5、ふしだら(1)
圭一郎を追い出す事に成功した青田だが、それでもやはり圭一郎の存在は恐ろしい。
前述でも申し上げた通り、丸和工務店の持ち株比率は、父の野島克彦14% 圭一郎11% 青田幸介8% 太陽総合銀行10% 東京DL投資信託10% 社内持ち株会5%と言った感じである。
今は前社長の持ち株と、社内持ち株会、東京DL信託銀行の株で社長の座についているが、実は太陽総合銀行はもともと青田の社長就任には否定的だった。丸和工務店の長期借入金の大半は太陽総合銀行が受け持っている為、どうしても野島一族の資産担保というものが必要だったのだ。はっきり言って娘婿の青田の事をあまり信頼はしていなかったが、東証一部上場の丸和工務店、あまり波風は立てたくないというのが本音のところだった。
数の論理から言えば、前社長と太陽総合銀行の票を圭一郎が持てば、十分青田を陥れる事もできるのである。青田にとって一番恐ろしい存在は、下野したというものの、やはり御曹司の圭一郎であった。
圭一郎の宿敵である青田は、南青山の自宅マンションの書斎で、興信所から送られてきた書類に目を通していた。なんと青田は興信所を使って、圭一郎の日々の動向を探っていたのだ。ひょっとして太陽総合銀行とタッグを組んで何かを企んでいるのではと。
しかしそれもいらぬ心配であった。
「なんだと。土木作業をしているだと???」
青田は興信所からの報告書を見て、思わず目を丸くさせてしまった。『臥薪嘗胆』の言葉を口にし、啖呵を切って丸和を去って行った圭一郎が、優太と一緒に土木作業に従事している等、思いもよらなかった。
「わはは。ボンの奴気が狂ったのか!本当に臥薪嘗胆の真似事しているのか」
圭一郎の復讐を心の奥底で恐れてはいたが、これもいらぬ心配となってしまった。
「前社長はいずれ死ぬ。しかもボンはドカタ。これで丸和は俺の天下だ」
思わずそのような事を口にしてしまった。
その時、部屋の扉がコンコンとなった。
「はい」
すると、圭一郎の姉である桜子が、部屋の中へと入って来た。
「なんだ桜子?どうしたんだ?」青田がそう訪ねると、桜子は「圭の事探ってたんでしょ?」と逆に尋ねられてしまった。
「違う違う。どうして俺がそんな事を・・・」
「うそ!全部知ってるんだから。どうしてあなたはそんなに寝技ばかり使うの?社長になりたかったのなら、素直にそう言えばいいじゃない。いつも本音と建て前ばかり使いわけて・・・」
「いつも本音で言ってる」
「お父さんは勝手に辞めた圭が悪いって言っているけど、私にはわかる。あなたが圭を丸和から追い出したんだって」
「おいおい!」
「いつまでも嘘ばっかりついてないで。私と離婚する事でも考えたら」
「ちょ、ちょっとまて!」
青田がそう言って宥めるも、桜子はバタンと扉を閉めて部屋から出て行った。
権力を手中に収めた青田だが、家庭環境は最悪だった。
青田のもう一人の恐れる人物。それは圭一郎の姉、桜子の存在であった。桜子から離婚を告げられてしまうと、野島家親族としての大義名分が無くなってしまうからである。
「くそ・・・桜子の野郎・・・いずれ痛い目に遭わせてやる・・・」
青田はそう言うと、閉められた扉をキッと睨みつけた。