フォーエバー・フレンズ -363ページ目

4、交わした約束(3)


8のリストバンド
今日は恵はバイトが休みだった。

夕暮れの由比ガ浜を歩く陽一と恵の姿があった。

誘ったのは陽一だった。

昼ご飯を食べた後、突如恵の携帯にメールの着信があったのだ。

「由比ガ浜に行こう」と。

断る理由もなく恵は由香子に悪いと思いながらも、少しドキドキしながら家に帰るとすばやく着替えを済ませて、由比ガ浜へと向かった。

恵が由比ガ浜に着くと陽一は「近くに美味しいハンバーガーの店があるから行こう」と言い出した。

「これってひょっとしてデートなのかな」と期待をして恵は陽一についていった。

だが、そのハンバーガーショップは恵の想像とは遥かにかけ離れたものだった。

「汚い店・・・・」恵はその店を見た瞬間に入る気がなくなった。

今にも傾きそうな店に「ハンバーガーショップ マツイ」と雨で薄れかかった看板がかかってあり、まさに昭和の匂いプンプンの店である。

さらに外の換気扇は油でギトギトになって、黒ずんでいた。

だが陽一は「ココ美味しいんだよ」と、何も悪びれずに恵に言ったのである。

恵は潔癖症な一面があり、本当はこんな店は絶対に入りたくないのだが、陽一に連れられ仕方なしに入っていった。

店に座ると、狭い店内にカウンター越しの席が5つあった。

そしてテーブルや椅子に触れるとキュッという油っぽさを感じ、本棚にはエッチな雑誌が積み上げられていた。

恵はもう悲鳴をあげそうだった。

だが陽一は店のマスターに「いつもの下さい」と言った。

「こんな店でいつものって何だろう・・・」と恵が思っていると、大きなハンバーガーが、陽一の前にドンと置かれ、陽一はそれを美味しそうにモグモグと食べ始めた。

陽一の頼んだ大きなハンバーガーは、アメリカンバーガーと言って、普通より一回り大きいだけの、全くセンスの無い名前のメニューだった。

陽一は体育会系なので、大食いだった。

そのセンスのない名前のハンバーガーを、陽一はペロリと食べてしまった。

なにしろ陽一は身長185cmで体重80kgの巨漢で、しかも17歳の若さだ。

とにかくお腹の空く体であった。

恵は普通の大きさのハンバーガーを1つ頼んだ。

最初食べる気がしなかったが、陽一の美味しそうな顔を見ていると一口ぐらいは食べる気持ちになった。

恵は勇気を振りしぼって、目をつむって一口食べてみた。

するとこれが意外にも美味しかったのである。

「おいしい・・・・」思わず恵は舌鼓を打ってしまった。

ハンバーガーは美味しかったが、さすがに店の汚さには耐えられず恵はすぐ表に出て、由比ガ浜の空気を深呼吸するように吸った。

そして二人はそのまま浜辺を歩いた。

恵は陽一に「なんで由比ガ浜に誘ったの?」と聞いてみた。

すると陽一は「由比ガ浜が好きなんだよ」と淡々と言った。

「まだシーズンじゃないのに?」

「オフシーズンの由比ガ浜が好きなんだ」

さらに恵は「どうして私にメールしてきたの?」と聞いてみた。

「由香子がいるだろ。メールしないと山野と話せないだろ。俺、山野と話しがしたいんだよ」と言った。

その陽一の言葉に恵はドキッとした。

私と話したい?何それ?どういう意味?と思い「えっ?・・・何の話するの?」と訳のわからない質問をしてしまった。

陽一は「世間話だよ」と一言で言った。

「そ・・・そか・・・」恵は相変わらず陽一の事がさっぱりわからないが、何故か急に緊張してきた。

しばらく歩くと、今度は陽一が恵に質問しだした。

「山野ってハンバーグ焼く以外に趣味あるのか?」

「べっ・・・別に趣味じゃないよ。仕事だから・・・そうだなあ・・・趣味か・・・」

「例えば映画とか、読書とかさ、サーフィンとか・・・」

「そうだなあ・・・茜と喋っている時が楽しいかな」

「どんな話するんだよ?」

「そうだな・・・服の話とか・・・う~ん」

恵は言葉に困ってしまった。

「そうだ、徳永君早く試合できるといいね」

恵はあまりにも自分に話すことがない為、話題を陽一に振ってしまった。
「もうできるよ」
「えっ?野球って9人じゃなきゃできないんでしょ」
「そうだよ。その9人目がもうすぐ揃うんだ」
「誰なの?9人目って?」
「真だよ」
「どうして?遠山君は家庭の事情があるんでしょ?妹の面倒を見るとか」
「なんでそんな事知ってるんだ?わかった!茜って女から聞いたな。お前らバイト先で何喋ってんだよ」
「ちょ・・・ちょっと聞いただけだよ・・・で・・・どうして遠山君が野球部に入ってくれると思うの?」
「あいつと小6の秋にリトル世界大会で優勝したんだけど、真は春に両親の事情で引越ししたんだ。そしてその最後の日に一緒にスケートをやったんだけど、俺、最後車に乗り込んで去っていく真を泣きながら必死に追いかけたんだ。そしたら真も泣きながら車から身を乗り出してさ」
恵には今の陽一と真を見て、そんな姿を想像できなかった。
「陽一!同じ高校に行こうな!一緒に甲子園だぞ!と真が俺に叫んだと記憶していたんだよ」
「だから一緒にやるって事?4年も経っているんだよ」
「いや・・・はっきりと思い出したんだよ。真があの時に言った言葉を。実は今までのオレの記憶と少し違っていた。あの時もっともっと意味のある約束をしたんだ」
「何の事だか・・・」もう恵はさっぱりわからない。
すると陽一はポケットから一枚の写真を出して、恵に見せた。
それは小3の頃に横浜スタジアムで撮った、陽一と真の幼き日の写真だった。

「あっ、かわいい」

横浜スタジアムだよ。夏の大会の県大会決勝で港南学院の試合だったんだ。この間横浜スタジアムに行った時思い出して、古いアルバムから引っ張りだしてきた。港南学院が延長16回でサヨナラ勝ちして甲子園出場決めたんだよ。そしてその年の甲子園大会も優勝で春夏連覇だった。俺も真も一番のファンは巨人でも西武でもない。ウチの学校だったんだ」
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