さて6月の観劇ラッシュ第3弾。
最後に拝見したのは「音無村のソラに鐘が鳴る」という舞台です。
今回のお目当ては浅野泰徳氏。
さて浅野氏といえば、これまでもレポートで何度も書かせていただいておりますが劇団「ジャングルベル・シアター」の座長でお馴染みです。
超がつくほどマニアックな民俗学の知識を背景に、軽妙かつ感動的な作品を数々書いておりますが……。
そんな彼が自分の書いた脚本では無く、今回は客演として出演。
他人の脚本にかかった時の浅野氏が一体どういう演技をするのか……そこが注目ポイントでした。
そんな訳で本編の感想の前に諸々。
まずは会場の下落合・TACCS1179。
確か2年くらい前に一度、訪問しております。
それ以来になりますかね。
まず入口があって、会場が地下にあるのが特徴。
舞台は標準的な広さで席の数も大まかに見て80席くらいはあったような気がします。
自由席だったので自分は真ん中よりやや上手側のポジション確保。
個人的に結構、いいポジションだったと思います。
なおそんな舞台ですが……中央にはやや高くなっている正方形の台が一箇所。
天井から降ろされている、何枚かの白い布。
そして幾つか配置されている椅子の数々。
これらのセットを上演中、効果的に使われます。
特に正方形の高台は本当にいい使われ方していました。
それでは……公演も無事、終了している時刻なので(笑)ネタバレ有りモードで感想を書きたいと思います。
ってか、この舞台はネタバレが多少あった方がいいと思う。
簡単なあらすじ。
今よりほんのちょっと未来の話。
宇宙開発ははやぶさが小惑星イトカワがサンプルを持ち帰った事により、更に宇宙における開発が進み、なんと火星において燃料資源が見つかるという事態にまで発展した。
こうして宇宙開発は各国、競争が進み、中には民間宇宙開発団体も独自で人工衛星を打ち上げるような時代になっていた。
そんな折、音無村に存在する音無宇宙開発局に宇宙飛行士(自称)として新田(露敏・以下敬称略)がやってくる。
堅物の局長・児玉(内堀優一)も含め、僅か5人の開発局。
しかもこの開発局は無人の人工衛星しか作っていないため、早くも宇宙飛行士になりたい新田の夢は頓挫したかに思えた。
だが折しもスポンサーである竹山重工グループから有人ロケットの作成の着手を命じられる事になり、宇宙飛行士候補生・伊倉さなこ(佐渡那津季)が音無宇宙開発局に加わる事になる。
最初は予算的に無理な話だったが、スポンサーの無茶な要求の背景をメンバーが知るにあたり、意地を見せて有人ロケットを作り上げる。
しかしロケットは完成したものの、打ち上げは国連で成立した法案の前に打ち上げが出来ない事態に。
万事休すと思われたが、そこは局長・児玉が許可を取り付け、打ち上げの許可が下りた。
さぁ今度こそ……と思われた矢先、さなこが世界をにぎわす無血テロリスト「佐藤」の嫌疑がかけられ警察に連行されてしまう。
そして更にはテロリストの標的となっているとの理由で、自衛隊が打ち上げの許可をおろしてしまう。
果たして有人ロケットは無事、打ち上げる事が出来るのか。
そして無血テロリスト「佐藤」とは……その目的とは!?
……と、大体、こんな感じのあらすじ。
結構、中盤までのザックリとしたあらすじなので、殆どの登場人物について触れていない。
だけどこの舞台、登場人物のアクが強い。
音無宇宙開発局のメンバーが皆、凄腕の上、端役であるはずのキャラですら大活躍する舞台です。
舞台背景が結構リアリティがある割には、キャラクターのぶっとび具合がなんとも言えない(笑)
東急ハ○ズの部品だけで成層圏に達するロケットを作れてしまう技術部・松尾(玉井勝教)とか(笑)
アルバイトで未だにヒーローを目指す38歳(笑)だけど、電気を自在に操るデンキマン(浅野泰徳)とか(笑)
作・演出も手がけた内堀優一氏がライトノベルを手がける小説家であるので、ここまで作りこんだ世界観に、ここまでぶっとんだキャラクターを持ち込めたのかと思います。
ここの融合は見事としか言いようが無いです。
とにかく前半はコミカルかつ、どうでもいいような感じで話しが進んでいった。
しかし中盤から後半になるにつれ、ぶっとんだキャラクター達による、有り得ない活躍を盛り込み笑いを随所に誘いつつも、最後は一つの目的に向かって一致団結する姿は観ていて感動した。
正直、涙腺緩みました。危なかったです。
これは私個人の所感なのかもしれないけど、宇宙にかける者たちの強い想いが、一つの感動の集合体になったと思います。
やっぱりね……好きな人にとって、一度は宇宙って絶対憧れる存在なんです。
それにかける想いを、有人ロケットに託して、それぞれがそれぞれの想いを乗せていく過程が素晴らしかった。
本当に素晴らしい作品でした。
気になった出演者でも。
基本的に音無宇宙開発局のメンバーを演じた皆様は良かった。
内務主任・村井を演じた青木隼氏、技術部・松尾を演じた玉井勝教氏、プログラマー・久留米を演じた高橋雄一氏。
アクが強すぎる三人だけど、それぞれがそれぞれの個性を打ち消しあわないで成り立っていた。
純粋に演技という意味では、吉田を演じた家紋健大朗氏か。
吉田は最初、竹山重工の会計係にして、局長・児玉の元教え子という敵対する立場で登場しますが、後半からは開発局をサポートするメンバーとして活躍します。
その前後の変わり映えが見事でした。正直、前半と後半で同じ人物が演じる、全く違うキャラ(笑)
それを難無く使い分けたところに力量を感じました。
また伊倉父を演じた、飯田真二氏も出番は少なめですが、いい親父の演技をしてました。
完全に娘を思う、良き親父を演じてましたよ。やっぱり彼の設定もとんでもないけど(笑)
その娘・伊倉さなこを演じた佐渡那津季嬢も、最初どこか堅苦しい、よそよそしい感じだったけど、後半になるにつれ素直な感情を表に出すようになっていく過程は素敵だった。
まさにヒロインは彼女だったなぁ……って最後は思えました。
でもやっぱり一番、カッコ良かったのは新田を演じた露敏氏でしょう。
正直、今回の登場人物の中で一番か二番目くらい(笑)に不自然な存在でした。
でもこれが計算されて演じた不自然さなら、見事にそれを演じきったと思います。
さて何故彼が不自然だったか?……これは実際、最後まで観た人なら分かると思いますが、敢えて伏せましょう。
ちなみに彼が一番最後に登場したシーン。本当に何気無いシーンなんだけど、あれで涙腺緩みかけた。
自分がもしさなこなら、間違いなく泣いている(笑)
でも……ここはやっぱり浅野泰徳氏もあげないとね。
さて彼が演じた役は「デンキマン」(笑)
音無宇宙開発局の近所にある中華料理屋のアルバイトで、ヒーローを目指す38歳という設定(爆)
相方の血吸いコウモリ(芝田遼)と共に、日々アルバイトとして生活しているが……。
一見すると(いやしなくても)ただの痛い人(笑)
ツッコミどころ満載どころか、血吸いコウモリ共々、ネタキャラのポジションなのだが(笑)何故か後半大活躍。
しかもかなり重要なポジションで!(笑)正直、ラスト直前のとあるワンシーンはデンキマンのためにあったと言っては過言ではない!
こんなに不自然な存在感なのに、こんなに大活躍するって一体どういう事!?(笑)
ただし浅野氏が取ったのは、ほぼ8割方笑い。
実はシリアスなシーンはほぼ皆無じゃないかってくらいの暴れっぷりだったのに、ストーリー上大活躍!(笑)
……いやぁ……浅野氏はこういう役どころ、結構自分が好きで演じるような気はしますけどね。
だけどジャンベルで見せる、竜胆丸平四郎などとは絶対に一線を画してます。
とにかく浅野氏が他の人の脚本や、演出に染まるとこういう感じになるのか……。
ジャンベルの浅野氏とは違った、役者・浅野泰徳氏の一面を垣間見た感じがしました。
上演時間は1時間50分から2時間くらいでしょうか。
若干、長かったかもしれません。
しかしストーリーの展開が中盤から一気に締まってくるので、最後まで飽きずに見る事が出来ました。
多分、自分が上半期で観た中では「悟らずの空」と双璧を成すくらいの良作です。
DVDが発売されたら、買う価値あるかもしれません。
観劇3連発の締めに、本当に最高の作品でした!
ありがとうございました!
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