5、春の合宿(6)
夜になると飯盒炊飯で、陽一はみんなの為にカレーライスを作った。
そしてグラウンドにシートを敷いて、全員夜空の下でカレーライスを食べた。
「うめえ!」天邪鬼な清志朗ですら、思わずそう言ってしまった。
真は一口食べると「陽一ってこんな料理できたか?」と言って不思議な顔をした。
「うまいだろ。俺特製の『海軍カレー』だよ」陽一は自慢げにそう言った。
実はこの海軍カレーの作り方は、合宿前に恵から教わったものだった。
しかもカレー粉は、恵が作ったものだった。
陽一違うよ、まず肉と野菜から炒めるんだよ。
水はこれくらいだよ。
カレーパウダーはこれ使ってね。私秘伝のスパイスだよ。
ひたすら弱火で煮込むと、これぐらいのトロミになるんだよ。
それで最後に、インスタントコーヒーをこれぐらい入れるんだよ。
恥ずかしいから、私の名前は出さないでね。
陽一は恵のそんな言葉を思い出していた。
横須賀名物海軍カレー。
明治時代、この横須賀の地に拠点を置いた帝国海軍は、軍艦の中でもカレーが振舞われていた。
そして帝国海軍はその硬派な海軍カレーの味を力にし、やがてロシアのバルティック艦隊を打ち破る程強くなっていった。
その海軍カレーを頬張りながら、陽一は横須賀の夜空を見上げた。
入学式前日の午前に、春の合宿は終了した。
合宿を終えた陽一は、家へと帰った。
「おかえり、陽一」
合宿を終えたこの日、恵は陽一の家で陽一を待っていた。
「ただいま」
「合宿疲れた?」
「大丈夫だよ」
そんな事を言いながら、二人は昼ごはんを食べた。
すると恵は突然「ねえ陽一、明日4月6日は何の日か知ってる?」と陽一に尋ねた。
この恵の質問に、陽一は焦りだした。
女からこの質問をされると、男は誰もが焦ってしまう。
何の日だろ?
恵の誕生日は、10月28日だろ・・・。
付き合いだした日は七夕だろ・・・。
そんな焦る陽一を見ると、恵は「明日は、横須賀線の中で初めて陽一と会った日だよ」
と言った。
「えっ?あれからもう一年経つのか?」
「そうだよ。私その日の朝バイトに行くのに、電車に乗ってたんだ。そしたら陽一と出会った」
「恵、痴漢にあってたな」陽一はその時の恵を思い出して笑った。
「でも今考えれば、その痴漢した人にお礼言わなきゃいけないよね」恵も冗談交じりにそう言って笑った。
そして恵は思い出したように「あれ?それじゃあ今日は春の甲子園の決勝じゃない?確か前の日に、淳が昼ごはん食べながら高校野球の決勝見てたもん」
「そうだった!忘れてた!」
陽一は恵の言葉で思い出し、慌ててテレビを付けた。
選抜高校野球決勝戦。
春の甲子園球場には大波乱が起こっていた。
淀商高校のエース篠宮が、相手チームに打ち込まれ、火だるまとなっていた。
3回裏を終え0―8。
『淀商高校VS仙台学園高校』の試合は、序盤から仙台学園が怒涛の攻撃を見せていた。
そう、陽一の古巣の『仙台学園高校』だった。
そして、仙台学園の打者が篠宮からホームランを放った。
その姿を、テレビ画面で見た陽一は「堀場・・・」とポツリと言った。
「えっ?堀場?」
陽一の古巣仙台学園は、圧倒的な大差で淀商高校を破り、見事選抜優勝を果たした。
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