2006・伊 ★★★★☆(4.9)
監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:クセニア・ラパポルト ミケーレ・プラチド クラウディア・ジェリーニ クララ・ドッセーナ
北イタリア・トリエステ。 長距離バスから降り立つ一人の地味な女。
天井も剥がれかけ、家具は多少は付いているものの、広さも汚さもこれまで見た部屋より劣るのに
家賃も管理費等も馬鹿高い為に、彼女に話す不動産屋は「此処はやめた方が…」と言う始末…。
それでも、窓を開けて身を乗り出して周りを見つめる女は一言。 「此処にします…」と…。
最悪なのは、電車が通る度に部屋もかなりの揺れと音が神経に触る感じ。
けれど、女は電車の揺れを感じながら、心の隅っこに封印してしまっている事柄を思い出さずにはいられない…。
スーパーに買い物に出掛けた女は、レジでお金を支払ったのだが、チェッカーを通り抜ける際に警報音が鳴り響く。
警備員が詰め寄り、買ったレジ袋の中身や 持っているバッグの中身、果てはボディーチェックまで…。
決してハードなボディーチェックでは無いのだが、悲しい記憶が甦り女は気を失う寸での所で、チェッカーの
誤作動だと分かる。
思わず、警備員が女に呟いた…。 「苺がお好きなんですね…」
見れば、レジ袋から取り出された中身の殆どが苺のパック。 笑みとも取れる様な顔をして自宅に戻る女。
窓際で、苺を一粒、又一粒と口に放り込む…。
又もや過去が思い出されるも…、どうやらそれは、何度も繰り返し見たい大事な思い出の様であった…。
金髪の彼女は、道端にしゃがみ込んでいた。
その彼女に、仲間達が冷かすのも平気で若者が両手に持てるだけの苺をくれた…。
世の中の男から、生まれて初めて下心の無い贈り物をされた彼女。
彼女にとってはダイヤよりも大事な宝石に見える、苺をまた一粒口に運ぶ…。
窓から見える向いのアパートメントを見張る様に、何時も見つめる女…。
思い切って、向いのアパートメントに行きドアマンに声を掛ける。 「何処かの家で家政婦を探していませんか?」
ドアマンが、チラッと彼女を見て「イタリアの出身じゃ無いね」 「ウクライナよ」
「じゃぁ、駄目だ。外国人を雇う家など有りはしない…」そう、冷たく言うドアマン。
だが、口とは裏腹にネットリと女を見つめるドアマンは、諦めて出て行こうとする女に声を掛ける。
「共用部分の掃除なら、仕事があるよ…」 火曜日と木曜日に仕事にありついた女。
イレーナ(ラパポルト)と名乗る女は、熱心な仕事ぶりをドアマンや各家のメイド達に褒めて貰っていた…。
特にイレーナが、毎日の様に見つめる窓のアダケル家のメイドのジーナはイレーナの事を気に入って
色々なアダケル家の話をしてくれた。
夫婦揃って貴金属商を営み、4歳の娘テア(ドッセーナ)がいる。
テアは先天性の病気を持っており、両親としか話をしない。 夫は、商品の営業をする為不在がち。
そして、妻のヴァレリア(ジェリーニ)はデザインと彫金を請負、少々お天気屋でどうやら浮気もしている様だとも。
其処まで、イレーナに話してくれるのは、ジーナがイレーナの事を信用しきっての事。
徐々にジーナと親しくなり、遂には休みの日には映画や食事に出かける仲にまでなった為だった…。
イレーナの気さくさを大好きになったジーナにとってみれば、まさかこれすらも全てイレーナの計画だったとは…。
ジーナは、閉所恐怖症でエレベーターは使わずに老体に鞭打って階段を使用する。
今日もイレーナの磨く階段を…。 イレーナに一言二言声を掛けた途端に足を滑らせて階段を転げ落ちるジーナ。
頭を打ったジーナは、会話も意思の疎通さえも出来ない状況に陥ってしまう。
ドアマンから、アダケル家が新しいメイドを探していると教えて貰ったイレーナは、婦人の面接を受ける。
ジーナやドアマンからイレーナの働き振りを聞いていたヴァレリアはイレーナには好印象を持っていた。
しかも、得意料理は一家の大好きな料理ばかりなのである…。
その上、家族以外の人間には決して懐かなかったテアが気に入ってイレーナと話している…。
まんまと、イレーナの計画通りに事は運んでいる様だ…。
実は、ジーナが捨てたアダケル家のゴミを持ち帰り、残飯の匂いを嗅ぎ・味見をするイレーナ。
婦人が面接で家族が好きな料理を得意料理だと話すイレーナに驚くのは当然なのである…。
しかし、一体何の為にこうまでしてアダケル家の家政婦にならねばならなかったのだろうか?
時として、イレーナの脳裏に浮かぶ忌まわしい思い出は、事実なのであろうか?
《***》
「ニュー・シネマ・パラダイス」「海の上のピアニスト」のジュゼッペ・トルナトーレ監督の最新作品。
物凄く小さな声で言うのだが…。
映画が大好きと言っている私なのだがこの両作にはそれほどまでに感動していない。
大抵、映画好きの方のバトンとかでも大好きな作品は…で「ニュー・シネマ・パラダイス」が良くあがっているのだが。
- ニュー・シネマ・パラダイス [SUPER HI-BIT EDITION]
海の上のピアニスト
- 泣かせる作品を作ったら右に出るものがいないとまで、言われた監督だと言うのも知っている。
- だが、どちらの作品でも泣かなかった…。
「マレーナ」もチョットいい加減な感じで見たので、ディレクターズカット版をレンタル予約して見直そうと思っている。
が、本作品はこの監督にしてはかなり珍しいサスペンス作品。 しかも、かなり極上の出来であった。
それも、相当にビターな出来上がりな作品。
「パーフェクト・ストレンジャー」でハリウッド作品の売り方の戦略が上手いと書いたが、
この作品のコピーは、このビターな作品にピッタリのものであった。
「女は、悲しみを食べて生きている…」 もうこれだけで、切なくて堪らなく見たくなる。
しかも、見た後で再度このコピーを見ても、何度も頷けるほどの良い出来の作品でした。
ラストは、絶対に誰にも話さないで下さいと言うテロップが最初に出るのだが、ラストを話すにはこの作品
全てを話さねばラストの感動は味わえない…。
ストーリーは、今現在の謎の行動を取るイレーナを追う。
時として、トラウマの様に挟み込まれる映像は、その殆どが今は思い出したくも無い過去のイレーナの姿。
思い出したくないイレーナは、金髪の髪の娼婦だったのだ。
たった一つ、宝物の様に残されたイレーナの思い出は、そんなイレーナに話しかけた若者との正真正銘の恋。
その思い出以外の全ては、壮絶としか言い様が無い…。 若かったから…。
そんな言葉では、到底片付けられない世界に嵌まり込んでしまったイレーナ。
そのイレーナが、それ程の想いを背負いながらも命を掛けても探さねばならないと思ったもの…。
その思いが有った為に、これまでイレーナは生きて来られたと言っても過言では無い。
「余り知られていない役者を探した」監督の思惑通りのイレーナ役のクセニア・ラパポルトは、金髪の娼婦役と
今現在のイレーナを2役の様に見事に演じきっていた。
孤独を絵に描いた様な役どころのために、「出演者の誰とも仲良くしないでくれ」と監督から相当厳しい言葉を
掛けられたらしい。
アダケル婦人役のクラウディ・ジェリーニは、美しくあくまでも冷静で、彫金デザイナーらしく何処か金属的な
感じを受ける性格。
そして、大人顔負けの人間を見る目を持つ4歳児の少女テアの役にダコちゃんを凌ぐ演技力と絶賛された
当時の年齢が5歳のクララ・ドッセーナ。 本当に上手い演技だった。
ミステリアスな部分も多い、このサスペンス作品の内容は、余り詳しく語る事は出来ないがこの作品を見て
感動しない女がこの世にいるのだろうか?と思わせるほどの作品。
R-15作品ではあるが、16歳の少女にこの作品の良さが分かるかどうかは…、自分が本当の女かどうかを
この作品を見て判断出来るのかもしれない。
16歳であっても、76歳であっても分かる人は、このコピーの意味も絶対に分かる筈である。
満点では無い理由は、何なんだろうか? 決してパーフェクトな出来の作品とは感じなかった所なんだろう。
それは、良い女の持つ「隙」の部分なのかもしれない。 (チョット、抽象的過ぎるか?)
この作品は、DVDになったら再度レンタルするか、もしくは買っちゃうかもしれない作品だ。