折っています。
もっと細かく書いてもいいのですが、そうすると既にあらすじではなくなってしまいますし、もっと長文になります(笑)
ってか、もう現時点で8割方、大まかなストーリー書いているから、あらすじではないような気がします(笑)
でもこれくらい説明しないと、どんな話だったのか伝わらないし、このギャラリー公演独特の謎解きも面白くありません。
ただもっと詳しい話を聞きたい方は、もう直接劇団員の方にでも聞いて下さい!(笑)
一つ言えるのは、この話、かなり完成度が高いです。
三つのオムニバス形式の話が、最後にはきちんと一つの大きな流れになります。
最後まで観終わった時の感動と、謎が全て解けた時の爽快感が凄いです。
これ映像化しないんだよね……勿体ないなぁ。
さてここからは出演者について語りたいと思います。
実はここを出演者の方は一番、気にしているかも(笑)
[ナビゲーター]
・野上あつみ
川端諸子役。「河童の水際」でも演じ、昨年の「続おとぎ夜話」に続きスピンオフの主人公に抜擢。
彼女自身、この役をやるのは今回で4度目(「河童の水際」は2006年、2010年と二回公演しているので)ですが、ハマり役と言って間違いない。
今回は特に今までの諸子には見られない程、激しい感情表現を見せるシーンもあり、ただの面白おかしなキャラだけじゃなく、迫力も兼ね備えていた。
見事なまでのナビゲーターにして、主役としての面目躍如!お見事でした。
・神田英樹
居酒屋店長、片岡役。ジャンベルにしては珍しく普通の人間役(笑)
タオルを頭に巻いて、エプロン姿の店長の姿が様になっていた。
諸子にとっては先輩であり、また時にきつく叱咤する様子はまさしく兄貴分としての貫禄を備えていた。
熱くて清々しい役回りで、今までに無い一面を見せてくれました。
[第一話]
・本多照長
主に寿老人役。ジャンベルが誇る「歩く存在感」(笑)
本当に役を特に作りこまなくても、ただそこにいて普通に話すだけで絵になるのは、さすがだと思います。
そして時々見せる便乗させられた熱さには妙な共感力があるし、エロ親父な一面(笑)もどこか憎めない。
ちなみに今回、入場時の前説も担当。色んな意味でお疲れ様でした(笑)
・大塚大作
主に福禄寿役。とにかく色んな意味で会場を熱くするホットコーナー!(笑)
登場時から超がつくほどのハイテンション、そして熱さを通り越した暑苦しさ(笑)で会場をとにかく熱くした!
いちいち全ての言動がうざい(失礼)んだけど、終盤には何もかもが許せてしまうので不思議です(笑)
第一話最後に三人で並んでいる時、一人だけ汗の量がダントツに多かった。その汗が彼の熱演の全てを語っていた。素晴らしかった。
・塚本善枝
主に弁天役。ジャンベルでは久しぶりに自身の等身大に近い役柄を演じたのでは無いでしょうか。
熱い大塚氏と、ほんわかしている本多氏の間でうまく立ち回って、かわいらしい弁天を演じていたのが印象的。
前半部分は主に語り部ですが、その語る時の表情がとても優しく、色んな意味で一番自然体で見ていて安心できた。
相変わらず表情の作り方は秀逸。彼女の顔を見ているだけでも、きっと飽きないだろうし……ときめいてしまう(照)
[第二話]
・西村太一
戸沢教授役とオムニバスの話の際はヒョウタ役を演じる。
戸沢教授とヒョウタという、全く異なるキャラをその場で演じ分けており、その切り替えの早さには感心させられる。
ジャンベルでは主役級が多い彼ですが、他の登場人物を引き立てる脇役としての立ち回りの上手さも光った。
特に第二話は今回、初出演組が揃っていたので、いい意味でこの時の場を仕切っていたと思います。
・竹内俊樹
主に領主役。裏設定は大学の演劇研究会の部員(笑)「おとぎ夜話」シリーズには珍しい客演。昨年の「河童の水際」以来の出演。
領主の狂気にも似た表情の数々と、あの話し方は恐怖そのもの。見てて背筋が凍った。
今までの「おとぎ夜話」シリーズ、最も怖い役を演じたのでは無いかと思います。
最後は「単位お願いします」と言って去る事で、恐怖が中和されたけど、あれが無ければ本当に怖い人で終わっていた……。
・升田智美
主にキク役。過去に客演経験があり、今回からジャンベル劇団員として加入。
神秘的な雰囲気を見事なまでに表現。その儚さにも似た美しさに言葉を失った……。
台詞の一つ一つから、細かい仕草に至るまで、本当に美しくて見入ってしまいました。
これはとてもいい劇団員が加入しましたね……次回作が今から楽しみで仕方ありません。
[第三話]
・浅野泰徳
主に鳩川役。劇団の主宰にして、このシリーズを始めた張本人(笑)
今回も浅野節炸裂(笑)前半のコミカルで軽妙な笑いを取る演技の数々と、後半に見せるシリアスな一面のギャップは浅野氏ならではの持ち味。
熱いけれど、どこか不器用な古き良き時代の昭和の男を見事に演じていました。
最後の「俺たちのアルゴー船は沈まないんだ!」と叫ぶシーンは圧巻……目頭が熱くなった。
・福津屋兼蔵
主にカノープス役。今回は当初パンフレットに名前が無いから出ないと思ってました(笑)
今回はまさかまさかのギリシャ人役。まぁ台詞回しは多少大袈裟としても、紳士的な立ち振る舞いは見ていて本当にギリシャ人に見えてくるから不思議。
インパクト勝負でなんでも出来る人だとは思っていたけど、また今回更にすごい引き出しを見せてくれたと思います。
男の友情を見事なまでに演じきりました。カッコよすぎです。
・松宮かんな
主に鈴木クミ(キクちゃん)役。ジャンベルが誇る「ジョーカー」
好奇心旺盛な若々しい女性を演じてましたが、こういう役回りも出来るところに彼女のプロフェッショナルな一面が垣間見えます。
前半の楽しそうな雰囲気から、後半の見ていてこちらが寂しくなるくらいの雰囲気まで、オーラの出し方が違う。
何をやらせても凄いけど、誰にも代えは務まらない……まさに「ジョーカー」そのものです。
今回の配役は非常にうまくハマったと思います。
この三話に配置された、それぞれの三人のバランスが非常に取れていると思います。
第一話はジャンベルでも中堅ポジションの三人が勢いをつけて、第二話はジャンベルでは新入りポジションを西村氏が中心になってまとまり、第三話はジャンベルベテラン勢が締める。
そして全体を野上嬢、神田氏が全体を動かす形で、一つの大きな話としてまとまった……。
今回のギャラリー公演で一つ、出演陣のスタイルが確立されたように思います。
それくらい今回の公演は会心の出来だったのではないかと私は思います
ま、今回はそんなところですかね。
私自身、今回、一週間の公演機会のうち4回足を運びましたが、4回とも純粋に楽しめたし、また4回とも涙腺がヤバかった舞台は初めてでした。
この一週間は公演を観に行ける日も、また行けない日も、本当に楽しい一週間でした。
また明日から通常営業に戻りますが、再びジャンベルの皆様にお会い出来る日を心から楽しみにしております。
これからもどうか皆さん、頑張ってください。
そしてありがとうございました!
・ジャングルベル・シアター公式サイト↓
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