フォーエバー・フレンズ -310ページ目

14、責任とは(6)

ふと恵が目を覚ますと、空が明るくなりかけていた。

そして恵の体には陽一の長袖のシャツが、そっと掛けられていた。

陽一が何処に行ったのかとあたりを見回すと、陽一は一人浜辺に座って夜明けの海をみつめていた。

恵は自分にかけられていた陽一のグレーのシャツを持って、浜辺へとゆっくりと歩いて行き「陽一、風邪ひくよ」と言って、陽一の肩へシャツをそっと掛けた。

「ありがとう」

陽一の顔は、なにもかも決断がついたように吹っ切れていた。

「なあ恵、俺なんとなくわかってきたよ」

「何が?」

「3年前になんで港南の野球部が崩壊していったのか」

「そうなの?」

「結局誰かがハラキリしても、何の解決にもならないんだよ。そんなの責任でもなんでもないんだ」

恵は黙って陽一の話を聞いた。

「3年前に前監督を辞めさせて、そして次の監督も責任とって辞めて、一体何が残った?今仁科先生が辞めたら、野球部は絶対に崩壊する。間違いないよ。出世目的にくる顧問なんて、誰もついていかない一ノ瀬がやめても同じだ。あいつがいなかったら、このチームは勝てないんだ。あいつが足でかき回すから、俺と真は打てるんだ。あいつが盛り上げてくれたからここまでやれたんだ。いや・・・誰一人欠けても駄目なんだよ。誰一人欠けても野球部は成り立たないんだ」そう言って陽一はこれから日が昇ろうとする夜明けの由比ガ浜の空をみつめた。

「恵、責任とは辞める事じゃなく、次の一歩を踏み出せるようにする事なんだ」


そうだ、俺達はこの由比ガ浜の夜明けの空と一緒なんだ。

今はただ沈んでいるだけで、再び日が昇ろうとしているんだ。



この17歳の若者も恵と同じくまた一歩強くなろうとしていた。



写真素材 PIXTA
(c) すなべしょう写真素材 PIXTA


次の日の昼下がり、仁科先生は学校へやってきた。

正門前の校舎を見つめると、仁科先生は「さよなら、みんな」とつぶやいた。

そして校長室に入ると、仁科先生は自分の意思が変わらない事を、校長先生に伝えた。

「そうか・・・残念だ・・・」と校長はポツリと言った。

仁科先生は「勝手言ってすみません」と言って、校長へ深く頭を下げた。

「しかしね、生徒達にも気持ちってのがあるんだよ。生徒は君を甲子園に連れて行って、正教諭にすると言ってたんじゃないか?確かに最初は冗談で言ってたかもしれないが、生徒達はその約束を果たしたんじゃないか?違うか?」

仁科先生はずっと下を向いていた。

その時「その通りだよ!」と廊下から声が聞えた。

仁科先生は驚いて入り口の扉を見ると、陽一をはじめとする全部員が校長室に入ってきた。

「みんな・・・・」

「先生、絶対に辞めさせない。先生が辞表を撤回しないと、俺達はここを離れない

陽一も賭けに出た。

そして全員が肩を組んで、校長室を封鎖した。

「徳永君・・・みんな・・・これは大人としてのけじめなの」

「ダメだ!絶対にここをどかない」

「徳永君!ダメ!そこをどいて!」と仁科先生が言うと、古屋監督が選手の間から出てきた。

「古屋さん・・・」

「先生、これだけあなたを慕っているこの子達を置いて、去って行くあなたの責任とはなんなんだ?」

「古屋さん、でも・・・私は取り返しのつかない事をしてしまったんです」

「それじゃあその解決策を、この子達と一緒に考えればいい。答えはこの子達がもっているんだよ」

仁科先生は下を向いた。

「この子達はあなたの期待に応えたじゃないか。あなたを甲子園に連れて行ったじゃないか。だからこの子達をもっと信頼しましょうよ」

司は涙目で「先生、俺達先生が辞めるなら、廃部する事にした。先生がいなきゃ俺達ここまでやってこれなかったんだ。先生がいてくれたから、甲子園まで行けたんだよ」と言って、A4サイズの『廃部申請書』を仁科先生に見せた。

その廃部申請書を見せられて、仁科先生は泣き出した。

「みんなだめだよ・・・・廃部なんて・・・やっとここまでこれたのに・・・」

すると今度は修二が「やっとここまでこれたんだ。だから・・・これからも・・・・これからも・・・」最後まで言えず、泣き出してしまった。

そして古屋監督は「みんなで一緒に考えて行こう。この子達はあなたの教え子じゃないか。教師が生徒を信用しないでどうするのですか」と言うと、仁科先生はその場で泣き崩れた。

古屋監督は「さあ、行こう。答えをこの子達と考えよう」と言って、泣き崩れる仁科先生の両肩をしっかりとつかんだ。



『泣き虫先生』が復活した。

そして仁科先生の辞表は校長室のゴミ箱へ捨てられ、そして次の日ゴミ回収業者が持っていった。


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