こんにちは。
歴史家とっきぃです。
「国際日本人養成講座」の編集長を務めておられる伊勢雅臣博士の
『この国の希望のかたち 新日本文明の可能性』を読了いたしました。
内容は、新しい日本文明のガイドラインです。
近代西洋文明が行き詰まっている現状から始まって、
日本特有の縄文文明のすばらしさを説き、各論に入っていきます。
全体としてやや大味ですが、農林水産業重視の姿勢は正論です。
内容は実際に読んでいただくのが一番として、
縄文文明の項では安田喜憲博士、水力発電の話では竹村公太郎博士の影響が大きいです。縄文文明では分散性と持続性がよその都市文明と違うと力説されています。水力発電については当ブログでも採り上げたダムの話です。下の2記事はおもしろいですよ。
ダムは永久コンクリート芸術! そして未来の希望! ver. 2.1
さて、示唆に富んだ各論の中、興味深いのは林業の話でした。
日本は世界第3位の森林率(68%)を誇りながらも、維持・管理ができていないというのです。そして、海外の安い木材を輸入しているという。
住宅政策もおかしいです。ソニータイマーじゃあるまいし、一世代(30年)経つと自動的に崩壊が始まる欠陥住宅のみを売りつけるのが日本の一戸建て住宅政策です。
そうやって住宅屋さんを儲けさせることしか政府の眼中にありません。まさしく資本主義のエリートです。
江戸時代はそうではありませんでした。いつまでも残る住宅を心がけていたのです。日本各地で豪農の館が残っています。国宝二条城の二之丸御殿も木造です。
だいたい建物はマニュアル化されて寸法さえ測っておけば長屋でも商家でも建ちます。「火事と喧嘩は江戸の華」とも言われましたが、火事で被災しても数日したらトンテンカンテンやって家ができるというのですから、慣れたものです。
火消し「め組」の長次郎 東映
建売住宅が賞味期限切れになるのは、建材の乾燥方法に問題があるとのことでした。ここで伊勢博士が紹介した「愛工房」がまた素晴らしい。詳細はリンク先へ飛んでください。防腐剤などの化学薬品を使わない本物の「杉」の魅力が載っています。伊藤社長は国産杉材にのみ、愛工房の使用を許可しているとのよし。
伊勢博士はもうひとつ、セルロースナノファイバーにも言及されています。新しい扉をまたひとつ発見しました。なんでも植物の細胞壁をナノレベルまで解きほぐした素材だそうで、紙からガラスから食材までなんでもござれの万能素材です。日本国内で賄えるのなら、何も他所の国から輸入する必要もなくなります。
国内林業はこれからです。
他にも、漁業の問題点を指摘しており、今の「オリンピック方式」だと早いもの勝ちで、一斉に競争となるため油断も隙もない状態だそうです。それに代えて個別に漁獲量を取り決める方式を提唱しています。
これだと、漁師は安心して計画を立てて漁に出られます。
あと、鯨肉の品質を取り上げて、クジラの肉を食べましょうと言っています。日本人は獲ったクジラのほぼすべてを使い切ります。ひげですら工芸品として活かします。鯨油が取れればあとは廃棄する西洋人とは違います。高度な知的生命体であるクジラを捕獲するのは賛否両論あるでしょうが、別の話ですのでここでは論じません。
東映
農薬に関する提言はイマイチでした。三世代同居とか、アグリツーリズムとか、ありきたりの思いつきです。
田舎で三世代同居をしましょうと伊勢博士は言っていますが、それができないからみんな都会に流れるのです。おそらく伊勢博士は田舎に長期で滞在したことはないのでしょう。横溝正史の推理小説に出てきそうな、ヨメ・シュウトメ問題を見て見ぬふりしています。
志村〜、うしろうしろ〜
アグリツーリズムも同様で、よそ者が田舎に長期滞在するためには受け皿を用意することが重要です。はっきり言えば駆け込み寺です。
みんな仲良くワイワイやればいいは、実態を知らない象牙の塔の与太話でしかありません。
当ブログでもどっかの記事で取り上げましたが、夫実家と同居になり、ある日旦那に「叔父さん童貞なんだよ、一晩相手してやって」と言われたらどうしますか、奥さん?
九州某県であった「おっとい嫁じょ」の風習は都市伝説でも何でもない本物の刑事事件ですよ。
とまあ、伊勢雅臣博士の『この国の希望のかたち 新日本文明の可能性』で学んだ諸々を述べました。新しい知見もありましたが、新しい共同体の創生を謳う割には、机上の空論も多かったでした。あとがきで、ご本人も「大ぶろしき」と言っていますので、ツッコミはこれくらいにします。
最後に、とっきぃの考えを述べます。
木材もコンクリートも要は使い方です。それぞれ特性があります。そして双方とも素材は「呼吸」をしています。ローマに残るコンクリート建築の傑作、パンテオンもそうですし、日本の法隆寺もそうです。人間が日常生活をおくる建物には、木材が適しているという話です。逆に人工的なビジネス街は鉄筋コンクリート造りがいいかもしれません。人間の好みも仕事のあり方も都度変わっていきますので、半世紀ごとにご破産にするのも一興でしょう。お城の天守閣はもちろん木造です。それも愛工房でしっかりと仕上げた国産材木を使えば将来の国宝候補となるでしょう。いかがですか、名古屋市民のみなさん。
農業政策ですが、イタリアのアグリツーリズモがうまくいっていることは喜ばしいです。それを日本に直輸入しようというのは無理があります。イタリアにも国情があり、欧州のお百姓さんは公務員待遇ですので余裕があります。
北海道の廃鉱した炭鉱町の娘が九州の農家に身一つでやってきて、成功した事例を知っています。
背景としてこの娘が「ただ生きていければいい」という悲惨な状況から逃げるように九州に嫁いできたから成立する話なんです。しかも嫁ぎ先が常識的でいわゆる「膿家」でなかったことも大きな成功要因です。
現代のビジネスパーソンが風光明媚な田舎町にあこがれて、田舎に移住しても地元には地元のいろいろがありますから、摩擦は必ず発生します。そういうときに駆け込み寺とか、仲介役が必要になってきます。ネット環境さえ整えればOKというわけにはいきません。ちなみにネット完備でなんとかなると思って失敗した案件は伊勢博士の本にも記載されています。地元とのセッションをうまくやって切り抜けた顛末もちゃんと書いています。
江戸時代には、お遍路さんとか宿場町など、よそ者を取り入れるヒューマンウェアも豊富にあったでしょう。まずは掘り起こして、実践しましょう。
しかも、おんなじ日本人です。
振り返れば未来です。