三重生物研究発表会の発表要旨を公開します。今までの俗説を覆す研究成果ですので、是非皆さんにもお読みいただきたいと思って、掲載することにしました。ご意見やご質問は、コメント欄にご記入ください。
内容のしっかりしたものです。今後は、ヒルが木から落ちてくるというのは、俗説だと是非広めていただきたいと思います。ヒル被害への準備が、これで変わります。首より足元です。不用意に腰を下ろしたり、リュックを下ろしたりせずに、また下に置いたものを着用するときは、しっかり点検するようにする、などです。
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研究発表「ヤマビルは木から落ちてこない」
発表者 I 研究員(A中・高等学校 中3)
1.研究の動機 三年間ヤマビルを研究していて、僕らはヒルが木から落ちてくるところをこの目で見たことがない。しかし、世間ではヒルは木から落ちてくると信じられている、その噂話が本当かどうか調べてみようと思った。
2.研究内容 ☆★
(1)問題意識
まずその噂の根源を調べてみると、小説「高野聖」(泉鏡花著,1900年)には「ヒルは木から雨のように降ってくる」と書かれている。山登りのガイドブックにも、ヒルは上から落ちてくるので首筋のガードを、と書いてある。
夏山フェスタ(2017.6.17-18名古屋)の来場者100人にアンケートをとったところ、69%がヒルは木から落ちてくると答えた。さらに、「それはどこから聞きましたか」という問いに対して57%の人が「他人から聞いた」と答え、「本」からは27%だった。落ちてこないと答えた人は、わずか3%であった。27%の人は分からないと答えた。
このようなことが元になり、ヒルを見たことがない人もヒルは木の上に棲むとか動物や人を見ると上から落ちてくる生き物という話となって広まっているようである。本当に木から落ちて来るのか、実験で確かめてみることにした。
(2)野外実験
①いつもヒルを採集している藤原町(三重県北部)の林道でブルーシートを敷き、周囲からヒルが入ってこないようにシートの周囲にヤマビル忌避剤を散布する。その上で3時間ほどヒルが落ちてこないかと待った。結果は一匹も落ちてこなかった。晴れの日と雨の日とやってみたが結果は同じだった。しかし、ヒルの代わりに水滴や木の実などヒルと錯覚しそうなものがいくつも落ちてきた。ブルーシートの外側には、たくさんヒルがいるのに上からは全く落ちてこない。
②雨の日にカッパを着て、足元を粘着テープですき間のないように巻いて、ヒルが侵入しないようにした。そして、ヒルがたくさんいるところを歩き回った。10分くらいで足を登るヒルや腰のゴムのところから体の中に入り込もうとするヒルが数匹見つかった。
③また、ヒルを木に登らせる実験をした。地上1mくらいのところにヒルを付けた。5匹中一匹のみが上ったが他は全て下りて行った。木を湿らせたが結果は変わらなかった。唯一上って行ったヒルは、周囲で見ている僕らの呼気に反応したようで、2mくらいまで登り、落ちて行った。
(3)実験室で確認
①部屋にブルーシートを敷いて、ビニル袋に入った研究員を座らせ、周囲に数十匹のヒルを放した。研究員に気付いたヒルは、近づいて登り始めた。数分で腕や肩などに到達した。このことから、ヒルは下から登るのが確認できた。
(4)実際首筋を吸血される訳
特に雨の日にヒルがよく首筋で吸血している。カッパの裾にくっついたヒルは、そのまま登り続け首筋まで到達する。また、休憩時に地面に腰を下ろせば簡単に腰から登ることが出来る。リュックや帽子を下に置けばそれに付いてきて、背負うと簡単に首に近づくことができる。首は他と比べてガードが甘く、ヒルから見れば絶好の吸血場所となる。
3結論
以上の実験・考察からヒルが木から落ちてくるというのは思い違いであり、すべて地面から登ったものであるといえる。
4今後の課題
首まで来ることは分かったが、ヒルは、どうして上の方を目指すのか、なぜ首まで行けば吸血できる場所があると分かるのか。単に、体温だけでは説明がつかない不思議を含んでいる。来年度、ヒル研のみんなでさらに研究を深めたい。
もう一つ懸案になっているのが、交尾産卵の仕組みである。来年は何とか血液を手に入れて、実験を成功させたい。
<発表 2018.2.10.>