今回お伺いしたのは「深川とっくり座」という劇団の公演。
この劇団の特徴は主に古典落語をもとにした芝居を創作し上演しているという事。
つまり扱う題材は下町の庶民にとって馴染みのあるものばかり……という事ですね。
活動拠点は江東区。
激場以外でも老人ホーム、学校でも公演を行い、地域に根ざした活動を展開しているようです。
さてそんな劇団の今回は番外公演という事なのですが、まず会場までの道程が面白い。
会場にたどり着くまで、「砂町銀座」という商店街のど真中を突っ切るんですが、あまり広くない幅の道の両脇に下町ならでは店がいっぱい(笑)
いかにも下町風情が溢れる、情緒ある商店街がそこには広がっていました。
そして今回の会場は江東区砂町文化センター……まぁぶっちゃけ公共施設です。
そこの第1研修室を借り切っての公演なのですが、最近、小劇場に慣れていた自分としては却って新鮮でした。
小学生時分、よく公民館に劇団とかがやってきて児童向けの演劇とかしていた事ってありませんでしたか?
そういう感覚を思い出しました。なんか妙に懐かしい感じがしました。
だから受付も普通の長机ですよ(笑)
ある意味、手作り感いっぱいでなんかワクワクしてきましたね。
さてそんなこんなで受付を済ませ、中に入ろうとしたら、「大石さん?」と……一人の女性が話しかけてきました。
一瞬誰かな?と思ったけどHNを言われてビックリ!
まさかこんなところで再会するとは思いませんでした。5年ぐらい……いやもっと前から、それくらいぶりでしたから。
彼女から名前出していいのか許可を得ていないので、ヒントだけ出すなら……椎名さん関係の知り合いです(笑)
椎名さん関係者、気になるなら自分にメッセージを送って確認してください(笑)
そんな訳でたまたま自由席で隣同士になったので、軽く近況を話したりしましたけど、いやー……本当に懐かしかった(笑)
さて話が逸れましたので本編へ。
もう公演が終わったので、ネタバレ全開モードで書きたいと思います。
まず今回の「丹青の網とり嫁とり命とり」という公演名ですが「丹青」というのは、この劇団の主宰・ひぐち丹青氏の事を指します。
彼が脚本・演出をしているので、頭に「丹青」とつくのですね。(過去の公演も殆ど「丹青の」が枕詞のようについております)
今回の公演は「網とり」「嫁とり」「命とり」という3つの話のオムニバス形式になっております。
さてこの3つの話、元ネタはどれも古典なのですが……さぁどういう形になっているのでしょうか。
・「網とり」
最初は落語「網とり魚」を舞台化した江戸喜劇。
この劇団が最も得意とし、また定番としているネタとなります。
内容を知らない人のために簡単に説明すると……浮気者の商家・徳兵衛(ひぐち丹青・以下敬称略)は遊女のところに遊びに行きたい。
店を抜け出すため妻・おその(境田真理子)には組合の会合と嘘をついて外出をしようとする。
しかしその嘘を見抜いていたおそのは、奉公の下男・定吉(菊地亜紀子)を連れて行くように徳兵衛に言う。
定吉もおそのから「絶対に張り付いて離れないように」という言いつけを受け、大福3個で了承する。
しかし定吉を振り切りたい徳兵衛は、大福5個で定吉を買収。
もっともらしい理由を考え、定吉を帰す事にするのだが、その理由として網とりで魚を獲り、それを持って帰らせる事にした。
そして魚は魚屋で適当に買っていかせる事にしたのだが……。
オチは言ってしまうと面白くないので、敢えて言いませんが、古典落語の典型例、ここに極まれりという芝居でした。
オーソドックス、かつ王道で楽しかったです。
・「嫁とり」
元ネタはロシアの劇作家・チェーホフの短編戯曲「プロポーズ」
これを江戸時代版に置き換えたのが、この「嫁とり」です。
同じ長屋の隣同士の話。
隣に住むおしげ(植木広子)を嫁にもらおうと、善吉(木場孝一)は彼女の家を訪れる。
おしげの母・おまつ(西由紀美)も喜び、二人きりにしてきちんと話をさせようとする。
お互い好いている者同士の善吉とおしげだが、いざ求婚となると言葉が続かない善吉……。
そこで過去の思い出を引き合いにして、さりげなく自然に求婚をしようとするのだが、そこはお互いを知る隣同士。
いつの間にか思い出話のはずが、おまつも巻き込んだ口喧嘩になってしまい……。
果たして善吉の「嫁とり」の行方はいかに!?……というようなお話。
同じ舞台を観に行った、清水学氏(木場孝一氏と同じ劇団「TAC三原塾」所属)の言葉を借りるなら「ラブコメの典型例」
元はロシアが舞台の話だったのを、うまく江戸版にそして分かりやすくアレンジした作品でした。
途中のドタバタ具合がとても面白かったです。
・「命とり」
この劇団では初の試みとなる現代劇。
しかし元ネタは、とっても有名なある落語。
冒頭のシーンは救急隊の長官・石川(ひぐち丹青)による長い挨拶から始まる。
その話の中で長官・石川は隊員たちに本人確認の重要性を説く。
患者の取り違えを防ぐため例えどんな状況でも、患者となる人の本人確認を怠らないように……と。
一方、とあるバーで同僚たちと飲む高橋(蛯子匡典)
もう三年も一緒にいる同僚・杉下(矢川千尋)から未だに名前が長すぎて覚えきれないと言われてしまう。
それを珍しそうにしながらも興味津々にして聞く後輩の美香(豊川真由)
長すぎる名前故、言い終えるのに10秒近くかかるのだが、それがエスカレートして何故か100メートル走の世界記録より早く言えるように挑戦しているうち高橋が頭痛と胸痛を起こしてしまう。
美香が119番をしたところ、運良く救急隊は現場近くにいてすぐに駆けつけた。
駆けつけた救急隊員の山田(永井一誠)、伊藤(本多照長)は早速本人確認をするのだが……。
「高橋……寿限無、寿限無 五劫の擦り切れ……」
あの「寿限無」を現代版にアレンジした作品。
もし現代にこんな長い名前の人がいたら……という例え話。
正直、とっても馬鹿馬鹿しいけど、これも笑えました。(ただし若干ブラックユーモアですが)
……以上、三本の作品をオムニバスにして立て続けに公演。
ラストは三つの作品に出た全ての出演者総出で劇団のテーマソング「人生はらせん階段2011」(作詞・ひぐち丹青)を歌って踊って無事閉幕となりました。
オムニバスでしたけど、本当に面白かった。
三本合わせて1時間40分ほどだから、ボリューム的にもちょうどよく、またテンポが大変良かったと思います。
客層が普段、舞台を見ないような高齢者層も多かったのが特徴的だったかな。
最近、小劇場を中心に観ていたから、このように肩の力を抜いて観れる舞台というのもたまにはいいかな……なんて思いました。
今回、印象に残った役者さんを上げていきます。
「網とり」では定吉を演じた菊地亜紀子さんですかね。
奉公に出ている少年役だったんですけど、うまかったですねぇ。
女性が演じる少年役のお手本というか、そういう感じです。
あとはおかみさんのおそのを演じた境田真理子さんの貫禄もあれは好き。
「嫁とり」では断然、おしげを演じた植木広子さん。
言い方は悪いですけど、美人じゃないんですよ。でもかわいいんです(爆)外見とかではなく、仕草というか、そういうところが(笑)
善吉が嫁に欲しいと思う気持ちが、後になればなるほど、なんか共感が出来ました。
木場孝一氏は昨年の「かもめ」以来、演技を拝見しましたが、このようなチャキチャキな江戸っ子が出来るのは新鮮でした。
また彼が所属している「TAC三原塾」はロシア文学の戯曲を演じる事を主体とした劇団です。
今回、チェーホフの戯曲を江戸版にアレンジするにあたり、元の作品に精通した人を起用したかったと思うのですが、そういう意味では彼ほど適任はいなかったと思います。
だから江戸っ子でありながら、作品に対する理解は誰よりも深かったのではないか……そう感じながら、拝見してました。
「命とり」では救急隊員、山田を演じた永井一誠氏と、伊藤を演じた本多照長氏。
何かポイントがずれた救急隊員っぷりが、あまりにも絶妙過ぎました。
本来、緊迫感のある現場のはずなのに、何故か妙に緩い空気が流れたり、緊迫するべきポイントがおかしかったり……実は主役はこの二人?と思えるくらいの暴れっぷりでした(笑)
特に本多氏は所属劇団「ジャングルベルシアター」でも見せている、あの憎めないけど、どっかずれているキャラクターが更にパワーアップしていたような(笑)
ヤバイねぇ……今回、本多氏の本気を観ちゃった気がするよ(笑)
それとやっぱりひぐち丹青氏ですかね。
まぁメインは「網とり」の徳兵衛でしたけど。
一番うまいと思ったのは「命とり」の長台詞でかんでしまったのですが、そこですら会場の笑いに変えてしまったところ。
不可抗力だったかもしれませんが、良かったと思います。
ただ若干、不満点も……。
暗転が少ない舞台ではありましたが、どうしても会場が真っ暗になりきらなかったのが残念でした。
薄っすらと見えてしまうのは、あれはいかがなものかと……。
窓からの光を完全に遮断する術は無かったもんでしょうか?
それと実は公演の最中に携帯電話の着信が鳴りました。
自分たちが観た回だけだったかもしれませんが、マナーとしてなっていないというかそういうのが残念でした。
通常、開演に先立ち、そこは諸注意でお願いするところだと思うのですが、そういう注意は無かったですね。
細かいところですが、そういうところまで気を遣って欲しかったというのが本音です。
今回は番外公演でオムニバスで三本立ての舞台でしたが、8月には本公演があるとの事。
一本の長い舞台を今回は拝見していないので、機会があれば拝見したいけど、時間があるかどうか……。
まぁそんなところで締めたいと思います。
・深川とっくり座・公式ホームページ↓
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