フォーエバー・フレンズ -45ページ目

4、生稲副部長(1)

恭子は恭子で、圭一郎のいなくなった丸和工務店の担当として、大変な毎日を送っていた。圭一郎の代わりに財務部長となった男は、はっきり言って会計やファイナンス等ズブの素人。ただただ青田のイエスマンだった。

「そんな!私怒られます」

「しかし青田社長がそう処理しろと言っているのだから」

ここ一カ月間に青田の使用した交際費は半端な量ではなかった。なんと銀座のクラブで一晩100万円以上の出費が数件。

「ちょっと待ってください。これは絶対に会議費なんかじゃ落とせません」

「あんたは税務署の為に仕事するのか!」

「違います。絶対に税務署が黙ってないです!ちゃんと複数に領収証を割ってください」

「カード決済だから無理だよ。なんとかしろ」

「そんな・・・」



それだけでは無かった。とあるシステム会社に1億円にも上る訳の分からない支払も計上されていた。とやかく言うつもりは無かったが、このいきなりの資金移動。恭子の経験上絶対に国税局が黙っているとは思えなかった。

丸和工務店は、東証一部上場の企業である。コンプライアンスに反する事が許される立場ではない。


困惑した恭子は、この事を早速大橋公認会計士に相談してみた。すると大橋先生は「困ったなあ・・・」と一言。

「どうしましょうか・・・」

「とにかく銀座のクラブに関しては、嘘の人数を明記させればいい。一人3,000円で全社的な会議で食事をしたとして処理すればいいだろう。ただ・・・これをあまり頻繁にやると国税が黙っていないからね。まあ、それは私から青田社長に言っておく」

「有難うございます」

「あと1億円のシステム費の件だけど、我々はあまりタッチしないほうが良いだろう。関係会社に払っていると言っているんだから、あまり干渉しない方がいい。ただ、根拠を正しておいてくださいと指導だけにしておいた方がいいね」

「はい・・・」




そんなこんなで、恭子は今日も夜遅くまで残務処理に明け暮れていた。圭一郎がいなくなった事で、会計処理も完全に丸投げ状態になってしまったからだ。

しかも青田が権力を手中に収めてからは、現金の移動が半端ではなく、もともと受取手形の多い丸和工務店は、資金繰りが悪くなっていく一方。自分に責任は無いとはいうものの、このままではデフォルトしてしまうのではないか?

そんな恐れすら持つようになってしまっていた。




そして・・・。



「野島さん・・・帰ってきて・・・」思わずそのような愚痴をこぼしてしまった。

すると突然、机の上に置いていた恭子のスマートフォンがバイブの振動音を発した。

「あ、野島さんだ」






圭一郎は珍しく六本木のバーで飲んでいた。

恭子は、そんなすこし洒落たお店の扉をカランカランと開いた。するとカウンターで一人ウイスキーを飲む圭一郎の姿があった。

「野島さん」

「やあ、恭子ちゃん」

「どうしたのこんなところで」

「いや、一人で飲むのもなんか寂しくてね。ごめんね」

「ううん。いいよ、いいよ。私も帰ろうかなって思っていたところだったから」

そう言うと恭子は、飲み物を注文して、圭一郎の隣にちょこんと座った。

「野島さん。丸和は大変な事になりそう」

「だろうね」

「何故わかったの?」

「だってあのイケイケの青田さんだよ。俺がいたころは自由にはさせなかったけど、こうなったらあの人好き放題にするのわかってたしね」

そう言うと圭一郎は少しヤケ気味に、ウイスキーをグイッと飲んだ。

「でももういいよ。だって親父があの人を社長に任命したんだから仕方ないよ」

「でも・・・」

「それに恭子ちゃん。俺、丸和に戻っても多分無理だと思う。だって結局お坊ちゃん育ちで何も出来ないんだから。最近優太と仕事してつくづくわかった。俺は工事現場の事なんて何も知らなかったんだよ」

圭一郎はかなり自信を失っていた。そんな圭一郎の姿を見ると、恭子も何も言えなくなってしまう。

「俺、情に弱すぎて、いつも判断を間違えてしまう。はっきり言って主体性が無いんだ。いつも人に流されて、結局失敗して。大体好きで丸和に入社した訳じゃないんだよ。野球選手になりたかったんだ」

「野島さん・・・でも、あの会社は野島さんのお父様が・・・」

「違うよ。東証一部上場だよ?株主様の会社だよ。青田さんにしても、俺にしても、親族間で何をバカなお遊びやっているんだろうね」

「・・・」

恭子は愚痴を言おうと思ったが、終始圭一郎の愚痴を聞かされてしまった。丸和にいたときより一回りも二回りも圭一郎が小さく見えてしまった。しかし、嫌気が指すわけでもない。ただ『野島さんをなんとかして丸和に戻そう』そんな事をずっと思っていた。