こんにちは~
ず~っと日本公開を楽しみにしていた 老狐狸(オールド・フォックス 11歳の選択)
ところが、体調が絶不調に陥り、半ばあきらめていたのですが…
2週目も公開が続いていることを知り、見に行きました~
本当に見られてよかったです。
さすが、金馬奨4部門受賞、期待通りの素晴らしい作品、しかもパンフレットを読んで、「あれはそういうことだったのか~」という1990年の台湾という映画の舞台の意味に鑑賞後さらにじわじわ来ております。
主役の少年 白潤音くん が「11歳という時期」を逃すと後はもう演じられない内容で、そこをしっかり捕らえた監督はじめ制作陣と、しっかり応えて演技した 潤音 くんとのチームワークも素晴らしいと思いました。
1990年代の台湾、そこでの 11歳の少年 父親 老狐狸 そして、周りの市井の人々 映画の舞台装置も演技も素晴らしかったです。
老狐狸 FB(画像はここより)
(台湾版)
(日本版)
映画『オールド・フォックス 11歳の選択』日本版予告篇
金馬60 最佳男配角 陳慕義 《老狐狸》|頒獎人:許光漢 滿島光|MyVideo線上直播
金馬60 最佳導演 蕭雅全《老狐狸》 |頒獎人:李康生 楊貴媚|MyVideo線上直播
侯孝賢監製電影《老狐狸》劉冠廷、白潤音父子檔演出,省吃儉用只為買房:盡量花別人的錢!
鴻源案 ウィキ
感想ですが、ネタバレもありますのでイヤな人は読まないでください
1989年、冬の台北は雨
台北の冬は雨、思ったより寒い…
これはわたしが最初に台湾に行ったときの印象です。
当時、1月の台湾を 温かい と思っていたわたしでしたが、寒すぎて苦労しました。
ホテルの部屋からフロントに電話しても、布団もない、暖房をつけたつもりが部屋のエアコンは冷房機能だけ…
震えあがったことを覚えています…
この映画の1989年、冬の台北もあの当時と同じように描かれています。
映画のほとんどが 雨 雨 雨…
そんな中で 廖泰來 廖界 親子は、お風呂のガス代 すらケチって爪に火を点すように生きています。
それもこれも 自分の店を持ちたい という夢があるから…
ですが、現実は厳しく…
二人の主な交通手段は 自転車 、ですが、家を出ると真っすぐな 通り の見える先に急激な坂道があり、そこを自転車で上るシーンは描かれていません。ですが、常に彼らの前に 急激な上り坂 があることが、彼らの未来を投影していて、その未来は決して 明るいもの ではないような気がして、常に 不安 のなか、映画を見ていくことになります。
このあたり、視聴者が、何となく心理的に不安になり、追い詰められる描写が素晴らしいです。
パンフレットによると家のある通りは、全面的に1990年を再現された映画のための通りに作り替えられたそうで、納得です。
何となく、古びた街を一時的に借りたものではなく、映画用に作り替えているんですよね。
素晴らしいと思いました。
その通りと一転して華やかに見える 父 泰來 の勤めるレストランも 調理場 という 裏舞台 を見せることで、決して楽しいだけの場所ではなく、あくまでも 職場 として描かれています。
また、 表舞台 である、 客 も決して幸せな人ばかりでない、あるいは怪しげな商談の接待の場でもあり…
それも うまいな~ と思いました。
11歳の少年を投影して描かれる世界
本当にすごいな~と思ったのが、 少年 廖界 の11歳でしか出せない 子ども と 大人 の両方の表情
冒頭 廖界 は 自分の店を持ちたい という 父 泰來 の夢に、無邪気に応えます。
廖界 には、具体的に 店を持つ ということが、どういうことなのかはわかっていません。
でも、店を持てば、亡くなった母がいた頃のような 幸せ が彼を待っている…
そう信じて、ガスを節約し、食べるものは店の残りで済ませ、体操服もいじめっ子に揶揄されても父親の手作りのものを着て…
そんな 廖界 はある日、大家である 老狐狸 に出会い、今の生活に 疑問 を持ち始め…
これが、すごい
子どもって、思春期にかかると 親の真実 が見えてきて、どんどん 大人社会の矛盾 に気づき、疑問を持ち、それを 反抗 という形で見せるようになるのですが、ちょうど 廖界 がその時期で、 狡猾で世渡り上手で冷淡 な 老狐狸 と関わるうち、 真っ正直で損な生き方をしてしまう善良な父親 は実は 負け組 ではないか❓もっとうまく立ち回ればすぐに 店 も持てるのではないか❓ と思い始めるんですよね…
ちょうど、この頃 台湾バブル が始まり、いとも簡単にお金を手に入れることのできる人も出てきて…
廖界 は ますます 老狐狸 に魅せられていき…
ここで、すごいのは 実は 魅せられているのは 廖界 だけでなく、むしろ 老狐狸 の方が 廖界 に魅せられているのだ…ということ…
廖界 に過去の自分を見つけ、魅せられていく 老狐狸 …
廖界 は 老狐狸 にコントロールされていくのか、それに気づいた 父親 の愛情で今までの世界に留まるのか…❓
これが、彼自身の年齢である 反抗期 と相まって、揺れに揺れるんですよね…
老狐狸 の言うように父親を「負け組」だと認め、自分はそうならないとイジメてきた友達への復讐をしてみたり、と思えば、父親からのクリスマスプレゼントには子どもらしい笑顔を見せて…
最後の最後まで揺れる 彼 は一体…
映画の最後のサプライズに、ただただ感動、ああ、老狐狸 はただの悪者でなかった…と思わされます。
老狐狸 を演じられた 陳慕義さん、わたし的には 偶像劇の父親役 で台湾ドラマを見始めてすぐから知っておりましたが、ローカル色の強い俳優さんというイメージ、ですが、「下一站,幸福」での小ずるい役から、娘思いのお父さんまで、どんな役でもこなされる印象で、ここでも 老狐狸 は一体どういう人なの❓と思いながら見ていました。断片的な彼の以前の話に出てきた息子役に 傅孟柏 、幼い頃に話していた 日本語 ということで、日本統治時代に辛酸をなめてきた過去と今が浮き彫りになり、 老狐狸 の一筋縄ではいかない性格や人間としての複雑さがうかがえます。そして、その複雑な深層心理を演じるのに 陳慕義さん はさすがだな~と思いました。すごかったです。
また、 廖界 の父 泰來 は、 老狐狸 に「人生の負け組」認定されていますが、決して能力が足りないわけでないことは、彼の生活を見ていてわかります。人への気遣いができてレストランでのマネージャーをこなし、趣味はサックス、レコードも聞きますし、ミシンでの裁縫も得意です。ただただ、「善良に過ぎる」だけなんですよね。だからこそ、 廖界 は「社会の矛盾」が許せない、「勝ち組」になりたい…強く願うのです。 泰來 を演じる 劉冠廷 も、この役にピッタリでした。日本でも女性ファンが多く、わたしも大好きな役者さんですが、今回も素晴らしかったです。
周囲の人は❓
少年 の目を通して、描かれる 周囲の人 ですが、これまたあまりにも魅力的な人が多く出演していて、物語に深みを与えおり、台湾ドラマファンとして、堪能しました。
あの人も、あの人も…で、後でウィキで調べようと思っていたのですが、何とウィキに登場人物が載っていません
これは、悲しい
覚えている範囲で書きますが、間違っていたら教えてくださいね
老狐狸 の秘書であり、家賃を集める 漂亮姐姐(きれいなお姉さん)に 劉奕兒 。キレイで善良なお姉さんなんだけど、実は 老狐狸 との信頼関係はなく、たまたま 誕生日 が 息子と同じ というだけでつながっていて…
これも 老狐狸 の強い「人間不信」と「人を信じたい」という相反する感情の同居を示す、配役だな~と思いました。演じる 劉奕兒 はキレイなのに、時々下品な行動が見え隠れするのが、すごくよかったです。
レストランの常連 有閑マダム役 に 門脇麦さん。見始めた「誰是被害者2」のディーンさんの中文があまりにもすごくて、ビビっていますが、門脇さんもすごく上手くてビックリしました。そして、 泰來 との関係…
お金がある=満たされるわけでない という見本で、でも、彼女については 廖界 にはわからず…
彼女の夫役が最近では「選挙の人々」主演の 黃健瑋さん あのパンチパーマこれだけでも一見の価値あります~ww
さらに、ラーメン屋の大将に 班鐵翔さん
この方は「一把青」で航空機の整備員を演じておられて、その延長で役を見ていました。
この事件は当時の 鴻源案 ウィキ をベースにされているそうで、投資話を持ち掛けた 少佐役 に 高英軒 さん
このエピソードもわたしが思っていたよりもっと深くて、当時、被害者が、中国大陸から台湾に渡った退役軍人の人が多かったというのも、映画を見た後に知りました。それで、「ああ~そういうことなのか…」と思いました。
そこに 同情 を寄せるか、それをどうせ大陸から来た人はよそ者だし 好機 と見るか…
このあたりも「人間の本質」に迫る映像で、それを11歳の子どもがどう見るのか…と思うとすごいな…と思いました。
そして、何気にすごいのが、「イジメっ子」への仕返し…
これも、 老狐狸 が仕返しの言葉を教えてくれたのだけど、彼の教えてくれた「干我屁事」のようなわかりやすい罵り言葉ではなく、 廖界 も 友達 すら意味がわかっていないのだけれど…最後に彼の媽媽が、 廖界 にお礼を言うんですよ…
これは、背筋が凍るぐらい寒くなりました…
時に人は、知らぬ間に人を 谷底に突き落とす ぐらいのダメージを 暴力 でなく 言葉 で与えることができる…
このお母さん役の人どなただったのでしょう❓ 泰來 と 門脇麦 さんの若い頃を演じた役者さんもですが、見たことはあるけれど、名前の出てこない俳優さんが多くて、気になっています。もしご存じの方おられたら教えてほしいです。
少年の未来は❓
11歳で突き付けられた 現実 に 少年の未来はどうなるのだろう…❓
ですが、最後の最後に サプライズ として、語られる彼の未来…
廖界 は誰が演じる❓彼の中の 泰來 と 老狐狸 をぜひ見てほしいです
これがあまりにも素晴らしく、映画を見て本当によかった…と思いましたし、大満足で映画館を離れました。
鑑賞後、パンフレットを買いましたが、これも大正解、映画のバックグラウンドがよくわかりました。
ツイッター(X)で 白潤音くん が日本に向けても一生懸命発信されていて、とてもうれしいです。
さらに、彼が成長していて、一層、ああ、この時期を逃さず、演技をされたのがよかったな~とも思いました。
台湾エンタメのお好きな方、台湾旅行の好きな方、台湾に興味をお持ちの方、ぜひご覧ください。
また、最後に思ったのが日本版の名前…
謝老闆 が シャ となっていたのは台語読みなのでしょうか❓
李 はなぜ リイ だったのか❓
作り手の一人でもある方が、日本語字幕も作られていたので、何か意図したものがあるのだろうと思ったのですが、知りたかったです。
2日続けて 金馬奨作品 を見ましたが、やはりさすがだと思いました。クオリティが高いです。
門脇麦さんが「沸騰ワード」で映画の番宣を兼ねて台中のグルメを紹介されていました。
今ならTVerで見られると思いますので、ぜひご覧くださいね。
また、この番組を見て、監督さんがおっしゃっていた「率直ではっきりした方」という印象にわたしも納得です。
すごくステキな女優さんで、これからも台湾の作品に出てほしいです~。
【追記】
何人かの感想を読ませていただき、どうやら最後の解釈があれこれあるようなので、本来ネタバレだと思い止めていたのですが、わたしの解釈を書こうかと思いました。
最後に関わる重大なネタバレなので、イヤな人は読まないで下さい
成長した 廖界 は、 泰來 と 老狐狸 のいいところだけを取って「勝ち組」になった~と思いました。
1 建築師として、顧客の要望を優先しているように顧客には思わせながら、実は地元民の景観を損ねないという要望に配慮しており、仲間から 知恵が廻る と言われている。
2 泰來 の教えを忘れているわけでない。彼と同じく、カッターの刃を折れば、知らない人であれ、ゴミの収拾者がケガをすることを恐れて、ちゃんと段ボールの切れ端にくるんで捨てている。
そう解釈しました。みなさんは、どう思われましたか❓