フォーエバー・フレンズ -62ページ目

11、大手町で待つもの(3)

現在東部工業大学の順位は11位。十分シードを狙える位置にあった。

鶴見中継所で一人ストレッチをする直哉。襷はつなげないにしても、それでもここまで一生懸命にやってきた。わずか十ヶ月で、箱根駅伝を走れるぐらいにチームは成長したのだ。

長距離界の天辺を知る直哉としては、もうこれで十分だと思っていた。


トップの順天堂大学が、10区へ襷をつないだ。もう大手町へまっしぐらと言った感じだった。そしてしばらく経つと、早稲田、山梨学院と襷をつないでいく。

そんな姿を直哉はぼんやりと見つめていた。尾崎は詩織の為に仲間の襷を大手町までつなぐと言ってくれた。しかし、勝負の世界とは思うようにはいかない。


大会委員が「繰上げスタートの準備お願いします」と言うと、直哉は、グランドコートを脱ぎ捨て、最後のウォームアップを始めた。

するとその時、大会委員が携帯で何やら話を始めた。そして「東部工業大学。準備を急いで下さい」と言った。

「え?」何がなんだかわからず、直哉は少し驚いた表情をみせた。

「9区のランナーが、後500m地点まで来ています」

「う、うそだろ!!!」


誰もが目を疑った。直哉自身も襷をつなぐのは無理と判断していた。

しかし尾崎は諦めなかったのだ。

直哉との約束を果たすため、必死な思いで戸塚中継所から走り続け、なんとすぐそこまで来ていたのだ。まさに奇跡の超特急とでも言うべきだろうか?


その一報を聞いた沿道の観衆は「おおお!」と、どよめきをあげた。

すると遠く向こうの方から緑色のユニフォームを着た選手が見えてきた。まぎれもなく尾崎である。

尾崎は「はあ!はあ!」息を荒げ、懸命な思いで走る。

もう全てを無くしても構わない。死んでもいい。そんな気持ちで走り続けた。


しかしもう時間が無い。

大会委員が時計を見ながらスターターピストルを空へと向けた。




「尾崎さん!!!」


そんな直哉の呼びかけに、尾崎は必死に走り続けた。何が何でもつないでみせると。


そして・・・。




なんと尾崎の襷は、ギリギリで直哉へと託されたのだ。

そして直哉が襷を渡され走り出した2秒後、「パン!」と繰り上げスタートのピストルが鳴らされた。


まさしく綱渡りのタスキリレー。尾崎は直哉との男の約束を守ったのだった。仲間の襷をつないだのだ。

あたりはもう拍手喝采。この尾崎の執念とも言える走りに、熱い拍手を送った。



走り終えた尾崎キャプテンは、鶴見中継所の側で大の字になって倒れていた。繰上げスタートまでわずか2秒。なんと奇跡の襷リレーを演じたのだった。

そして「はあはあ・・・」と息を切らしながら、その目からは大粒の涙がこぼれていた。

「やった・・・タスキ・・・つながった・・・タスキがつながった・・・やったよ・・・」






「やった!!!襷をつないだ!!!」

テレビの実況中継は興奮気味に、この様子を全国に伝えていた。

「なんと繰り上げスタートまでわずか2秒!!!戸塚、鶴見と続き、橋渡しの襷リレー!!東部工業大学、仲間の襷をつないだ!!!」






恵一の自宅の目黒のマンションでも、まどかと玲奈がソファーの上を飛び跳ねて「やった!やった!」と大騒ぎ。すると恵一が隣の部屋から、バンと扉を開いて出てきた。

恵一を見るや、まどかはガッと手を握り「きゃあ!やった!」と言って、その場をピョンピョンと飛び跳ねた。

「恵ちゃん!襷がつながったの!よかった!本当によかった!」

まどかがそう言ものの、恵一は至って淡々としていた。そして「ちょっと出かけてくる」と言って、上着を着込みだした。

「どこ行くの?」

「パチンコ」

「パチンコ???恵ちゃんやらないでしょ?」

「今日から始めた」

そう言うと恵一は、急いで自宅を出て行ってしまった。


部屋の片隅に置き忘れ去られた恵一の財布。その様子を見てまどかは思わず苦笑いをしてしまった。


「ひねくれもの」


玲奈が「ねえ、パパ何処行ったの?」と不思議そうな顔で聞いてきた。するとまどかは優しく微笑みながら「パパはねえ、直哉君の応援に行きました」と言って、玲奈を抱き上げた。