ミュージカル『アーサー王伝説』
Produced by DECIBELS PRODUCTIONS, Dove ATTIA 潤色・演出/石田 昌也
文京シビックホール 平成28年10月15日 15時30分公演 1回25列センターS席
宙組千秋楽も何か書きたいと思っているのですが、『エリザ』は散々書いたし、とりあえず、こちらの続きから。
<今回も、ネタバレ注意です>
○ 再び、ストーリーについて
ストーリーは、私の個人的な嗜好から、ちょっと外れていたみたい。
現代のミュージカルなのだから (『ドン・ジュアン』のオリジナル(KAAT版)もそうでしたが)、色々刺激的な要素が必須というところもあるのでしょうか。
でも、近○相○自体は、オリジナルの“アーサー王物語”通りなんですね。ただし、あの伏線は、続編に続くみたいなネタで、この作品の中に入れる必然性はないように思えるし、あんなことがあった後も、姉弟の関係に大きな変化がないように見えるのは不自然だと思う (「姉だから、城から追い出せない」という理屈も良く分かんないし...)。
○ 再び、音楽について
解説によると、音楽は、“ケルト地方の民族音楽をポップにアレンジしたフレンチ・ロック”とのこと、『ドン・ジュアン』のフラメンコっぽい音楽と比べて、馴染みが薄かったのかな? 今一つ、印象に残る歌がなくて...。もう一度観劇できれば、お気に入りの歌が見つかりそうなんですけど...、残念ながら、あとは予定ないし...。
前の感想で書いたように、この主人公に今一つ共感できないために、“王への賛歌”は勿論、その“苦悩の歌”にも入り込めなかったのもあるとは思うのですが...(モーガン、メリアグランス、ランスロットの方に良い歌があったような気が...)。
実際の音楽の出来としては、海外μだけに一定レベル以上ではありますが、『1789』のような圧倒的なハイレベルとは言えなかったと思います。
私の感じだと、楽曲の良さ (勿論、あくまでも個人的嗜好) は、
フォルスタッフ << アーサー王伝説 < NOBUNAGA ≦ ドン・ジュアン << 1789
といった印象でしょうか。
● 作品評価 ☆☆☆
ストーリー自体は、ちょっとあれだけど (もう少し何とかなりそうな気も...)、主役以外のキャラ立ちは悪くないし、音楽などを含めて、全体的にはそれほど悪くはないとは思っています。
でも、期待以上とは言えないでしょう。
● 新トップスター
珠城 りょう(94期・18番 「りょう」「たまきち」) アーサー【キャメロットの王】 演技 ☆☆☆ 歌唱 ☆☆☆
たまきち君は、芝居、歌唱、ダンス、容姿、いずれも大きな穴がなく、全てにおいて、非常に安定感があります。特に、見た目の体格にとても重厚感があって、真ん中への収まりがいい。研9という超異例の早期就任には、それなりの理由があるといったところでしょうか。
しかし、反面、厳しく見れば、これっという傑出したポイントもないと言わざるをえない。この早期就任には大きな心配も付きまといます。
プレお披露目は、この『アーサー王伝説』でした。事前予想でも、キャラはあってそうな感じでしたが、実際の舞台でも、騎士コスチュームがピッタリで、見た目はとても良かった。
芝居は難しかったと思う。この人物像自体が、ちょっとよく分からないというか...。寛容で良い君主のようですが、(生い立ちから孤独にさいなまれ、愛を求めるのは分かるとしても) 全体的には思慮が浅く、行動に軽薄なところも目立つ。たまきち君、重厚な正義の騎士とかなら多分ピッタリだけど、こういった一種のチャラさの表現は苦手なところかな? (厳しく言えば、芸が足りないとも言えますが...。本が○○過ぎて、この役は誰がやっても難しかったと思う)。
歌は (声がひっくり返りそうなところなど全くなくて)、非常に安定しています。たまきち君は、声を伸ばす時に、微妙に音程がずれるのが非常に気になっていたのですが、それもだいぶ少なくなりました (皆無ではない)。ただし、声質自体は地味系。ここはもって生まれたもので仕方ないですが、前トップは、まさに超キラキラの超美声だったので、かなり聞き○りするのも事実です。ただし、歌唱力自体は上がってきています。前トップのように歌で魅せるというわけにはいかないでしょうが、大きな心配もないでしょう。
結局、本自体があれなので、この役はしっかりと芝居を作り込んで、ストーリーで観客を魅了するというわけにもいかなかったでしょうか。
“超ビジュアル力 + 超歌唱力 = 超力技”で、観客をねじ伏せるみたいにするしかないのかも? でも、そこまでは無理でしょうし...(ただし、現宝塚では他組を含めても出来そうな人はいないかな。みっちゃん、だいもんじゃ、キャラが合わないし。ちえさんなら、バッチリだったかもしれませんね)。
● 引き続き、トップ娘役
愛希 れいか(95期・14番 「ちゃぴ」) グィネヴィア【アーサーの妻・王妃】 演技 ☆☆☆☆ 歌唱 ☆☆☆☆
ちゃぴちゃんは留任でした。添い遂げなかったことには色々なご意見があるようですが、新トップが研9である以上、この一択。ちゃぴちゃん自身の気持ちがどうであったかは知る由もありませんが、残って、たまちゃんを支えるしかなかったと思います (新任トップ娘役では、とても務まらない)。ただし、さすがに任期が長くなり過ぎてきているので、本公演あと2作程度を予想しています (それでも、新トップが自立できないようでは困りますし)。
このお姫様役、キャラは結構アーサーとかぶるところもあるかな (破れ鍋に綴蓋というか (笑))。慎み深く、思慮深い、深窓の令嬢みたいなキャラとは真逆(笑)。
よく言えば、自分の気持ちに素直で、愛情が濃く、情熱的な女性。しかし、自らの好き嫌いだけで、自国を滅亡寸前に追い込み、自国民に塗炭の苦しみをなめさせ、さらには、自らの欲望を抑えることが出来ず、心の赴くままに振る舞うが故に、自分を愛してくれる二人の男性に完全な破滅をもたらしかねない行動をとる愚かな○○女とも言える (noblesse obligeとかは全くない古き○き時代なので仕方ない?)。
アーサーと違って、人物像は結構はっきりとしています。少なくとも、この作品を見る限りでは、別にモーガンに操られて、あのような行動をしているわけでもなく、モーガンがいなくても、遅かれ早かれ同じような振る舞いをした感じです。人物像がつかめれば、あとはちゃぴちゃんの実力でしっかりと役を作れていました。キャラも結構合っているかな。
歌については、ちょっと癖がある声質ですが、音程はとれていて、音域も広く、よい歌唱です。それに、その声の強い響きが、この役にはピッタリだった気がします。
最後の迫力も凄くて、素晴らしいパフォーマンスでした。やはり、今の月組の舞台には、ちゃぴの力がまだ必要でしょう。
● 新トップコンビ
アーサー王、見た目はばっちりでした。姫との体型バランスもよく、デュエダンとかも映える感じです。
男役十年未満の○熟さには、まだまだ、娘1キャリア十分の相方が必要で、そういった意味でも、良いコンビネーションでしょう。
この作品については、少し辛口になってしまいましたが、次作に期待しています (元日観に行きたいなー。鏡開き、まぁみりだし...)。
(こう簡単にはいかないぞ的なお話だったりする...。それはともかく、このコンビしかなかったでしょう。
「いま○○○○をー、すくう、みちは、(これしか) ない...(by Rudolf)」)