いよいよ勝負のマオリ戦第2ラウンドが近づいてきた。
試合後のコラムの前打ち代わりに、前日、前々日の動きをお知らせしておこう。
前日練習は、両雄ともこのシリーズの定番となった試合会場を使わずに、XVが宮崎、そしてマオリは名古屋の宿舎で。直接覗いたマオリは、なんと名古屋市内のホテルにあるわずか1面のテニスコートで! 終始和やかな雰囲気で、当初は開始15分だけ公開としていたものを小一時間のメニュー全てをオープンにして行った。とはいえ、内容はテニスボールキャッチやハカの確認など。しかし、調整レベルの内容とはいえ、合間合間に何度もハドルを組んで、チームの一体感だけはしっかりと確認し続けていたのが印象に残る。
事前には9:30から豊田スタジアムでの練習を組んでいたマオリだが、日本メディアに変更が知らされたのは前日21:25のこと。どうやらJRFUに変更が届いたのも20時台だったようなので、本当に急変ということだったようだ。とばっちりで、豊田市の宿から早朝の名古屋に移動してきた取材陣もいたが、ロス・フィリポHCは、このドタ変をこう説明している。
「今週はかなり多忙になっていた。昨日も東京からこちらに来て、移動の時間もすごく長かった。なので今日わざわざスタジアムに行って、長い時間またバス乗るよりも、ここでしっかりと自分たちがやることをクリアにして、過ごすほうがいいと感じました」
▲ホントにテニス練習していたマオリの人たち
確かに、名古屋の街中の、世界的に知られるゴージャスなホテルHから、酷暑の中を往復2時間かけて試合前日にスタジアムへ行くことのリスクは間違いなくある。そもそも、名古屋に泊まるのもいかがなものかだが…。豊田の街中にも、テストマッチクラス(かろうじて)のホテルが2軒ある。以前だとスコットランドなんぞは、この2軒をジャパンとシェアして宿泊していたが、マオリサイドはホストであるJRFUが名古屋の「名立たる」ホテルと、世界的には無名の地元ホテルを紹介すると、前者を選んだそうな。まぁ、滞在経験なければ、ある程度想像できるほうの高級ホテルを選んじゃうか。
ロスHCの後に取材に応じたCTBラメカ・ポイヒピ主将には、第1ラウンドについて感じたことをぶつけてみた。
よ 「先週はXVに序盤戦でかなり攻められながら6連続トライで快勝しています。彼らは新しく集められた、とても若いチームなので、試合前の分析というよりも、試合をする中で彼らの戦いぶりをしっかりと読み取り、対応出来たのでしょうか」
ラ 「ええ、確かに日本チームはスピードもあって、試合の中で何をするかがすごく明確にあった気がします。そのなかで、自分たちがしっかり対応出来ていたかなという実感はありますね」
80分という時間の中で、相手がどう戦ってくるかを理解して、対応していく。NZの選手が最も長けた部分だ。第1ラウンドでも、実際にはあの編成で初めてのゲームになるXVに対して、10数分の時間を追うごとに、そのラグビースタイル、プレー傾向、そしておそらく「穴」も解析したからこそ、モールからのスコア、大外を崩したラインブレークを頻発させたのだろう。この能力があるからこそ、次戦もXVにとっては容易じゃないゲームになる。
で、迎え撃つXVは宮崎から飛んできて、麻田一平スキルコーチ、PR三浦昌悟、そしてハルことCTB立川理道という若干三河臭の強い編成で、この日は用がない試合会場入り。ハルには、代表に戻って来た思いと、若いチームだからこそあるだろう自らが果たすべき役割を聞いた。
「本当に代表に戻って来れて嬉しい気持ちもありますし、その中でも矢崎なんかは15も下ですし、かなり年齢の差ありますけれど、練習も含めてハードワークするというところは間違いなく自分もやらないといけない仕事だと思うし、ピッチ以外でもしっかりサポート出来る事はあると思っているので、そういうところでも自分の役割というのは求められているのかなと思っています」
▲灼熱の豊田スタジアムでは会見はあっても、前日練習はナシ💦
追加招集としてチームに合流したハルだが、実は事前にエディーとは話し合いがもたれていたという。リーグワン終盤にハルが怪我を抱えたこともあり、招聘が見送られてきたが、離脱選手が生じたタイミングもあり、今回の合流になった。
話は、1日前のオンライン会見に遡る。SH齋藤直人、HO原田衛両キャプテンを従え宮崎からオンライン会見を行ったエディーには、先ずあらためてこのXVによる2試合の位置づけ、何にプライオリティーを置いた試合、メンバー選考なのかを聞いた。
「若手の選手たちにチャンスを与えるというところがメインになります。また、ジャパンからもインターナショナルのキャリア、国際的なテストマッチプレーヤーとして活躍するキャリアをスタートしたばかりの選手も多いという点と、リーグワンではなかなかゲームタイムを得られなかった選手を起用したい目的もありました。原田はまだ国際試合の経験をスタートしたばかりだし、齋藤は所属チームでのゲーム時間が少なかった。選手それぞれで、プレー時間を増やすことも一つの目的です」
ま、一言でいえば「投資」の時間ということだ。だが、この会見でエディーにもう一件聞きたかったことがベテランCTBの招聘についてだった。
▲スタジアム前の温度計…見るだけで汗がにじむ
よ 「久しぶりに代表に立川理道を呼んだが、若い選手揃いの平均年齢をすこし上げる以外に何を期待しているのか」
エ 「立川については、若手のロールモデルとしてプレーしてほしいという思惑もあります。 2015年も一緒にやりましたが、プロ意識が高く、真剣にラグビーに取り組んでいる姿勢をとてもよく覚えています。所属するスピアーズでも優勝の経験をしていますし、若手にはこういう経験値の高い選手から学ぶ点は多いと思っています」
コーチというのはつくづく好き嫌いがあるもんだと感じさせる。もちろん、それでいいのだが、前体制でもハルの追加招集はあったが、なんだか期待感はさっぱりという印象だった。エディー体制で呼び戻されたハルだが、指揮官の思惑とは裏腹に、期待に応えられないことだってあり得るだろう。だが、U20日本代表時代から注目され、天理大4年の大学選手権決勝では、あの帝京大を華麗なフラットラインで追い詰めた男だ。ラグビーの能力以外でも、誰からも慕われるこのリーダーを、こういう期待感に満ちた言葉で歓迎するのがエディーらしい。
指揮官は、合宿でのこんなエピソードも語っている。
「若手でいえば、例えば矢崎に関してはジェネレーションギャップがどうしてもあるようで、先日の夕食の時に、名前は忘れたが昔のおもちゃの話題になったときに、彼だけわかっていなかったなんて話になったんです。こういう時に、ハルみたいなベテランが若手にとっていい影響があると期待しています」
孤立しがちな新世代の選手を、軽くイジリながらでも、包容力を持ってチームへと馴染ませていくような芸当が出来るのが、ハルのような存在だ。FWではリーチマイケルのような存在はいたが、BKは残念ながら、そんな包容力や豊富な経験値を持ったリーダーが不在だった中で、ハルの加入には意味がある。彼の存在が、若いジャパンに相乗効果、化学変化を起こすことをエディーは期待しているのだ。
本人のためにも(かな?)、ここでは具体的には触れないが、当然、2015年以降、なかなか代表に定着できなかったマイナス点も明らかにある。それが、過去に強豪ACTブランビーズでの挑戦も、敢え無く1シーズンで終わった理由の一つだろう。だが、その一方で、チームの最年長としてスピアーズを引っ張る中で、課題を克服しようというチャレンジも続けてきたのが立川理道だ。
果たして追加招集の34歳が、この先、どこまでファーストチョイスのメンバーに食い込めるかはハル次第だろう。だが、エディーはこんな思惑を語っている。
「ハルは10と12両方での起用を考えています。どちらでも活躍できると思うが、我々のやりたいラグビーに、どれだけ順応できるかを見たいのです。ジャパンとジャパンXVの1試合ずつを経て、いま10番のポジションのオプションには、李、山沢、松田、立川と選手層が厚くなっている印象です。2試合で4枚にまで層を厚くできている。非常に喜ばしいことですし、今後は各ポジションでこういった選手層をどんどん厚くしたい。オプションがあるとセレクションはとしても難しいものになるけれど、それは喜ばしいことですから、それぞれの選手の強みを生かしながら、困難になっていけばいいと思います」
こんな争いが増えれば増えるほど、第2次エディージャパンがブーストされていくことになる。まずは、マオリ第1ラウンドの学びから、どこまでブースト出来ているかに期待したい。