14、責任とは(2)
そんなごたごた騒ぎの中、週刊誌に港南学院の記事が載った。
見出しは『名門復活の裏側』『部員のオートバイ事故で、女生徒半身不随』。
校長先生にとって一番恐れるのはメディアであり、その為校長はずっとその対応に追われていた。
二人の担任である仁科先生は、職員会議で他の教職員達に吊るし上げを食らっていた。
「大体担任教師が、甘いんだよ」と。
教諭達は、甲子園準優勝の野球部顧問の仁科先生に対する嫉妬心を、これを期に大爆発させた。
最近は校長先生からも信頼を置かれている仁科先生が、他の教諭達は面白くなかったのである。
人間というのは本当に厄介な生き物で、いつも敵は内部にいるものである。
そして保身故の嫉妬心の塊で、同僚の成功なんて喜ばないものなのだ。
それに比べて野球部は美しすぎた。
その日の放課後、仁科先生はその美しき野球部の練習を珍しく見ていた。
野球の事は何も知らない。
だけど選手達に見えない机の上で、仁科先生はこれまで野球部をバックアップしてきた。
お金の管理、備品の購入、練習試合の調整、宿泊先の手配、連盟との窓口。
その仁科先生の功績を、各部員は十分にわかっていた。
第一、仁科先生がいなければ、練習試合すらできなかったのである。
仁科先生はその美しき教え子達を見て「もう私がいなくても大丈夫だね」と心に思った。
甲子園準優勝の野球部の顧問。采配は名将古屋監督がやってくれる。
こんなに美味しいポストは無く、最近は各教員が出世の為に顧問になりたがっている程だ。
泣き虫先生の仁科先生の目に涙は無く、まるで全てをし尽くしたという満足の表情だった。
そして「みんな、私を甲子園に連れて行ってくれて、本当に有難う」とつぶやいた。
仁科先生は決心したのだ。
次の日の朝、仁科先生は校長室を訪ね一枚の封筒を校長に手渡した。
その封筒の表書きには『退職届』とボールペンで書いてあった。
「仁科先生!どういうつもりですか」
「私、一ノ瀬君がバイクに乗っている事を知っていて、適切な指導を怠りました。結果手嶋さんは今半身不随です。責任をとって辞職します」
「待ちなさい、確かに我校はオートバイ禁止だ。だから校則に従って、一ノ瀬君を2週間の停学処分にした。しかし事故はそれとは又別の話で、センターラインを飛び出してきた相手側の過失の方が大きいんだ。それに先生は一ノ瀬君がバイクに乗っている時に、ちゃん注意したんだろ?」
「でも学校には内緒にしていました。これは指導を怠った事と同じです」
校長先生はしばらく黙って考えた。
そして「わかった。取りあえずこれは預かっておくよ。一週間程有休を取って考えなさい」と言って、仁科先生の退職届を机の中にしまった。
だが仁科先生の決意は固かった。
終礼の際、仁科先生は最後に全員の顔を見渡して、そして「終わります。皆さんそれじゃあ」と寂しく言って去っていった。
恵は直感的に嫌な予感がした。
仁科先生はいつも笑顔で「また明日」と言うのに、今日の仁科先生は何かが違う。
その恵の嫌な予感は的中したのだ。
そしてその日を境に、仁科先生は学校に来なくなってしまったのだ。
陽一と恵が平日の日に二人っきりになるのは決まって夜だった。
陽一は部活、恵はバイト。
そして毎晩日課のように、二人で横須賀駅前の夜の港を見ていた。
「陽一、先生なにか変だよ」
「夏風邪でも引いたんだろ。今年の夏忙しかったから」
「私、心配になってきた・・・」
陽一も文麿の問題で、一杯だった。
「なあ恵、責任って何だろうな」陽一は突然野球以外の話を恵に聞いてきた。
「わからない。でもよく政治家の人や社長さんが、責任を取るといって辞任ってするよね」と恵は言うと、ハッと思った。
そうだ、仁科先生はその責任を取るつもりなんだと咄嗟に思った。
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