13、まけるもんか(7)
仁科先生率いる港南学院選手が1塁ベンチから出てくると、甲子園の観客達が立ち上がって暖かい拍手で選手達を迎えた。
その暖かい声援の中、選手達はアルプス席へと歩いて行って、そしてみんなで礼をした。
あたりはピー!ピー!と指笛が鳴り響き、割れんばかりの盛大な拍手と大歓声が鳴り響いた。
そしてみんなに熱い思いが込み上げてきて、悔し泣きの顔は、やがて美しいさわやかな笑顔へと変わっていった。
スポーツは勝ち負けだけが全てではない。
全力を尽くす事こそが大切なのだ。
「よく頑張った港南!本当によく頑張った港南!球場内は今両校の選手達にあたたかいエールを送っています」実況のアナウンサーは涙声で声が枯れる程、絶叫していた。
恵も由香子の手を両手で握り締めながら、テレビ画面を見て涙を流した。
観客への挨拶が終わると、大河内と篠宮が1塁ベンチにやってきた。
そして大河内は「お前ら本当に強かった」といって速見と握手を交わした。
すると報道陣のカメラマン達が、無数のフラッシュをたいて撮影し、沢山のテレビカメラもその瞬間をとらえた。
篠宮は陽一に「来年は絶対にうたれないからな」と言った
陽一は「来年またここで会おう」と言って篠宮と固く握手をした。
すると大河内は、陽一と真を両方に抱き寄せ「記念撮影や!」と言った。
そして「これで撮ってください」とカメラマンへ要望すると、また無数のフラッシュがともった。
大きな男3人が肩を組んだ姿。
それは戦い終えた後の、男の友情だった。
そしてその3人の後ろのテレビカメラの前で、文麿が土下座しながら「由香子、起きたか?ごめん準優勝だったよ」と言った。
それをテレビを見ていた由香子は、涙ながらに笑って「一ノ瀬の馬鹿」と言った。
真は一塁内野席の茜をみつめると、茜も泣いていた。
真は茜に向けて親指を立ててポーズをとると、茜は涙を流した綺麗な笑顔で、真と同じように親指を立てた。
少し時間が立って球場内が静かになってきた頃、速見は陽一に「土どうする?徳永もって帰るか?」と聞いてきた。
「いりません。また来年来ますから。速見さんこそ持っていって下さい」陽一がそう言うと、速見は夕焼けが差し掛った甲子園の空を見つめながら「いらない」と言った。
「どうしてですか?」と陽一が聞くと、速見は「全部ここに置いて帰りたいんだ・・・」と笑顔でそう言った。
そして「そうだ!最後に仁科先生を胴上げしようぜ!」と言った。
「ええ!私スカートだからダメ!」と仁科先生は断ったが、生徒達に無理やり連れて行かれた。
そして仁科先生は、涙を流しながら生徒達に胴上げされ、甲子園のフィールド上に舞った。
こうして球児達の夏の夢は幕を閉じた。
みんな本当に良く頑張った。
だから胸張って横須賀へ帰ろう。
宴が終わり、茜は今朝甲子園から無事に帰ってきた。
由香子も完全に意識を取り戻した。
そして選手達が昼前に汐入駅へと到着すると、駅前には大勢の
昼すぎ、恵は家で夏休みの宿題をしていた。
なにしろ、ずっとアルバイトと由香子の看病で、宿題はたまったまんまだった。
すると恵の携帯に、陽一からのメールが届いた。
『鎌倉駅前のバスロータリーで待っている』
そのメールを見ると、恵は込み上げる気持ちを抑え切れずに家を飛び出して、鎌倉の町へと駆け出して行った。
おかえり陽一。
ずっと会いたかった。

(c) ホワイトバランス
|写真素材 PIXTA
恵が鎌倉駅のバスロータリーで待っていると、陽一が改札口を抜けて、あたりを見回し恵の姿を探した。
その陽一の姿を見つけると恵は「陽一!」と言って、躊躇せずに走りだした。
その声で、陽一も恵の姿を見つけ「恵!」と言って走り出した。
恵が陽一の大きな体に抱きつくと、陽一は恵を抱き上げた。
そして二人はキスをした後、お互いのおでこをすり合わせた。
「陽一、会いたかった。大好きだよ」
面白いと思った方、投票お願い致します。
↓↓↓
にほんブログ村