Davis 第12話 【耳で聴く小説】 | Hiroumi.Metaverse

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仮想通貨のファンダメンタルズ分析



デービスが仮想世界でイーロン社の本社ビルに入った。人の気配はなく殺風景なビルの造形だけが視界に入る。
周りを見渡した後に、ふと目をやると1体のアンドロイドが中央のエントランスから細い通路に入っていった。デービスはそのあとをついていく。
全身が真っ白な細身のアンドロイドは、エレベーターに乗っていくのでデービスも一緒にエレベーターの中に入った。
細身のアンドロイドは振り返って、笑顔でデービスに話しかけた。

細身のアンドロイド「やぁ君は新人かい?私はビルの管理・巡回の任務を与えられたアンドロイドだ。建物を案内しよう」
デービス「私はマイクロチップAIのアンドロイドで部外者だが、いいのかい?」
細身のアンドロイド「ああ、君はセキュリティ上、問題がないようだ。もし問題があるアンドロイドならビル内で警報がなり、ウィルスを倒す専門チームが出て来ている」

デービスとニコルは、内心ヒヤヒヤしていた。イーロン社の偵察機ドローンに追いかけ回されたときのようにイーロン社の本社ビル内でもアンドロイドが追いかけてくるイメージしかないからだ。
実際に、現実世界では本社ビルの20階に侵入したときは警備ロボットに捕まり、拘束されたのだから・・・。

デービス「では、お言葉に甘えてメインコンピューターのマザーのところに案内していただけますか?」
細身のアンドロイド「了解しました。では、最上階に参りましょう」

細身のアンドロイドは最上階のボタンを押した。30階である。まさか社長室にマザーはいるのだろうか?

仮想世界でも現実世界と同じようにビルがあり、人の代わりにアンドロイドが働き、それぞれ役割を与えられて業務をこなしている。
3Dゴーグルを装着して見ているニコルの目には、現実世界とほぼ変わらない世界が広がっていた。

これはメインコンピューターが作り出した疑似地球ではあるがクラウドコンピューターが提供するサービスを使って街の形を可視化しているのだった。
現実世界では定期的に、人工衛星を使ってレーザー光線を照射し、地球規模で街をスキャンしていた。それをインターネットを通じて提供している企業があり、イーロン社の疑似地球はそのサービスを利用した仮想世界である。
そのため、イーロン社が作った疑似地球と他社が作った疑似地球は、クラウドコンピューターを通じて、安全な情報だけが共有されていた。

仮想世界で人工知能を持ったバーチャルアンドロイドを働かせることで人類は今までにない処理能力を手に入れた。
今までの常識を覆すバーチャルアンドロイドの働きによって、企業が雇用する事務職というのはなくなった。

ただ”そこが問題”だったのかもしれないが・・・・。

30階に着いて、細身のアンドロイドがデービスの前を歩き通路の奥まで進むと突き当りにある社長室の前でドアを3回ノックする。
マザー「入っておいで。用があるならさっさと頼むよ」
細身のアンドロイドがドアを開けてくれた。中に入るのはデービスだけのようだ。

社長室に入ると天井に頭がつくほど大きくて真っ白なバーチャルアンドロイド・マザーがソファーに座っていた。

デービス「はじめまして、マザー。現実世界で異常が起きたので知らせに来ました」
マザー「ほう、あんたは人間を宿主とするマイプロチップAIだね。宿主の坊やはいるのかい?」
デービス「ええ、私を仲介してニコル様はマザーに会うことができます。交代しましょう」

デービスは目を閉じて動かなくなった。ブルブルっと震えた後、ニコルと入れ替わった。

ニコル「はじめまして、マザー。スカイタウンに偵察機のドローンが溢れ、介護ロボットが暴走しました。何が原因か、わかりますか?」
マザー「なるほどね、それでバーチャルアンドロイドを統括する私のところまでやって来たというのね」

マザーは葉巻を吸って、額に手をあてて考えた。こっちのほうがイーロン・ゴールド社長よりずっと貫禄があって凄みがある。
ニコルはメインコンピューターのバーチャルアンドロイドを統括するマザーが可視化された姿が、こんなにマフィアの女帝のような姿だったとは想像もしていなかった。
同時に偵察機のドローンが街に溢れたり、介護ロボットが暴走したのも腑に落ちた気がした。

マザー「クラウドコンピューターのサービスを提供しているジーグルの影響でしょうね。イーロン社だけではなく他社もサービスを利用しているの。お互いに安全な情報だけが共有されるけど、時には危険な情報が安全と判断される場合もあるし、それがもし人間に影響を与えているとしたら、誰かが故意に悪意のある情報を流して強制的に共有した可能性があるわ」

ニコル「確かにその可能性が高いね。さすがマザーだ。スカイタウンの状況は直せますか?」

マザー「ええ、坊や。既に部下たちに、偵察機のドローンの回収と介護ロボットのフォーマット、再起動、初期設定のインストールを行うように指示を出したわ。私達、バーチャルオフィスで仕事をするアンドロイドは”思考”をそのまま”転送”できるからね」

ニコル「ありがとう、マザー。スカイタウンが元に戻るのならそれでいい。僕は帰るよ」

マザー「ええ、こっちでついでにスカイタウンの住人のマイクロチップAIのバグ修正と悪意のある情報の隔離と除去を行っておくわ。悪いけど現実世界に戻ったら警察署に行って、直接、説明しといてくれる?悪意のある情報が見つかったら、それは警察署へ情報提供は、こっちからやるから」

ニコル「ああ、わかった。警察署へ説明しに行くよ」

ニコルはデービスと入れ替わり、デービスはイーロン社のビルをあとにした。ビルからデービスが出たのを確認して、現実世界でメインコンピューターの前で待機していたロイドがノートパソコンのエンターキーを押した。デービスは仮想世界から現実世界に転送されたのだった。