フォーエバー・フレンズ -281ページ目

6、初めての挫折(1)

遂に新学期がやってきた。

そう、去年の今頃はたった3人の野球同好会だった。

それから陽一や真の加入で13人となり、秋には速見と宮城が引退。司のマネージャー転籍により、現在部員は10名。

濃紺に白く『K』と刺繍された帽子。

見事名門校として復活を果たしたこの港南学院高校の野球部は、今年の夏の大会の神奈川県大会優勝候補の筆頭である。

春の暖かい日差しの中の放課後に、今日も野球の練習に取り組む10人の若者達がいた。

フィールド内はたったの10人だが、それを取り巻く人達は物凄い数だった。

入部希望者、なんと約112人。

そしてマネージャー希望者は21人。

「どうしよう徳永君」司は心配そうにそう言ったが、陽一はあっけらかんと「みんな入れよう」と言った。

「そんな!練習の質が落ちるよ!」

「そこを落とさなくやるのが、腕だよ」

「今の部員を含めて、122人だよ。僕と古屋監督で60人もノックできないよ」

「なんとか考えよう。速見さんは『来るもの拒まず去るもの追わず』というポリシーだったから、それを守りたい」

「そんな・・・あの時と状況が違うよ」

「いや、それは絶対に守る。速見さんでもそうするはずだよ。但しマネージャーは21人も必要ない。一人で十分だ。それは司が選んでくれ」

そんな事を言い合っていると、『イワサキスポーツ』と書いた軽ワゴンがやってきた。

そしてグランド横に止まると、店長が車から降りてきた。

「陽一!」

「あっ!店長。久し振り」

「彼女は元気か!」

この『彼女』と言う言葉に、新入生達はどよめいた。

そして、マネージャー希望の女生徒が10人程去っていった。

「あれ?やばかったかな」店長は戸惑いの表情を見せたが、陽一は「いいよ、ありがとう。これでまず一次選考終わり」と言って笑った。

「そうか・・・あっ!ノックマシン持ってきたぞ」

「ありがとう」

ノックマシンを軽ワゴンから降ろすと、店長は「じゃあな!」と言って去っていった。

「ノックマシン?無駄遣いじゃない?」司は不思議そうに言った。

「無駄遣いじゃないよ」由香子がそう言いながらやってきた。

そして「私が校長にお願いしたの」と言った。

「由香ちゃん、どう言う事?」

「私もノックするに決まってんじゃん」

「えー!由香ちゃんが!」

「司、部室まで運んどいてね」そう言うと由香子は去っていった。

「司、とりあえず3日間は入部希望者を受付しよう。それで締め切り」そう言うと、陽一も練習を再開しだした。

「みんな本当に勝手な・・・」



翌日の放課後、司は校長室へとやってきた。

校長はホクホク顔だった。

何しろ今年の入学は野球部のおかげで満員御礼。

少子高齢化の影響を受け、ここ数年1学年6クラス分の生徒しか集まらなかったが、今年はなんと9クラス。

これは野球部入部希望者の分クラスが増えた事になる。

司は切実な気持ちを込めて「校長先生、お願いがあります」と切り出した。

「なんだい。何でも言いなさい」校長の顔は今にも笑顔で崩れそうだった。

もう笑いが止まらない状態だった。

「第二練習場が欲しいのですが・・・」

「ああ、古屋監督に言ったよ。第二練習場いるだろうから用意するって。そしたらいらないと言ったんだよ」

「ええ!」



入部受付が終了した。

新入部員は、125名であった。

古屋監督は部員を全員集め、練習指示を始めた。

「ピッチャー希望者。前に出てくれ」

すると清志朗を始め40人程が、前へ出た。

「ピッチャーの基本練習はやはりランニングだ。今日は三浦海岸駅まで走ってくれ」

するとどよめきが起こった。

「三浦海岸駅の駅員にあるものを渡したから、各自それをもらってくる事」

ピッチャー希望者達はしぶしぶ走り去って行った。

別にイジメをしている訳ではなく、前エースの速見もそれぐらいやっていたのである。

「次、外野希望者」

すると30人程が前に出た。

「外野手全員、練習前に観音崎公園まで走ってくる事。遅かったら練習する時間無いぞ」

するとまたしぶしぶ走り去っていった。

「真、行くぞ」そう言って陽一はロードワークの準備をしだした。

「俺たちもか?」

「外野手全員と言っただろ」

「わかったよ・・・」

そう言うと、レギュラーの真、陽一、慎太郎の3人も走っていった。



古屋監督は不気味な笑みで「残りが全員内野手だな」と言った。

淳紀は心配そうにしていた。

そして恵も物陰で、こっそりとその状況を見つめていた。

やっぱり淳紀の事が心配だった。

「まずキャッチャー希望者。前に出ろ」古屋監督がそう言うと、10人程が前に出た。

その中には、陽一と同じぐらいの背丈の者もいて、わずか165cmしかない淳紀が大男の中に埋もれているようだった。



それを見た恵は「無理じゃん・・・」と言ってうなだれた。



しかし古屋監督は「キャッチャーの基礎は野球に対する考え方だ。まず部室にレポート用紙があるから、1時間以内に作文を書いてくれ。題名は『キャッチャーとは何か』だ」と指示をした。

なんとキャッチャーへの練習指示は作文だった。

すると大男達にまみれて淳紀は部室へと向かって行った。



「続いてショート、セカンド希望者」

すると20名程が、前へと出た。

「ショートとセカンドにとって一番必要な事は、キャッチしてからすぐ投げる事とフットワークだ。だからノックをする。ノックは司がやってくれ。そして残りの、ファーストとサード。この二つを守る者は打ってくれなきゃ困る。だから外野で簡単なバッティング練習をする。由香子、150キロマシンでやってくれ」

そう言うと、由香子は車椅子姿で、部員達を引き連れて去っていった。


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