フォーエバー・フレンズ -138ページ目

7、孤高のフィギュアスケーター4

ジュリが寮に帰ると、レナは既に帰宅していた。

「ただいま!」

そう言って階段を上がると、部屋で学生服からスウェットへと着替え、それから3人でいつものように夕飯を食べる。

「ねえジュリ、松井恵理菜のお母さん、自分の子がイジメに遭ってたと言ってたよ」

「そうなの?」

「ねえ、明日校長に聞いてみない?イジメられてたのかどうか」

「そ、そうだね」

二人でそんな事を言い合っていると、またしても寮母さんの嫌味が飛び出した。

「やめときな」

「どうして?」

ジュリはまたしても寮母さんの偏屈が始まったと思い、少し呆れた表情を見せた。

すると寮母さんは冷静な表情で話しだした。

「イジメがあったなんて校長が認めると思うかい?仮にその子がイジメられていたとしても、我高にイジメがあったって言うと思うかい?」

「思わない」

「それに高校生にもなってイジメなんてあると思うかい?ましてやあの心聖女学院だよ?」

「う~ん・・・」ジュリはそう言って、天井を見上げて考え込んだ。

自分のクラスにはイジメなんて存在しないからだ。



その日の夜中、ジュリは布団の中に入っていたが、ずっと眠れなかった。

「どうして恵理菜さんはあの世に行かないのだろう?」

そんな独り言を言っていると、コンコンとドアを叩く音が聞こえた。

「はい」

「ジュリ、起きてる?」

「あ、レナ?」

「うん」

レナは部屋の中へ入ってくると、一枚のA4サイズの紙をジュリに手渡した。

「何これ?」

「7年前の記事。さっきインターネットで引っ張り出したんだ。そこに松井恵理菜の通っていた練習場の名前が載ってあるよ」

ジュリは少し目を擦りながら、『検索王レナ』が引っ張り出したその記事を、まじまじと見つめた。

「田町スケートリンク?」

「そう、松井恵理菜は、この田町の練習場で毎日フィギュアスケートの練習をしていたの」

「ふんふん」

「だから明日行ってみようよ。この田町スケートリンク」

「うん・・・行ってみようか」

「じゃあね。おやすみ」

「おやすみ」

レナはそう言って、部屋を立ち去った。

「本当に凄い行動力だな・・・」







田町スケートリンク。

そこは、国内の有力フィギュア選手が通う名門中の名門。

そして今日もここ田町スケートリンクには、沢山の報道陣がその銀板の周りを取り囲んでいた。

「へえ・・・ここが田町スケートリンクかあ」

「そう、国内の有力選手の半分が、ここに通っているんだよ」

「レナって何でも知ってるんだね」

するとレナは「インターネット、インターネット」と自慢げにそう言った。

かつてデジタルデバイドと言う言葉が流行ったが、レナはまさしくその言葉通り、インターネットを駆使する情報通の天使だった。

しばらくすると、レナはリンク横に立つ、一人の中年女性を指差した。

「あっ!あの人が当時の松井恵理菜のコーチだよ」

松井恵理菜のコーチ。

その40台前半ぐらいの美しいコーチは、リンクの横で演技の練習をする選手達の姿を見つめていた。



そしてジュリとレナの二人は、そのコーチと話すことが出来た。



スケートリンクの側に置かれたベンチに腰掛けると、コーチはあの時の思い出を懐かしそうに話し出した。

「恵理菜ちゃんは本当に素晴らしい選手だった。あんな選手と出会う事なんてもう無いかな・・・」

コーチはとても寂しげな目をしていた。

するとレナがコーチに質問をしだした。

「あの・・・松井恵理菜って学校でイジメられてたのですか?」

そのレナの質問に、コーチは驚き目を見開いた。

そして「ええ?あの恵理菜がイジメ?あははは」と言って、急に笑い出した。

「どうして笑うのですか?」

「あの子はそんなんでメゲないし、第一、協調性のある子だから、イジメを受けるタイプじゃないわ」

「そ、そうなんですか・・・」

すると今度はジュリが質問しだした。

「じゃあ、どうして松井恵理菜は自殺したのですか?」

「・・・」

ジュリの質問に、コーチは黙り込んでしまった。

そしてしばらく経つと「恵理菜ちゃん、多分鬱病だったと思うの」と言って、涙ぐんだ。

「鬱病?」

「綺麗好きな子だったんだけど、ある日突然、鞄の中がクチャクチャになり出して、ロッカーの中もグチャグチャ。それから急に落ち込んで喋らなくなったり・・・ブツブツ独り言を言ったり・・・ご両親にもその事を告げたんだけれども・・・」

「どうでした?」

「相手にされなかった・・・娘にはスケートだけ教えてくれればそれでいいって、それだけ・・・」



結局それ以上の事は何もわからなかった。



ジュリとレナの二人は寮に戻ると、ポテトチップスを食べながらその事についてずっと語り合っていた。

「やっぱりテレビに追い回されたのが鬱病の原因なのかな?」

「そうみたいだね」

するとまたもや二人の会話を割くように、寮母さんが喋りだした。

「多分違うよ」

どうもこの嫌味ったらしい寮母さんの突っ込みだけは慣れる事ができず、二人は不愉快な顔をした。

しかしそんな不愉快な表情をよそに、寮母さんは喋り続けた。

「大体ジュニアの世界チャンピオンだよ。テレビごときで鬱病になるわけがない」


寮母さんの意見は理にかなっていた。


ジュニア世界優勝の選手なら、精神力はズバ抜けているはずである。

ましてやフィギュアはただでさえ孤独なスポーツである。そんな人間が多少のメディアの追っかけで、鬱病になんてなるはずがない。

「じゃあ、理由は一体何?」ジュリがそう尋ねると、寮母さんは「エリート選手の弱み。それは親の存在だよ」と言って、お茶をズズズッとすすった。

「親の存在???」

「親と言うものは厳しくても、甘くてもどちらでも構わない。でも、子供が安心して帰れる場所は作ってやらないといけない。子供が疲れ果てて帰ってきた時、それを受け止めてやれるのは親だけなんだよ。きっとその子の親は、メディアにチヤホヤされていつの間にか子供の帰る場所を作る事を忘れていたんだよ」