フォーエバー・フレンズ -312ページ目

14、責任とは(4)

校長先生が去った後、部室は水を打ったように、静かになった。

しばらくして古屋監督がやってきたので、陽一が事情を話すと古屋監督はしばらく黙っていた。

そして「そうか、そうなってしまったか・・・」と言った。

「監督、俺達はどうしたらいいんですか?」と陽一は古屋監督に相談をもちかけてみた

すると古屋監督は「そうだな・・・少しお前達で考えてみろ」と言って、今日の練習を中止とし、帰っていった。



時刻は午後8時になっていた。

みんなずっと黙っていた。

もうどうしていいかわからないのだ。

するとその沈黙を裂くように、真が口を開いた。

「先生も辞めて、文麿も辞めて、由香子は引きこもり状態・・・これで何が解決したんだろう?」真は上の空の表情でそう言うと、帰る準備を始めた。

そして「陽一、俺がいいたい事はそれだけだ。最終的に野球部としてどうしたいのかは、主将のお前が決めろ。お前が決めた事に俺は従う」言って去っていった。

真がいなくなると、しばらくの間また沈黙が続いた。

すると今度は修二が口を開いた。

「一ノ瀬さん、甲子園の初戦凄かったなあ。あのサイクルヒットでチームが波に乗ったんだよ」と言った。

すると司も「そうだった。あれはでかかったよ。一ノ瀬君がいなかったら、ここまで来れなかったよ。そうだもっと言えば、仁科先生があの時顧問受けてくれなかったら、甲子園どころか練習試合も無理だったんだよ。本当にみんなの力があったんだよ」と言った。



真はミーティングを引き上げると、茜と一緒に汐入駅から電車に乗った。

「大変だね」

「最悪だよ」と言った瞬間何かに気付いたように真は口を閉じた。

「真、どうしたの?」と茜が聞くと。

真は「マスコミがつけてるな」と言った。

列車内を見渡すと、こちらの方をチラチラと見てる男たちが数人いた。

茜はマスコミってこんなに怖いんだと、事の大変さを痛感した。

「ねえ真のスキャンダルにならないかなあ」と茜が心配すると「大丈夫だ。茜を実名で載せたりはしない。奴らは俺達の話に聞き耳立てて、学校のアラ探しをしてるんだよ」と言った。



人間とは大変怖いものであり「私は人の噂なんて」など綺麗事を言いながらも、結局はそのような報道がなされると、食卓の箸を止めてテレビに見入ったりする。

そしてその番組を見る何の利害関係もない者達は、それが良いだ悪いだと言って話のネタにする。

そんな人達の為にマスメディアとは存在し、そして販売部数や視聴率を強みにして、企業から巨額のスポンサー料金をせしめている。

このような力に日本人は愚民化されているのである。



次の日恵は大胆にも賭けに出た。

由香子の両親は娘可愛さ故に、由香子の言いなりになっている。

学校は来れないにしても、病院でリハビリすらさせていない。

これでは由香子はこのまま引きこもりになってしまう。

しかも体が不自由なままである。

由香子を心から思う恵は、由香子の部屋に突入しようと考えたのだ。

おとなしい恵にとって、これは一大決心なのである。



そして当日の朝、恵は由香子の家のインターホンを鳴らした。

すると由香子の母親が出てきた。

恵は「お願いです。由香子に会わせてください」とお願いをした。

「恵ちゃんごめんね。由香子が誰にも会いたくないと言ってるのよ」と由香子の母親は恵の予想通りの返答をしてきた。

すると恵は、由香子の母親を押しのけて、玄関へ入って行った

「ちょっ、ちょっと!恵ちゃん!」という由香子の母親の叫び声で父親も出てきたが、恵は由香子の父親も振り切って、一気に階段を駆け上がった。

そして由香子の部屋の扉をバタンと開けた。

由香子は布団の中に潜り込んでいた。

「由香子!いつまでこんな事するの!」恵は珍しく声を張り上げた。

だが、由香子は布団から出ようとしない。

恵は布団を剥ぎ取った。

「由香子!リハビリぐらいやろうよ!じゃないと寝たきりになっちゃうよ!」

すると由香子は涙声で「だって・・・トイレだって一人でいけないんだよ・・・もう死にたいよ・・・」と言った。

「トイレは私が面倒みるよ!」

「いやだよ・・・」

「私、由香子が意識がなかった時、オムツだって替えた。だから大丈夫だよ」

すると由香子は「じゃあ恵がオムツ履いて学校行けばいいじゃん!」と声を張り上げた。

そして「恵なんか大嫌い!」と言ってワンワン泣き出した。

完全に恵の失言だった。

興奮してしまい、いつものように冷静に話しができなかった。

そして恵は由香子の両親に、部屋から連れ出され、玄関先で由香子の父に「もう来ないでくれ!由香子に関わらないでくれ!」と言われた。



しかしその由香子の父親の言葉は、恵の心を一気に爆発させてしまったのである。

「いいかげんにして!おじさんもおばさんも何歳まで生きるの!由香子が死ぬまで面倒見るの!」恵はブルブルと震えていた。

子供の頃から今までこんなに怒った事は無かった。

「なんで由香子の言いなりなの!本当に由香子の事思ってるの!」顔が真っ赤に紅潮し、わけもわからず涙まで出てきた。

普段は絶対に見せない恵の怒りを見た由香子の両親は、唖然としてしまった。

恵は両親が由香子好かれたい気持ちだけで、娘の言いなりになっているのを無責任に思えたのだった。


すると階段の上から「恵・・・・」と声が聞こえた。

由香子は歩けない体を引きずって、階段のてっぺんから顔だけ出していた。

その由香子の顔は涙でいっぱいだった。

「恵・・・私病院行くよ・・・リハビリするよ・・・」

「由香子!」

「恵・・・病院に連れて行って・・・」

恵はその日学校を休んで、由香子を車椅子に乗せて病院へ連れて行った。

そして由香子の懸命なリハビリが始まった。


写真素材 PIXTA
(c) ella写真素材 PIXTA


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