6、経営者としての責任(2)
バキッ!
太陽エンジニアリングの資材置き場。次の現場へ乗り込む為の段取りをしていた吉村を、優太はなんといきなり殴り飛ばしたのだ。
「優太やめろ!」
圭一郎がそう言って必死に止めるも、優太はさらにケリまで食らわす始末。
「てめえ!中詰めの時、塩ビ管の中を見なかっただろ!」
「1ミリの誤差だから大丈夫かと・・・芯で通ってるから・・・」
「芯で通った塩ビほどモルタルで浮き上がる事知ってるだろ!何で水を流して確認しない!」
「知りませんよ・・・」
「知ってんだろ!」
すると優太はさらに吉村を殴り飛ばした。殴り飛ばされ口から血を流す吉村は、半ばキレ気味に「うるせえ!社長面すんな!バカなくせしてよ!」と管をまいた。
「なんだと!」
「保険も保障も何もないのに、俺たち日雇いで働いてやってんだよ!稼ぎは全部お前の酒代!もう辞めてやるよ!」
そう言うと吉村は、資材置き場を立ち去って行った。
「吉村君!」
「野島!放っておけ!」
すると今度は圭一郎が優太を叱りだした。
「優太!自分の部下に暴力をふるっていいのか!」
「言ってわかんねえ奴は殴るしかないだろ!」
「吉村君にだって言い分がある!」
「うるせえ!口答えするなら・・・」
「口答えするなら腕を上げろか?それじゃ腕がよければ何をしてもいいのか?腕が良ければ法律を破ってもいいのか?」
「・・・」
「腕が無い奴は保険にも入れないのか?」
すると優太は一枚の紙切れを圭一郎に見せた。それは今回の工事失敗の損害賠償の請求書だった。なんとその金額300万円。
「300万円・・・」
圭一郎はその請求書に書かれた金額を見て驚いてしまった。ほんのわずかな手抜き工事で300万円も飛んでしまったのだ。すると優太は、至って冷静な口調で話し始めた。
「お前こんな思いした事ないだろ。人のやったミスで、自分の財布から300万払わないといけないんだぞ。いくら綺麗ごと言ったってこれが現実さ」
「・・・」
「野島、もしお前の言う会社経営とやらが正しいと言うなら、今すぐ300万用意してこいや」
この優太の言葉を聞くと、圭一郎は「わかった」と言って、その場を立ち去った。
圭一郎にも少なからず意地たるものがあった。それは元丸和工務店財務部長取締役としての意地だった。
翌日、圭一郎は丸和工務店時代の御用達だった太陽総合銀行麻布支店を訪れた。
「そんな!野島さん300万の借入なんて無理ですよ!」
「そこをなんとか」
「だったら金利15%のローンしか・・・」
「そんなサラ金みたいのじゃなく、金利2%で貸して欲しい」
「無理です」
行員はそう言ってキッパリと断った。
「何故ですか?今まで沢山世話してきたじゃないですか。お貸し願えませんか」
「野島さん。大変申し上げにくいのですが、当行は丸和工務店様にご融資をさせていただいた訳でして、野島さんご本人にご融資した訳ではありません」
「それじゃあ、どうすれば貸していただけるのですか?」
「ええと。担保を入れていただければ・・・」
「それじゃ、僕の住んでいるマンションを抵当に入れたらどうなりますか?」
圭一郎のその言葉を聞いた行員は、一旦奥の部屋へと行き、圭一郎が住む不動産の資料を持って再びやってきた。そして「残念ですが、野島さんの住むマンションは、丸和工務店の所有物でございますので・・・」と心苦しく話した。
「そんな!」
銀行を出ると、まだまだ熱さの残る9月の太陽が、容赦なく照りつける。
情けなかった。去年父に買ってもらったと思っていた自分のマンションは、なんと丸和工務店の所有物であったのだ。