フォーエバー・フレンズ -33ページ目

6、経営者としての責任(4)

優太を連れて自宅に帰ると、早速ノートパソコンを開き、二人で事業計画を作成しだした。まず『西原開発工事』設立の為には、登記の準備から開始しなくてはならなかった。昨今の規制緩和により、事業設立の手続きはかなりスピード化されてはいるものの、やはり申請書類は煩雑である。

「まず、登記登録をしなければならない」

「うんうん」

「それで資本金なんだけど、優太は今いくらぐらいお金を用意出来る?」

「そうだな・・・200万円ぐらいだな」

「じゃあ、俺が100万円出資する。資本金300万円の確認株式会社という事にしよう」

「確認株式会社???」

「本来なら株式会社の資本金は1,000万円以上だけど、それ未満でも5年間は猶予される。但し、5年間であと残り700万円を積み立てないといけないけどね。それに資本金300万円なら、ある程度の業者間でも信頼はされると思う」

「そうか・・・」

「次に営業免許。業種は『一般建設業 土木工事一式』で、都知事の許可がいる」

「うんうん」

「それに必要なのは、まず経営管理責任者というものが必要」

「経営管理責任者?」

「そう、5年間以上この業界で役員を経験したものに資格がある」

「俺、役員なんてやった事ねえし・・・」

すると圭一郎はニコリと微笑んだ。七光りとは言え、圭一郎は大手ゼネコン丸和工務店で、5年間以上の役員経験があったのだ。

「あ!そうだったな。野島は役員だったんだよな!」

「うん。それとあと、専任管理技師が必要なんだ。優太、2級土木施工管理技士持っているか?」

「あたりまえだ。それくらいは持ってるさ」

「じゃあ、これでOKだな。11月初旬には西原開発工事を立ち上げられると思う。後は頑張るのみ」

すると優太は不思議そうな顔で、圭一郎に質問をしだした。

「なあ、野島。営業免許とって何かいい事あんのかよ。銭が逃げていくだけじゃ困るぜ」

「建設業の許可を取れば、500万円以上の工事が請け負えるようになる。例えば大型管の推進やシールド工事といった、金額の高い工事を直接請け負えるんだ。そうしたら一工事の売り上げがどかっと入るようになる」

「そうか。だから請負になってからあんまり大型管がまわって来なくなったんだな」

「多分そんな理由だと思う」

さらに優太から貰った過去の請求書を見ると、一工事平均100万円ぐらいで請け負っている事がわかった。ひと月に3工事で300万円。それから資材費、機器利用料等を相殺され、200万円ぐらいが残る。それから自分と吉村と川崎の給与、トラックのローン、燃料費諸々を差し引くと、50万円ぐらいが残る計算となった。これが優太の給料だったのである。

建設業の許可を取れば、元請の太陽エンジニアリングに対しても、大型工事の提案が出来るようになり、売上も増える。東京でも指折りの腕を持つ優太なら、きっとそれが出来る筈である。

「なあ野島、お前の目から見て、俺の仕事で一番銭になるのって何だ?」

「ベビーモールの、直径1mぐらいの大型管推しだな」

「ベビーモール?アンクルモールじゃなくてか?」

「50mぐらい掘るならそりゃアンクルモールがいいと思うけど、でもこのご時世50mぐらいの推進工事ってなかなか無いと思う。ただでさえ公共工事削減だからな」

「まあそうだな・・・」

「それにベビーモールはアンクルモールと比べて、設備の設置スペースを取らずに工事が出来るメリットがある。つまり周辺住民にあまり迷惑を掛けなくても出来る工法なんだ。しかも工期も早く低コストで済む」

優太は、圭一郎の話に興味深く聞き入っていた。全くその通りだった。先端のマシンにパイプで泥水を送り込み掘り進むアンクルモール工法は、地上に大きな泥水プラントを設置しなければならなかった。そんな大きなプラントを、住宅地に設置する事はまず出来ないのである。

しかし、鋼管を回しながら削り進むベビーモールの水平推しは、少量の水で掘り進める事が出来る。つまり泥水プラントの設置等不要である。マシンの撤去も早い。

さらに圭一郎の熱弁は続く。

「ベビーモールのデメリットは、アンクルモールのように軌道修正が利かない事と、長い距離を掘れない事。まあ距離はさておき、一番問題なのは掘り出したら右に左にと軌道修正が利かない事は一番の問題。つまり見えない地中の特性を読んで掘り進まなければいけない。だから、オペレーターの経験と勘が必要となるんだ。優太の強みはそこだよ」

「そうか・・・でも何で大型管なんだ。今みたいに小口径をチマチマやっていたら駄目なのか?」

「俺は職人として素人だからなんとも言えないけど、ただ、小口径で距離の短いものは、比較的簡単だから競合他社が多いと思う。でも、本来アンクルでやるような大型管を、あえてベビーモールで出来る会社はそうはないと思う。つまり、優太の経験と勘を生かせるのは大型管だと思う」

優太は圭一郎の熱弁を聞き、思わず感銘を受けてしまった。確かに圭一郎にはオペレーターをする程の腕前はまだ無い。しかしわずか2か月半で、ここまで推進工事を経営分析していたのである。しかも細かい資料も無く、ただ現場を見ただけで言っているのである。

これにはビックリしてしまった。

『西原開発工事』のビジネスモデル。それはベビーモール工法による大型管推しとなった。

あと気がかりな事は、先日優太が殴ってしまい、怒って辞めてしまった吉村の存在だった。

「優太、吉村君の事なんだけど・・・」

「あいつは駄目だ」

「どうしてだ?」

「あいつはオペレーターなんかにはなれない。一生手元で終わる。俺が一つ一つ指示すればテキパキ仕事するが、一人になると手抜きしやがる」

「そんな事はない。彼は、根は真面目な人間だ」

「あんな簡単なチェックもしない奴だ。何処が真面目だ!」

そう言うと優太は、冷蔵庫から勝手にビールを取り出して、飲み始めてしまった。とにかく吉村の事となれば、優太は絶対に引こうとはしなかった。

「う~ん・・・」

流石の圭一郎もこれには困り果ててしまった。このビジネスモデルは人ありきの事である。優太が吉村の事を悪く言うも、優太に次ぐ腕前を持つ吉村の存在はやはり必要不可欠であった。