……なんだろう。
今日が楽しみなはずの公演初日なのに、何故か燃え尽きた気分だ(笑)
個人的に塚本善枝嬢応援企画として、また彼女の所属劇団ジャングルベル・シアター応援企画として一方的に始めたこの企画(笑)
手元にある「ジャングルベル・シアター」のDVDを見直して、気分を盛り上げるつもりが何故か燃え尽きている(笑)
でも……それだけ名作揃いなんですよ。
その中でも思い出深い一本を最後に紹介いたします。
2009年秋公演「サラマンドラの虹」
第21回池袋演劇祭に出展して、豊島新聞社賞を受賞した作品です。
一年半前の秋……塚本善枝嬢と知り合う、本当に直前の頃の作品。
実はこのDVDが初めて購入した「ジャンベル」のDVDでした。
パッケージにも日付と塚本嬢のサインもしっかり書いてある。
当時の彼女は「このDVD観たら、この舞台の裏話でもしてあげる」なんて言っていたので、話のネタにでも思い購入したのですが……。
この作品を最初に観た直後、涙が止まりませんでした。
そしてどうしてもっと早く彼女に、そしてジャンベルと知り合えなかったのかという後悔に襲われました。
少なくとも、あと数ヶ月、塚本嬢と知り合えていたなら、きっと生で観れていた可能性があった作品。
故に個人的に生で観ていないけど、すごい思い入れの強い作品です。
簡単なあらすじでも。
古代の船を再現して旅をしていた半崎修造(西村太一・以下敬称略)はメキシコの海岸沿いで嵐によって遭難してしまう。
必死に交信を取り続けていた弟・半崎修平(上杉輝)が、交信が途絶える直前、兄の言葉を聞く。
「白い大蛇……いや違う、あれはサラマンドラだ……」
謎の言葉を残し遭難した兄・修造の捜索を続ける弟・修平の元にかつての幼馴染・大伴御幸(大塚大作)、その相方である竜胆丸平四郎(浅野泰徳)が尋ねてくる。
そして会社を経営している彼の土地で見つかった遺跡を巡り、多くの考古学者たちがぶつかり合いながらも集まってくる。
一方、兄・修造は目を覚ましたものの、全く知らないはずの仲間たち、初めて触れるはずの異文化に何故か自然と溶け込んでしまう。
修造たちを助けたある一族の少女・ニクテ(野上敦美)とその弟・ヤム(塚本善枝)たちと生活を共にする事となる。
最初こそ修造たちに反発していたヤムだが、やがて修造になつくようになり、またニクテも修造に想いを寄せるようになる。
だが異民族の王・タシュカル(福津屋兼蔵)の魔の手がすぐそこまで迫っていた……。
……とまぁこんなもんかな?
大きく分けると、この舞台は二つの世界が交錯する。
一つは弟・修平のいる現代のメキシコ。
そしてもう一つは兄・修造がいる異文化の世界。
交互に話が進行していくので、一歩間違えれば混乱してしまいそうなもんだが、そこはかなり丁寧に話が作られている。
最後には二つの世界が一本の線にまとまるんだけど、その行程は非常に見事なものがある。
それでは印象に残った役者でも。
まずはなんと言っても、主人公・半崎修造を演じた西村太一氏。
これまでとは違い、髪を短く切り上げ、また髯も生やして、かなり入念に役作りに入った印象がある。
「草薙の風」のヤマトタケルの頃からは想像も出来ないような穏やかな顔立ちと、落ち着きがあった。
ジャンベルの劇団員の中で主人公をやらせたら彼の右に出る人はいない。
自分の中では、この修造はそれくらいハマり役だった。
続いてニクテを演じた、野上敦美(現・野上あつみ)嬢。
彼女がこの劇団で初めて演じたと言っても過言では無い、正統派のヒロインだと思います。
以前、塚本嬢が「草薙の風」で演じた弟橘姫/美夜受姫を「守ってあげたい」と思わせるヒロインと称したと思いますが、彼女のニクテはまさにそれ。
弟・ヤムのように特別な力を持っていない故、何も出来ないが、修造やヤムを始め多くの男性キャラが彼女だけは何とかしないと……と思わせるようなキャラクター。
何も出来ないからこそ、ヒロインとしての華がある。そんな典型的なヒロインでした。
後は大伴御幸を演じた、大塚大作氏。
この役は2008年の「青葉の足音」で登場していますが、キャラの完成度は圧倒的にこの時の方が上。
もう一人の主人公とも言える修平の幼馴染という事で、重要な話の聞き手に回るというシーンが目立ったけど、それまでの暑苦しい一辺倒だった大伴を純粋な気持ちを持ったキャラクターに押し上げたのはこの時だと思う。
とにかく相槌を打つ時の「うん」という返事とか、昔話を語る時の優しい口調が大伴のキャラの魅力を高めたと思います。
そういう意味では大塚氏は非常に好演したと思います。
また浅野氏演じる竜胆丸平四郎もこの時、一つの完成形を見たと思います。
特に中盤の謎解きの立ち回るシーンは圧巻。一番目立つところではないんだけど、しっかり美味しいところをもらっているところがさすがだと思います。
他には松宮さんが意外と普通の人を演じたのには驚いた(笑)
福津屋氏はガチで悪役だったのが印象的。
まぁそんなところですかね。
客演に目を移すならば、絶対に挙げたいのが巨勢教授の横道毅氏と、鳴海響子を演じた堀江あや子嬢。
この二人は教授と助手という関係なのですが、とにかく巨勢教授は序盤から中盤にかけては、かなりの嫌われどころ。
とにかく他のメンバーの理論にケチをつけるところから始まる、言ってしまえば頑固親父。本当に嫌な奴。
そんな教授に付き従う響子の姿が健気で、結構素敵なのだ。(何故、響子が彼に従っているかは観れば分かる)
しかし彼が何故そういうキャラになったのか物語が後半になるにつれて明らかになっていき、そして終盤で迎えるあるシーン……。
……巨勢、そして響子にとっての悲願が叶ったシーンなのだが、この時の二人の演技が素晴らしいに尽きる。
特に巨勢教授の横道氏には注目して欲しい。男なら絶対に共感して泣けるシーン間違いない。
またマリーチェの小田島亜庭嬢にも魅かれるものがある。
前に客演した「青葉の足音」とは一変して、悪役ポジションにいるのだが……女性としての悲哀を見事表現している。
今のジャンベルにはいないタイプ。凛とした姿が印象的だった。
後はティビル役の升田智美嬢のおっかさんっぷりは観ていて爽快だったし、その夫・モグニ役の大野泰広氏もところどころ笑わせてくれた。
もう一人の主人公とも言える・半崎修平役の上杉輝氏も、一番絡んだ大伴とは正反対の爽やかさで場を引き立てたという意味では良かったと思う。
ちなみに響子役の堀江あや子嬢、ティビル役の升田智美嬢は、本日から始まる「悟らずの空」にも出演。チェックしたい。
それでは最後に塚本善枝嬢。
この時、彼女が演じたのはヤムという少年役。
なんでも彼女にとって、このヤムが初めての男の子役だったとの事です。
とにかく凛々しい。自分もこの作品を観ている最中だけは、塚本嬢が女性である事を一瞬忘れてしまうくらいでした。
多分、今までのジャンベルのパターンだったら、松宮さんが演じていてもおかしくない役だと思います。
ここからは私観ですが、恐らくそうなった場合……塚本嬢がニクテに収まる事も考えられたでしょう。
しかし仮にそうなると今度は野上嬢をどこで使えばいいのかという事になります。
これまでのジャンベルにおいては、塚本嬢と野上嬢を交互にヒロインとして使い分ける配役が非常に多かったように思えます。
例を挙げるなら「草薙の風」では塚本嬢、「青葉の足音」「リヒテンゲールからの招待状」では野上嬢と言った具合に……。
ただ野上嬢はこれまで正統派のヒロインはあまり無く、何かしらクセのあるヒロインが多かったように思えます。
正直、この配役はジャンベルにとっても一つの賭けだったのではないでしょうか?
しかし結果、野上嬢は正統派ヒロインとしての立ち位置を確立し、そして塚本嬢は男の子役という新境地を見事に開拓したと思います。
また野上嬢と姉弟いう役柄を確立する事によって、これまで舞台上では無かった塚本、野上両嬢の両立が見事に成り立った瞬間でもあったと思います。
また西村氏演じる修造と、塚本嬢演じるヤムのやり取りは、かつて二人が「草薙の風」で見せた誰もが妬ける恋人のものではなく、まさに男と男の友情でした。
「草薙の風」のイメージを払拭出来る程、彼女が演じたヤムは素晴らしい出来でした。
恐らく今まで見せた塚本善枝嬢の演じた役の中でも1、2を争う、名演技だったのではないでしょうか。
本当に素晴らしかったです。良くここまで作りこんだと思います。
ざっとこんなところでしょうか。
上演時間は2時間10分とやや長めですが、ストーリーのテンポが良くて意外と気になりません。
とにかく自分の中で、ジャンベル作品のNo1を挙げろと言われたら……今ならこの作品を挙げるかもしれません。
恐らく「河童の水際」と並ぶ、ジャンベル史上、最高傑作の一つと言って過言では無いでしょう。
出来ればなぁ……あと数年後でいいから、再演して欲しいなぁ。生で観てみたい!
本当に生で観れなかったのが、残念で仕方ないです!
だけど……きっと今頃、塚本嬢も、ジャンベルの皆さんも、客演の皆さんも、頭の中は「悟らずの空」でいっぱいなんだろうなぁ。
今まで見せてくれた、どんな作品よりも、目の前に控えているこの作品を最高傑作にしようと、きっと一所懸命だと思うんです。
そんな「ジャングルベル・シアター」の世界を観に、今日自分は会場に足を運びます。
今度はDVDではなく、目の前で起きる、リアルな感動を味わいに……。
ジャングルベル・シアターの皆様。
これを読んでいるかどうか分かりませんが、あなた達の舞台に感動して、こうして手元にあるDVDを全部観ました。
過去にあなた達が舞台に捧げた情熱は、DVDを通して自分の胸を熱くしてくれました。
これから自分はその情熱を感じるために、お伺いします。
どうかこれからの5日間、客演の皆様と共に全力で駆け抜けてください。
一客の立場で、あなた達が舞台に捧げる全てをこの眼に焼き付けます。
それでは。これからお会い出来るのを楽しみにしております。
最後にリンク↓。