14、責任とは(8)
「港南学院高校野球部、主将の徳永です。この度は野球部が大変御迷惑をお掛けいたしました」陽一はまず、報道陣の前で深く頭を下げた。
「まず、野球部員がオートバイ事故を起こした事は事実です。そしてそれが原因で半身不随となった生徒がいるのも事実です。このことについて、本人も大変反省しています。
最初責任をとると言って、野球部の部長が辞めるといいました。そして事故を発生させた部員も、責任を取る為に学校を退学するといい、怪我をした生徒の為に働いて、償いをするとまでいいました」
報道陣は陽一の話を黙って聞いていた。
フラッシュをたく音だけがパシャパシャとなり、秋になり少し白みの出てきた陽一の肌を容赦なく照らした。
「野球部員達はこの一ヶ月間大変悩みました。それは先生も、事故を起こした部員も、そして怪我をした生徒も、みんな大切な仲間だったからです。この野球部は今年の4月までたった3人しかいない同好会でした。そして、家庭の事情で野球がしたくてもできないもの。目的を失って、野球から遠ざかっていたもの。いろいろな事情を抱えた生徒が集まり、そして本当に一生懸命努力して甲子園にいくまでになりました」
陽一の目は少し涙で潤んできたが、力を振り絞って話しを続けた。
「それは、部員だけの努力ではなく沢山の人が努力をしてくれたおかげでもあります。野球部部長は、試合がしたいという僕達の願いを聞き入れてくれて、野球のルールすらもわからないのに、僕達の為に野球部の顧問を引き受けてくれました。そしてそんな健気な先生を甲子園に連れて行くといって、僕達も努力をしてきました」
陽一は少し言葉を詰まらせながらも、話しを続けた
「事故を起こした生徒も野球部を大変盛り上げてくれました。そして大活躍もしてくれました。怪我をした生徒もこんな野球部をいつもグラウンドへやってきて応援してくれました。こうやってお互いが信頼しあって、絆を深めて会ってきました。だから僕達は、誰一人欠けても、この野球部は成り立たないと思いました。この問題を、誰かが辞めて解決するなんて事は、とても耐えられませんでした。誰かが辞めて解決できる事はこの世の中に一つもないと思いました」
陽一は目に涙を潤ませた。
「そして僕達はこの問題に対して、連帯責任を取る道を選びました。連帯責任として4月まで練習試合を含む、全ての対外試合を自粛します。つまり選抜も辞退するという事です。これが今の僕達にできる最大のケジメなのです。そして今朝この事を連盟に連絡し、正式に決定されました。大変御迷惑をお掛けいたしました」
陽一はそう言って、最後にマスコミの前で頭を下げた。
そして陽一に無数のフラッシュがたかれた。
恵は物陰で、陽一の姿をずっと見ていた。
パシャパシャとフラッシュをたかれる陽一の姿は、恵にとってとても痛々しく感じた。
陽一がそんなに強くない事を知っている恵は、とても見ていられなかった。
そして体育館の片隅で、泣きそうになりながらうつむいた。
陽一にとって、これしか方法が見つからなかったのだ。
しかし陽一が謝罪した事によってマスコミの攻撃は下火となり、やがて一連の騒動は鎮火した。
本当にこの半年は、いろいろと大変な半年であった。
しかしこの大変な経験は、若者達を一回りも二回りも大きく成長させた。
やがて野球部には以前と同じような活気が戻ってきた。
文麿も元気を取りもどし、日々練習に励んでいた。
仁科先生は相変わらず契約教諭だが、以前と同じように野球部部長を担当していた。
そして以前と同じように生徒の為にグラウンドではなく、いつも机の上から影で活躍をしていた。
由香子は車椅子姿のままだが、また野球部の練習を見学するようになり、そしてマネージャーをやってみたいと陽一に言ってきた。
そして懸命にスコアブックの付け方を覚えたり、車椅子に座ったまま膝の上にタオルの入った籠を乗せて部員にタオルを配ったり、練習中に怪我をした部員の傷の手当てもしたりした。
そして恵・・・。
恵はまた『ハンバーグマスター』へ復帰し、毎日粗挽きハンバーグを美味しくカットしていた。
冬物の学生服に衣替えをしたばかりの陽一と恵は、雨が上がったばかりの昼下がりの横須賀港を歩いていた。
「お父さんとお母さんが、陽一を見てみたいから、たまにはご飯食べにおいでって言ってた。一人ぼっちじゃ大変でしょって」
「いいのか?俺、かっ食らいだぞ」
「いいよ。ウチ弟もいるからいつも沢山作るの。足りなかったら、私のも食べてもいいよ」
「食わないと倒れるぞ」
すると恵は陽一の前に出て「ねえ陽一、私の事好き?」と聞いた。
陽一が「ああ」と面倒臭そうに返事をすると、恵は「ちゃんと好きって言って」と言った。
「やだよ」
陽一のつれない態度に「わかった。じゃあこの手紙、大声で読んであげる」と言って、甲子園の宿舎で、陽一が恵に書いた手紙を取り出した。
陽一は「やめろ、恵!」と言って、恵を追いかけた。
しばらく二人で走ると、恵は何かに気付いたように「あっ、陽一見て」と言って空を指差した。
東京湾上空の空を見上げると、雨上がりの空に大きな虹がかかっていた。
「虹だよ。きれい」
恵と陽一は、その東京湾上空に架かる綺麗な虹をずっと見ていた。

(c) zafira
|写真素材 PIXTA
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