救急医からの提言:「水中毒」と「熱中症」 | 総合診療医:誰もがわかりやすく医療を理解する事ができるブログ

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「否定の極論」記事に疲れたあなたへ贈る:「食事」「睡眠」「運動」・・これら「健康の三本柱」をねじ曲げずにポジティブに考えるブログです。

暑い時期になると熱中症予防のため、水分を多く飲むように勧められます。
  
ところが、
『水を飲み過ぎると「水中毒」により死亡する場合がある』とする記事が、毎年熱中症の時期に合わせて、必ず出てきます。

  

  
救急医からの提言-1
#水中毒は怖くはありません!!

  
~水中毒とは?~
学生時代の理科の授業で、食塩水の濃度の問題がありましたよね。
ある濃度の食塩水に、水を混ぜると食塩すなわちナトリウム(以下Na)の濃度が薄くなります。
  
これと同じことが、人間の血液の中でも起こります。
Naが入っていない水をたくさん飲むと、血液中のNa濃度が薄くなります。
  

血液中のNa濃度
・正常値135~145mEq/L
・130mEq/L:軽度の疲労感
・120mEq/L:頭痛、嘔吐、精神症状
・110mEq/L:性格変化や痙攣、昏睡
・100mEq/L:神経の伝達が阻害され呼吸困難などで死亡
  
特にNa110前半からは危険です。
昏睡や痙攣を起こした際、多量に飲んだ水を嘔吐して、肺に水が入り込んで溺水、いわゆる溺れ死ぬ状態になる場合もあるからです。
  

  
ですが、繰り返します。

「水中毒」は怖くはありません!!
  
そもそも我々の血液中のNa濃度が極端に薄まるためには、相当量の水を飲まないとなりません。
一般的には水は1日1.5~2Lほど摂る事を勧められますが、水中毒の患者は2Lどころではありません。
  
実は理論上は、1日に20L飲んでも腎臓から正常な排泄機能がされれば、Naを含めた電解質は正常に保たれます。人間の腎臓の最大利尿速度は、毎分16mlとされています。
つまり、水中毒の患者さんは、1日中水を毎日飲み続けているか、短時間に相当量の水を飲んでいると思われます。
  
一般の我々は、ある程度水分を摂ると、それ以上は飲みたくないと思う時がきます。
例えばパスタにしても、最初は美味しいと思っても、ずっと食べ続けていると、その内食べたくなくなりますよね。これは高度な認知症の人でも、同じ反応を示します。
我々の脳が、勝手に抑制してくれます。
  
ちなみにこの反応は一種の「別腹」、正式には
「感覚特異性満腹(感)」と言います。

⇒ 『「別腹?」:感覚特異性満腹
  
ところが、統合失調症や自閉症などの持病を持っている患者では、この抑制が利かない場合があります。
つまり水中毒を発症する人は、特別な持病を持っている人なのです。
  
統合失調症の患者の約2割に水中毒を合併すると言われています。
薬の副作用で水中毒になる事もありますが、それは
「慢性」の水中毒症状(低Na血症)であって、普通の人が「急性」の水中毒になる事はまずありません。ネット上で脅かす「水中毒」とは、滅多に起こりえない「急性」の水中毒症状です。
  

  
「水中毒」で一般人を怖がらせる記事は、アクセス数を集める目的と思って頂いて結構です。
夏の暑い時期にわざと常識と反対の事を言って、目立とうとしているだけですから。

  
一般人はまず心配がないので、決してそのような記事を見ても怖がらないでください。
怖がってしまうと、むしろ熱中症になってしまいます。
  
ちなみに私は救急専属医になって20年以上経ちますが、水中毒の症例は3例、そして全員が統合失調症でした。
  

  

一旦、話を大幅に変えます。

  

「水」のように人間にとって必要なものでも飲み過ぎると「中毒」になります。

その一方でネット上では、『少しでも摂ってはいけない!』かのような記事を多数見ます。代表的なものが「トランス脂肪酸」です。

  

アメリカではトランス脂肪酸の食品添加が禁止になったのに、なぜ日本は禁止にならないのか?、日本は遅れている!!と思い込んでいる人が多いようです。

これはWHOの推奨摂取基準を、最も多く摂取する日本人ですら下回っているからです。

  ⇊

この理由でも、「絶対にリスク0」にしないと納得いかない人が多いようです。

  

では、1週間でいいからアメリカで自動車を借りて旅をしてみてください。途中のドライブインに寄ると、こんなものを食べているのか!と思う程、異常に油っぽいものすなわちトランス脂肪酸を毎日摂取しなければなりませんので。

欧米人のトランス脂肪酸摂取量は、日本人が想像する以上に多量です。最初から味が付いたパンには大抵トランス脂肪酸が含まれていますが、日本人の摂取量は可愛いものです。

また、牛肉や羊肉にも元々トランス脂肪酸が含まれています。トランス脂肪酸を0にしたい人は、絶対に牛肉などを食べないつもりでしょうか?

  

どんなに身体に良いものでも、摂り過ぎるとマイナス要因が出てきますし、逆に健康に悪いとされているものでも、摂り過ぎなければ健康に大きな影響はありません。

「リスク0」にしないと気が済まない人は、食べるものがなくなるどころか、水すら飲めなくなります。

「質の概念」だけに注目するのではなく、「量の概念」にも注目すべきです。「適量(適切な範囲内の摂取)」が大切になります。

⇒ 『「トランス脂肪酸」は不健康、でももっと不健康なもの、それは・・・

  

下の「食品安全委員会」からのスライド写真をご覧ください。

完璧な飲食物など存在しません。食は我慢大会ではありません。楽しむ事が大切です。

  

  

話を元に戻します。

  

さて熱中症の時期に、よく水分と共に塩分をいっしょに摂るように勧められますが、これはどうなのでしょうか?。
  

 

  
救急医からの提言-2
#熱中症対策について

  

こちらは日本救急医学会から発信されているガイドラインです。

⇒ 『熱中症診療ガイドライン:日本救急医学会

  

これを読むと、熱中症予防に水分と共に塩分も摂取する事を勧めています。これだけでなく、他のサイトでも塩分も一緒に補給するように書かれています。

私は、国や専門家の発信するサイトをベースとしています。個人の記事では、データやエビデンスを全く無視して、独自の考え方ばかりを発信する者が多いからです。

  

ただし今回、私の結論(独自の考え方)ですが・・・


  

先ほどの食塩水の濃度の話に戻ります。
熱中症症状で来院される患者さんは、水の成分が多く減っていて、食塩水の濃度は濃くなっています。食塩水を沸騰させても、塩は蒸発しませんよね。
  
つまり、血液検査をすると・・・
  

熱中症の患者さんでは、Na濃度は正常値か高Naです。
水中毒のように低Naの患者さんはまずおりません。
20年以上の私の症例経験では、熱中症で低Na血症になった患者さんは1人もいません。
  

熱中症の患者さんは、純粋に水分摂取量が少なすぎるのです。
塩分に関しては、確かに汗から薄~く塩分が出てきますが、日常の食事で摂っている塩分だけで十分です。
  
2015年4月1日より、厚生労働省は日本人のNa(食塩相当量)の目標量を男性8.0g/日未満、女性7.0g/日未満にきびしく変更しました。
ちなみにWHOは、世界中の人のNa摂取目標を1日5gと、日本人にとって更にきびしく設定しています。
  
2016年の日本の成人1日あたりのNa平均摂取量は、男性で11.0g、女性で9.2gと発表されています。
摂取量は年々減ってはいるのですが、日本人は塩分摂取量が多過ぎます。
  
塩分があるに越したことはありませんが、
塩分にはあまりこだわらず、のどが渇く前から水を中心にこまめに摂り続ける事が大切です。
特に外にいる時は、15分ごとにこまめに摂る必要があります。水は一度にたくさん吸収できませんから。ただし、岩塩などのようにマグネシウムを多く含む良質な塩は、熱中症とは無関係に重要です。
  
  
ただし、例外があります。
マラソンなどのように強度が高い運動や、長時間激しい運動をし続ける場合は、水といっしょに塩分も補給すべきです。
  
2002年のボストンマラソンでは、水中毒による死亡者も出ています。

ただし、この人は塩分摂取量が多い日本人ではないので、もし日本人がこの人と全く同じ状況だったとしても、水中毒になったかはわかりませんが。  

  

  
さて、もしも熱中症になった場合、どうすればいいのでしょうか?。
  
水風呂に入るのが手っ取り早いのですが、基本は涼しい所に移動し、首や腋の下など動脈が皮膚に近い所を中心に冷やします。

  

そして水分類の補給です。テレビなどでよく勧められるのがスポーツドリンクです。
スポーツドリンクに関しては、スポーツの最中と熱中症症状を起こした時以外は飲んでほしくありません。
飲む側にとっては美味しくできているので、日頃から習慣的に飲む可能性があるからです。そして
若い時についた習慣は、大人になると簡単に改める事ができなくなります。
   
スポーツドリンクを習慣化して飲むようになると、血糖値が高い状態が続くと空腹感が減り、本来食事から必要とする栄養素が減る場合があります。また長期的には糖尿病の原因となります。

  

そもそもスポーツドリンクとは、文字通りスポーツの際に飲むものです。スポーツでは身体が熱くなって汗が多量になると体内の水分が減ります。また筋肉で糖分を消費します。スポーツドリンクとは水分と糖分を補う目的のものです。それ以外では、できるだけスポーツドリンクは避けるべきです。
  

ペットボトル

  
ペットボトルなら、お茶かただの水のように、砂糖が入っていないものを選択する事をお勧めします。
尚、上の画像のようにペットボトルの甘い成分を砂糖換算するものを見ますが、これは絶対に嘘です。筆者は実際に作って飲んでみましたが、こんなに砂糖が入っていたら、甘すぎて飲めたものじゃありませんでした。
  

水中毒3

  
熱中症を発症した際の一番のお勧めのドリンク剤は、経口補水液「OS-1」です。
「OS-1」を飲んだ事がある方はご存知だと思いますが、全然美味しくありません。
  
「OS-1」を販売しているメーカーの1つとして、大塚製薬があります。大塚製薬と言えば、有名なのは「ポカリスエット」です。
商品を売るだけなら、「ポカリスエット」だけでいいのですが、なぜ「OS-1」が売られているのでしょうか?。
  
それは
「OS-1」の成分は、WHOが推奨する体内への水分吸収が早い組成を元に作られているからです。
熱中症を発症した場合は、「OS-1」が近くで売られていたら、2本飲んでみてください。それでも熱中症症状が改善しなければ、病院で点滴をしてもらう事をお勧めします。
  

水中毒2

  
さて話は変わりますが、スポーツの後などにプロテインを補給する人も多いと思います。
このプロテインには、タンパク質はもちろん入っていますが、炭水化物(糖質)も入っています。これはプロテインだけでは筋肥大のための効果が不十分だから、という理由が一般的です。
  
そして理由はそれだけではありません。

タンパク質が体内に吸収されやすくなるためには、炭水化物が必要だからです。
  
糖がある事で、アミノ酸が15分ほどで吸収できるのです。
このテクノロジーは、何とアメリカのプロバスケチーム(NBA)も使っているのです!!
  
そして「OS-1」にも、すばやく吸収させるために炭水化物が入っています。
やはり食事は偏らずに、バランスというものが大切です。
  

プロテイン

  
食事もそうですが、次に当てはまる場合、熱中症症状を起こしやすくなります。
  

①朝食抜き
②睡眠不足
③高齢者あるいは慢性的な持病がある人

  
朝食を抜いて、糖質・タンパク質摂取が不十分な状態では、水分をこまめに摂っているつもりでも熱中症になりやすいです。睡眠不足も同様です。
  
朝食を摂る事は、熱中症予防とは無関係に大切な事です。
朝、食欲がなく、パンやご飯だけの炭水化物だけで食事を終わらせてしまうようでしたら、プロテインやサプリで補給するのも仕方がありません。ですが、できるだけ食事から糖質とタンパク質を摂ってほしいと思います。

  

関連ブログ

⇒ 『1日3食の中で、朝食が最も大切である!!

  

  

また高齢者や慢性的な持病がある人は、暑さに対する感受性が弱くなっています。
特に高齢者は冷房が嫌いという人も少なくありませんし、持病により水分制限を指導されている場合もあります。
周りの方が、気をつけてあげないとなりません。
  
熱中症予防の水分類の摂り方でも、色々と記事が出てきます。
あれやこれや色々細かく書いているものもありますが、今も昔も大幅に変わったわけではありません。
  
とにかく
塩分にこだわりすぎずに水分を、こまめに(できれば15分ごとに)摂る!摂る!摂る事が大切です。
  

  
また暑い時期は冷たい水を、他の季節に比べて多く飲みたくなります。これでは胃が疲れてしまいます。特に腹下ししやすい人は、冷たいものを避けるべきです。
そもそも冷たい水は、体温が36度ほどの我々人間にとって、実は異物が入り込むようなものです。
  

暑い時期でも白湯、最低でも常温水で水分補給を心がけるようにしてください。
そして、アイスクリームやかき氷などは、胃が温まった食後に食べる事をお勧めします。

  

このブログが皆さんのお役にたてるように・・・。

    
(画像の一部はネットより拝借)

 

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