フォーエバー・フレンズ -22ページ目

8、親心と恋心(5)

その後も難しい工事現場をどんどんとこなしていく優太。それとともに売上はどんどんと上がっていく。まさに素晴らしいスタートダッシュを切った西原開発工事。しかし、優太の技術ありきといわれればそれまでであった。とにかく優太に代わるオペレーターがいないのである。


ある日工事現場の帰り、優太は突然、圭一郎に「班を二班つくりたい」と言い出した。

「二班?」

「ああ、俺と川崎で一班。もう一班は野島と吉村。恐らく吉村は野島が力を貸せば、オペレーターだってこなせると思う。そうすれば売上も増えるだろ?」

「ああ。でも大型管となると、人も必要になる。どうする?」

「当面は日雇いを雇う。とにかく忙しい秋から春にかけて、お金を貯めたいんだ。お前らが小型管の工事をして、俺は日雇い雇って大型管の工事をする。そうやって来年につなげようと思うんだ」

「わかった」

「苦労かけるな。でも、いずれは楽させてやるからよ」

「あはは、優太、俺に気を遣うなよ」




11月下旬、西原開発工事は二班に分け、一日に二つの工事を行う事となった。

難しい工事はやはり優太に頼らざるをえないが、簡単な取り付け工事であれば、圭一郎と吉村の二人でなんとかなると見込んだ。そして翌日から、圭一郎と吉村の班が結成される事となった。






そんな中、綾乃はマンションの一室で小田社長に厳しい追及を受けていた。最近の綾乃の行動が不自然という事で、小田社長はこっそり探偵事務所を雇い、素行調査をしていたのだ。

テーブルの上にバッと撒かれるように置かれた写真。それはこの間、圭一郎と一緒に行った日光旅行の写真であった。

圭一郎と手をつなぎ、団子をおねだりする写真。一緒にプリウスに乗ってドライブする写真。その写真を見て綾乃の背筋が凍りついた。


小田社長は、完全に感情を取り乱していた。優太なら優越感というものがあったが、相手が圭一郎となると、少し対応が違った。なにしろ圭一郎は太陽エンジニアリングに対して、真向から価格交渉してきた相手である。優越感どころか劣等感すら感じていた。

「綾乃、俺は一体お前にとって何なんだ?」

「こ、恋人・・・」

「ウソつくな!道具だろ!俺はお前にとって道具なんだろ!」

「そんな!冷静になって」

「うるさい!俺はお前の遊び代を稼ぐために働いているんじゃない」

「・・・」

綾乃は何も言えなくなってしまった。本当にその通りだったからだ。綾乃にとって小田社長はプロパーでしかなく、ただ良い暮らしがしたくて愛人生活をしているに過ぎなかった。

そして小田社長は「綾乃、出て行け!」と言い放った。

綾乃も何と言っていいのかわからず、着の身着のままで二子玉川のマンションを出て行ってしまった。




そしてその日から綾乃は行方不明となってしまった。






優太は綾乃への想いは振り切ったというものの、その想いを完全に忘れた訳ではない。ただ、いくらアタックしても彼女は迷惑がるだけで、見込が無いために諦めざるを得なかったのだ。

日々の仕事に没頭するも、時に綾乃を思い出す事もある。そういう時は、なるべく仕事に専念するようにしていた。ずっと心にポッカリと穴が開いていたのだ。


11月の下旬に差し掛かろうとしたある日、優太は書類を渡そうと思い、太陽エンジニアリングの事務所に入った。するといつも明るく振る舞っている綾乃がいない事に気が付いた。

「あれ?綾乃は?」

太陽エンジニアリングの女性事務員にそう尋ねると「やめたよ」の一言。

「え?どうして?」

「わからない。とにかく突然いなくなってしまったの」

その言葉を聞き、優太は思わず走り出してしまった。綾乃は一体何処に行ってしまったのかと。携帯に電話しても繋がらず、メールをしても返信が無い。

困った優太は圭一郎に電話をしてみた。

「おう野島、綾乃がいなくなったんだ」

「ウソだろ?」

「本当なんだ。なあ、あいつの行きそうな場所しらないか?」

圭一郎は、ひょっとして自分が綾乃を傷つけてしまったのではと思ってしまった。そして綾乃の言った言葉を一つ一つ必死になって思い出した。何か手がかりはないかと。


するとその時、綾乃のこんな言葉を思い出した。




『中学卒業したら家出した。でも、お父さんを探そうと、よく平和島の海辺の公園に行った。昔お父さん平和島で働いていたから』




咄嗟に圭一郎は「そうだ!平和島の海辺の公園!平和島公園!ひょっとしてそこかも」と電話越しで叫んだ。

「サンキュ!ちょっと行って来る!」






晩秋の雨がシトシトと降る平和島公園。綾乃は公衆トイレの軒下にしゃがみこみながらぼんやりと海を見つめていた。


どうして自分はこうまで行きあたりばったりなのか・・・。


実はこのような事は初めてではなかった。中学卒業してからずっとこんな事の繰り返しだった。しかし今自分は25歳。全く進歩の無い自分を見て悲しくなってしまった。

秋雨は冷たく、軒下で雨宿りをしていると言うものの、時折吹く横風で、髪も洋服も濡れてしまう。

もう自分が情けなくなってしまった。




すると優太がずぶ濡れになりながら、遠くから走ってやってきた。

「綾乃!」

「優太・・・何してるの?」

「迎えにきたんだよ」

「誰を?」

「お前に決まってんだろ!」

「何で優太なの?いいよ、帰んなよ」

「放っておけないだろ。とにかく会社に帰ってこいよ」

「ダメ。小田社長に会社から追い出されたから」

「え?なんで???」

「私がだらしないからかな」

綾乃はそう言うと、思わず笑ってしまった。