6、経営者としての責任(3)
圭一郎が300万円ものお金を自分の貯金から卸し、太陽エンジニアリングの事務所へとやってきた頃には外はすでに夕暮れ時となっていた。
外灯が灯る事務所の入口前には優太が一人立っていた。圭一郎は300万円の入った封筒を優太に手渡すと「お金用意してきたぞ」と一言。その言葉を聞くと、優太は「どうやって用意したんだ」と聞いてきた。
「内緒だ・・・」
貯金を崩してきたなど恥ずかしくて言えなかった。すると優太は「野島、無理するな」と言って、その300万もの大金の入った封筒を圭一郎へと返した。
「お金は俺がなんとか都合つけた。知り合いの土木会社から頭下げて借りてきたんだ。だから心配すんな」
「・・・」
「野島、責任取るってのは謝罪でもなく、辞表書く事でもない。やっちまった損害に身銭はたいて払う事。これが責任って奴だぜ」優太はそういうと「あ~もうやんなっちまうよ・・・」と言ってすこしだけ笑って見せた。すると圭一郎は優太へ頭を下げた。
「優太、俺は間違っていた。いつも丸和にいた頃の考えで、丸和にいた頃の価値観で物を言っていただけだ。謝る。俺は、本当は駄目人間だ・・・今回それがよくわかったよ」
「あはは。いいんだよ。それでな、俺もあれからいろいろ考えた。お前の言う通り正式に会社として立ち上げようかと思っている」
「優太・・・」
「社会保険もキチンと整備してさ、労災も、雇用保険も。それで、ちゃんと帳簿も付ける。こういった場合の損害保険にもちゃんと加入してさ。とにかくみんなが安心して働けるようにしなきゃダメなんだよ。それも立派な責任って奴さ。だから野島、お前の丸和時代の経験と知恵を俺に貸してほしい。どうか協力してくれ」
そう言って優太も圭一郎と同じく、深々と頭を下げた。
「社長だろ。部下に頭を下げてどうするんだ」
「たのむ」
「優太の会社を立派な会社にするため、俺も全力を注ぐ。だから一緒に頑張ろう」
「ああ」
そして二人はガッチリと固い握手をした。
平成24年9月15日。
この日『株式会社 西原開発工事』の設立が決められた。
生粋の技術屋の西原優太。丸和工務店仕込みの経営学の達人、野島圭一郎。まだ28歳という若い二人は、お互いに力を合わせて歩み行く事を誓った。
そしてその後、優太は圭一郎に「野島、綾乃と付き合えよ」と言ってきた。
「え?」
「綾乃はフラフラしてるけど、結構いい奴なんだよ。いい奴すぎて断れずに小田社長の愛人やってるんだ」
「お前・・・知ってたのか?」
圭一郎がそう聞くと、優太はゆっくりと頷いた。なんと優太は、小田社長と綾乃の関係を知りながらアタックしていたのだ。
「そりゃ元請会社の社長の動向ぐらい知ってるよ。でも俺、それでも綾乃を幸せにしてあげたいと思ったんだよ」
「・・・」
「たとえ太陽エンジニアリングとの取引が無くなろうとも、綾乃をあの状況から抜け出させて、自分の手で幸せにしてやりたかったんだ」
そう言う優太の表情は、まるで涙をこらえているかのようだった。
「そして二人して頑張って、お互いビックになってさ。将来はベンツに乗りまわしてさ。豪邸に住んでさ。小田社長に負けないぐらいの生活させてやろうと・・・本当俺ってバカだろ?相手にそんな気持ちこれっぽっちもないのに、一人で突っ走ってばかりでさ・・・本当馬鹿だろ?」
「優太・・・」
「でもいいんだよ。これでいいんだよ。きっと綾乃は平穏な日々を求めてるんだと思う。お前みたいに優しくて、大人しくて、品のある奴とノンビリ暮らしたいんだろうって。だから、もしお前にその気があるのだったら、綾乃を幸せにしてやってくれ」