東山魁夷心の旅路館・版画作品常設展示館を鑑賞 | シニアの の~んびり道草

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日頃の散歩や近場のドライブ、時には一晩泊りでぶらっと訪ね歩くことがある。そんな折、おお! これは綺麗だ、これは凄い、これは面白いと感嘆したり、感動したようなことを、思いつくまヽアルバム風に綴ってみる。

3月26日、所用で中津川へ出掛けた折、時間があったので岐阜県と長野県の県境にある「道の駅賤母(しずも)」まで足を延ばすことにした。そこで、この道の駅の敷地内に「東山魁夷心の旅路館(版画作品常設展示館)」が併設されていることを知った。偶然にしてはまたとない機会なので、さっそく入館、鑑賞してきた。

東山魁夷といえば、奈良・唐招提寺や皇居の障壁画を手掛け文化勲章の受賞者でもある昭和を代表する日本画家だ。そんな大物画家の美術館が木曽路の国道19号線道の駅にひっそりと併設して存在する。美術館に併設して道の駅があるのではないのだ。なぜ木曽路にこの施設が?、入館してパンフレットを受取り、その疑問がすぐ解けた。以下、パンフの内容をそのまま転載する。
     木曽へのメッセージ           東山魁夷
美術学校へ入って最初の夏休みに友人と共に、木曽川沿いに八日間のテント旅行をしながら、御嶽に登ったのが、私を山国へ結びつける第一歩でした。この旅の途中、山口村(現在の中津川市山口)の賤母の山林で大夕立に遇い、麻生の村はずれの農家に駆け込んで、一夜の宿を求めました。そこで私は思いがけないほどの温かいもてなしを受けたのです。この旅で、それ迄に知らなかった木曽の人たちの素朴な生活と、山岳をめぐる雄大な自然に心を打たれ、やがて風景画家への道を歩む決意をしました。それは画家を志した頃の緊張した気持、一つ一つ積み重ねてゆく意志的な努力と言ったもの、その象徴が北国の姿だったのです。このことが少年期を過ぎ青年になったばかりの私には、大きな人生の開眼であり自然の発見でもありました。その後は何かに取り憑かれたように信州各地の山野や湖、そして高原へと旅を重ねて、四季折々の風景を描き続けてきました。この緑濃い賤母の森蔭に「心の旅路館」と名付けた私の版画による展示館が設立されたのも、木曽路と私を結ぶ縁の糸がだんだん大きく太くなった結果かもしれません。この地を過ぎる旅の人達にとって、暫しの安らぎと憩いの場になれば、誠に幸いに思います。
(1995年8月)



道の駅賤母の道路標識と東山魁夷心の旅路館案内看板。


「道の駅」賤母の標柱と展示館への案内板。


心の旅路館前に立つ東山魁夷揮毫の記念碑。「ローテンブルグ城シュピタール門」(ドイツローテンブルグ市)に刻まれた「PAX INTRANTIBVS SALVS EXEVNTIBVS(訪れる者には安らぎを 去りゆく人には安全を)」を東山魁夷が「歩み入る者に安らぎを去りゆく人にしあわせを」と訳したことで、広く知られることとなった言葉が刻まれている。


画伯と山口村(旧・長野県木曽郡山口村 / 現・岐阜県中津川市)は70年の歳月の後、画伯の高い人間性により結ばれた。平成6年(1994)7月、画伯は「私の青春時代の地へ」と所蔵のリトグラフや木版画などを山口村に寄贈、村は画伯の青春時代所縁の地であるこの地に、「東山魁夷心の旅路館」を建設した。そうして、平成7年(1995)8月1日に「描くことは祈ることである」を信条とする東山芸術を心行くまで鑑賞できる展示館を開館したのである。道の駅の奥まったところに遠慮がちに建っている「心の旅路館」。2021年度展示企画第Ⅰ期展「郷愁―ふるさとの風景」の案内看板が立っている。


たにま(木版画)がデザインされたパンフレットと「花明り」(リトグラフ)がデザインされた入館券。


展示室は、旧・山口村との関わりを軸に東山魁夷画伯を紹介するコーナー(右上)と作品(主にリトグラフ)を展示するコーナーになっている。現在、2021年度展示企画第Ⅰ期展3月25日~6月15日「郷愁―ふるさとの風景」を展示中(展示2日目に鑑賞)だが、訪れる人も少ないようでゆっくりと鑑賞できた。パンフに「東山魁夷は、日本の根源的な故郷の姿をきれいな山水風景や古都に見出しました。京都や奈良を中心に、日本人の根底に流れる心の故郷を想わせるような哀愁と懐かしさが漂う作品を紹介します。」とある。なお、館内の作品は撮影禁止になっている。


2021年度展示企画、第Ⅰ期展「郷愁―ふるさとの風景」から、花明り(リトグラフ)、郷愁(岩絵具方式)、落柿舎・習作(セリグラフ)ー撮影禁止のためパンフからー。版画には、用いる板の種類や絵を写し取る方法の違いなどから様々な技法があり、リトグラフと木版画の違いは何となく分かるが、木版画は種類や方式が多くあって、私には正直よく分からない。


企画展示予定作品から、道(リトグラフ)、白夜光(ニッシャ・ベラールN方式)、雲立つ嶺(リトグラフ)、潮聲(岩絵具方式)。ー撮影禁止のためパンフからー


企画展示予定作品から、静唱(リトグラフ)、緑響く(新復刻画)ー撮影禁止のためパンフからー。下段は購入したポストカードから京洛四季年暮る(リトグラフ)、山雲(リトグラフ新復刻画)。「緑響く」は代表作の一つで、長野県奥蓼科の御射鹿池(私も2009.9に訪れた)がモデルと言われており、まるで絵から抜け出てきたような美しい池である。吉永小百合が出演しているテレビCMで、この池の実写がCGを交えて東山魁夷の画とともに映され話題になった 。唐招提寺御影堂の障壁画「山雲」は、岐阜県大野郡白川村荻町の天生峠(私も2011.10に訪れた)の写生をもとにしたという。


賤母の山は温帯と暖帯の植物が混生し600種類もの草木が自生、植物学的にも貴重な地域として「学術参考林」に指定され、特別に保護されている。しずも清水は道の駅賤母の裏山から湧き出た清水を引いたもので、「道の駅賤母」の飲み水として使用している。


旧・山口村は長野県南西部にあった木曽郡の村で、島崎藤村の出生地である馬籠宿で有名である。平成17年(2005)、全国的にも珍しい越県合併で長野県木曽郡山口村は岐阜県中津川市に編入され、寄贈作品も中津川市に引き継がれた。道の駅賤母から国道19号線、木曽川を挟んだ対岸は、長野県南木曾町田立地区で、JR中央線田立駅周辺の満開の桜が見える。左下は道の駅駐車場に設置されている「水が流れる亀のオブジェ」で、この水も「しずも清水」だろうか。現在、コロナの影響で洗面所の「ジェットタオル」はどこも使用禁止になっているが、ここでは使えるようになっているので、私も一年ぶりに利用した。



岐阜県中津川市山口1番地15 道の駅賤母敷地内 東山魁夷心の旅路館のMAP