13、まけるもんか(5)
その後も速見は気力で投げ続けた。
スクリューが落ちなくなり、カーブも曲がらない。
腕が重い。握力が無い。足が上がらない。
でもそれを跳ね返すかのごとく、恐ろしい程の気力で投げ続けた。
連打を浴びても、全員がファインプレーで速見を救った。
「速見さん、みんながついている。頑張れ!」
選手達の励ましの声が、もうろうとしている速見を動かしていた。
そしてもうどっちが勝ってもいいと、観客は両校の決死のプレーに必死のエールを送っていた。
そして延長15回表
ここまで気力で投げていた速見は、遂に淀商打線に捕まってしまった。
2アウトランナー一塁で、大河内の放った打球は、陽一の頭上の遥か上を越えて行って、そのままセンターバックスクリーンへと消えていった。
打った瞬間に入ったとわかり、大河内はバッターボックス上で吠えまくった。
4―6。この大河内の本塁打で遂に淀商は勝ち越した。
15回表が終わると、時刻は午後4時半になっていた。
15回全てを投げ終えた速見は、これから夕焼けが差しかかろうとしている甲子園の空を見上げた。
最後に点こそ取られたものの、なんとか投げぬいたのだ。
予選大会から全て一人で投げ抜き、そして今日ここに熱い200球で、速見の熱投は幕を閉じた。
ベンチに帰ると、速見は疲れた体を起こして、みんなに言った。
「みんな・・・今まで本当に有難う。こんな夢を見させてくれて本当にありがとう」と涙した。
すると陽一が「速見さん、まだ試合は終わってないですよ」と言って速見の肩を叩いた。
「そうだよ速見さん、まだ終わってねえよ」真も言った。
「頑張って点取りましょうよ」修二も言った。
文麿は「絶対優勝だ!」と言って、大声で吠えた。
そしてみんなが一丸となって最後まで戦う事を決意し、円陣を組んだ。
そうだ、負けるもんか。
そうやって今までいろんな苦難を乗り越えてきたんじゃないか。
15回裏、港南学院高校の攻撃。
引き分けなら再試合となるが、もう速見にそんな力は残っていなかった。
なので港南学院は、ここで勝敗を決めなければならなかった。
だが8番の利根川、9番の慎太郎は、凡打で終わってしまい、もはや万事休すとなった。
2アウトランナー無しで、バッターは1番の文麿。
文麿はバッターボックスで天を仰いだ。
「由香子、目覚めているのか?教えてくれ。そしてお願いだ。俺に力を貸してくれ」そう願ってバッターボックスに立った。
だが神はまだ港南学院を見捨てていなかった。
文麿の放った打球は、三遊間を抜けたのだった。
「よっしゃあ」
文麿は日が傾こうとしている甲子園の空に向かって、右手を高らかにあげた。
そして続く修二に「修二!頼む!繋いでくれ!」と叫んだ。
その文麿の言葉に、修二はコクリとうなずき、バッターボックスに入った。
そして修二は、渾身の力を込めて5球目のストレートを振り切ったのだ。
打った打球は、ライトフェンス直撃の2塁打となった。
これでランナーは2塁3塁となった。
もう淀商の優勝は決まったものだと、観客のほとんどがそう思っていたが、港南ナインはそれを許さなかった。
大河内は「しぶとい。ほんまにキツイなあ・・・」と関西弁でつぶやいた。
次は3番の陽一だったが、大河内はまた立ち上がった。
大河内は、ファーストベースが空いているのを利用し、陽一を敬遠させた。
陽一は、バットをヒョイと投げて一塁へ向かおうとした際に、真と目が合った。
そして、昔を思い出したかのように拳を出して「真、頼むぜ」と言った。
すると真は小さくうなずいた。
15回裏、2アウト満塁となったフィールドに、真は最後の勝負に出るのであった。
真のバッターボックスに立つ姿は、いつもより大きく見えた。
陽一がいつも言う真の4番とは、まさしくこの事だった。
何かをしてくれる。真なら何かをしてくれる。
1塁ランナーの陽一はそう信じていた。
第1球目真は大きな空振りをしたが、真は動じずにピッチャーを睨み付けた。
2球目はボールだった。
ブラスバンドはいつの間にか演奏をやめてしまい、静まり返ってしまった。
観客もこの一戦に固唾をのんで黙り込んだ。
球場内は、シーンと静まり返ってしまった。
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