9、秘密(2)
恭子はあの日からずっと丸和工務店の支払先台帳に記載されていた『イー・フラッシュ・ネット』という謎のシステム会社の動向を探っていた。いまさらアラ探しをしたところで圭一郎が丸和に戻る訳でもないが、妙にその存在が気になって仕方がなかった。
その会社の事務所が、神田にある事は突き止めた。しかしイザ現地まで行くと、そのような会社は存在しないのである。
調べた住所をもとに探した雑居ビル。しかしポストには花岡という名前が書かれていた。
「花岡?全然違う名前・・・」
そんな事を言って、その『花岡』と書かれたポストを触っていると、突如背後からポンポンと肩を叩かれた。
「キャ!」
驚き振り返ると、そこにはいかにもヤクザ風の、いかつい男が立っていた。そして「何をしてるんだ?」と聞かれてしまった。
「あ・・・いえ・・・このビルの4Fにイー・フラッシュ・ネットという会社が・・・」
あまりにもの怖さで気が動転してしまった。このヤクザ風の男は一体何者なのか?
そんな事を思っていると、その男は「警察です」と淡々と言った。
「警察???」
「見慣れない方がいるもので声を掛けましたが、あなたはイー・フラッシュ・ネットとは一体どういった関係ですか?」
「いえ・・・あの・・・なんでもないです・・・」
「ちょっと本庁まで来ていただけますか?」
「ほ、本庁???」
流石にこれには驚いてしまった。署までご同行ではなく、行く先は警察の本丸、霞が関の警察庁なのである。
「あの・・・私・・・何も・・・その・・・」
恭子は完全にパニックに陥ってしまった。
そしてなんと恭子は、公安警察へと連行されてしまったのである。
ドラマや本等ではよく知っているが、まさか自分が国家公安警察へ連行されるなど夢にも思わなかった。
一体何が起こったと言うのだろうか?
警察庁舎の中の小さな部屋で、恭子は取り調べを受けていた。取り調べの警察官はとても紳士的な対応をしてくれるのだが、その目はとても鋭く、カタギのようには見えなかった。
「宇佐美さん、何故あのビルに立ち寄ったのですか?」
「・・・」
「答えてください」
何が何だかよくわからないが、下手な事を話すと、圭一郎にも迷惑がかかるのではと思ってしまった。なので黙秘あるのみと思い、何も言わずにただ下を向いていた。
すると取り調べの警察官が「宇佐美さん。黙っていては、あなた今日は帰れませんよ」と言い出した。
「えええ!!!」
警察官に、こちらから『イー・フラッシュ・ネット』とはどんな会社かと尋ねても、何も答えてはくれない。でも、こちらから事情を話してしまうと、ひょっとして圭一郎に迷惑を掛けてしまうのではと思い、何も言葉が浮かばなかった。とにかくかなりヤバイ事件であるという事だけはわかった。
6時間にも及ぶ黙秘に恭子は段々と疲れてきた。
そして圭一郎なら、決して犯罪等には手を染めていないだろうと信じ「実は・・・」と言って、事の事情を話し出した。
恭子の話を聞いて、公安警察の取調官は「やはりそうでしたか・・・」と言って、机の上に置いてあったお茶を口にした。
「あの、一体何が起こったのですか?教えてください。お願いします」
恭子がそう質問するも、警察官は何も答えようとはしなかった。
しかし、そんな恭子の動向を青田は既に見抜いていたのだ。大東京を遠く見渡せる程の丸和工務店の社長室。青田は部下を目の前にして、かなり感情を取り乱していた。
「なんだと!あの会計事務所の女が?」
「はい。調べて現地に行ったそうです」
「畜生・・・国税すらやらない下を・・・」
「社長どうしますか?」
「口封じしろ」