永遠の姉妹 第53話『穏やかな生活』
平成二十二年四月―
「ありがとうございました」
富士山のお膝元、富士吉田市にある寂れた食堂の中、知永子は客に礼を言った。客が残して行った皿を片し、テーブルに布巾をかける。
あの日、愛実とふたりであてのない旅路に出てから、もうすぐ二年という歳月が経とうとしていた。
亡き母織江の故郷である山梨に身を寄せた知永子は、愛実との生活を支える為に昼はこの食堂、そして夜は近所にある小さなスナックで昼夜を問わず働いている。休みのない毎日に体はきつかったが、愛する娘とふたりで平穏な日々を過ごしていた。
「あら、明生さん。いらっしゃい」
食堂に姿を見せた長谷部明生に、知永子は声をかける。明生は軽く手を上げ、いつもの指定席に座った。
「…だいぶ、慣れたようだな」
明生のテーブルに水を置いた知永子に、ぼそりと言う。
「えぇ。もうすぐで、二年ですもの。嫌でも慣れるわ」
知永子は、そう言って笑った。
「全ては、明生さんのお蔭よ。感謝しているわ」
そうつけ加える。
明生は知永子の遠縁に当たる男で、山梨に何の縁もなかった知永子がこの地で暮らせるようにと、色々手を貸してくれていた。
明生は照れを隠すように、ぐいっと水を飲み干す。知永子から目を逸らしたまま
「…生姜焼き定食」
とだけ呟いた。
明生はぶっきらぼうで寡黙だが、心根は優しい男なのである。知永子も、当初はそれに戸惑いを感じたが、今では微笑ましくさえ思っていた。
知永子は、笑顔で注文に注文を通す。
<愛実を巡る、知香子との争いの日々がまるで嘘のように、知永子は穏やかな毎日を送っていた。しかし、またも知永子は知香子との愛憎の渦に巻き込まれて行くのである。
最後の修羅場は、間近に迫っていた。>
「社長。よろしくお願いします」
撮影スタッフを引き連れ、『office C』の社長室に招かれた渡邊景子は、そう言って知香子の前に腰かけた。知香子に、名刺を差し出す。
「えぇ。こちらこそ、よろしく頼むわ」
景子の名刺を眺めながら、知香子は言った。優雅に足を組み、受け答える。
「社長のご活躍には、目覚ましいものがありますよね。手がけた商品は悉く大ヒット、ご自身も美貌の女性実業家として、メディアに取り上げられことも珍しくありませんから」
「あら。美貌の女性実業家だなんて…。面と向かって言われると、照れるわ」
景子の言葉に、知香子は足を組み替えながら笑った。カメラのフラッシュが光る。
「いえいえ。私のいる雑誌業界でも、社長の美貌と手腕は評判ですもの。本日は、ぜひ社長の美しさの秘密、成功の秘訣を教えて頂ければ幸いですわ」
「秘訣や秘密なんて言える程のものはないけれど。ご期待に添えればいいわ」
さりげなくカメラを意識しながら、知香子は微笑んだ。
和やかな空気の中、取材は続いて行く。
「どうだ、上手く行ったか?『office C』の社長の取材は」
会社に戻った景子は、編集長から聞かれた。
「えぇ、もちろん」
重い取材用バッグを自分のデスクに置きながら答える。仮原稿を、編集長に手渡した。
「それにしても…すごい女だな。父親から引き継いだ会社の社長に就任してから十年、業績は右肩上がり。今じゃ、一躍美容業界のカリスマなんだから」
景子から渡された書類に軽く目を通しながら、編集長は呟く。景子は人目を気にしながら、編集長の耳元に口を近づけた。
「そのことなんですけど…」
小声で耳打ちする。
「…何だ!?」
「あの社長の成功の裏には…何か秘密があるような気がするんです」
「だから…それがこれだろう?」
編集長は、書類を指で弾いた。
「いえ。取材では上手くはぐらかされてしまいましたが…あの社長には、謎が多過ぎるんです。社長に就任するまでの間、何をしていたのかも明らかにはされてません。それに…編集長もご存知でしょう?二年前には元秘書からの傷害事件を起こされてます。もっと取材を進めて行けば…きっとスキャンダラスな事実が出てくると思うんです。あたしの…記者としての勘が働くんですよ」
景子は、編集長に言い募る。スクープの予感に、記者としての探求心が疼いた。
「渡邊…」
編集長が、景子の言葉を遮る。
「…はい!?」
「お前、いつになったら自分の立場を自覚するつもりだ」
編集長は、そう言って煙草に火をつけた。景子に、煙を吹きかける。
「あの会社は、うちの雑誌のスポンサーなんだぞ。つまり、今回の記事は、『office C』に対する接待記事なんだ。社長のスキャンダルを暴いてどうする?」
「でも…」
景子は、思わず言い返した。
「お前が一流の報道誌に籍を置いていたのは、もう過去の話だ。お前は、ここに左遷されて来たんだよ。気楽な専業主婦が鬱憤晴らしに読むような…三流娯楽雑誌の記者なんだからな!」
景子の反論をねじ伏せるように、編集長が声を荒げる。手近にあった雑誌を、景子に投げつけた。
肩を怒らせながら、編集長は部屋を出て行く。景子は無言のまま、その場に立ち尽くした。
「渡邊さん、また編集長とやり合ってるわね」
「あぁ…いつまでも、一流誌にいたプライドを捨てられないんだよ。困ったもんだ」
背後から、同僚達の揶揄が聞こえる。
景子は、唇を噛み締めた。床に投げ捨てられた雑誌を拾い上げる。
今流行りの韓流スターが、笑顔で表紙を飾っていた。
「あたしは、諦めない…」
雑誌を握り締めながら、景子はひとり呟く。
「…絶対に、もう一度返り咲いて見せるわ」
余裕の笑顔を浮かべる知香子の写真を凝視しながら、そうつけ加えた。
「ただいま」
仕事を終え帰宅した知永子は、そう言ってドアを開ける。しかし、愛実からの返事はなかった。
足音を忍ばせ寝室を覗くと、すでに愛実はすでに寝息を立てている。
知永子は、寝室にある時計に目を遣った。時刻は、もう十二時を回っている。
知永子は愛実の脇に座り、愛実の寝顔を眺めた。彼女に再会した二年前に比べれば、愛実の顔はずいぶんと大人びて来ている。
だいぶ背も伸び、愛実は日に日に少女らしさを増していた。
知永子は、愛実の頭を撫でる。
「ママ…帰って来たの?」
知永子の気配を察したのか、愛実が目を覚ました。
「あら、ごめんなさいね。起こしちゃった?」
知永子は、笑いながら愛実に詫びる。
「うん…」
まだ寝ぼけているのか、愛実はむにゃむにゃと応えた。知永子は、愛実の小さな布団に潜り込む。
「今日は、このまま…一緒に寝ましょう」
愛実を抱き締めながら、知永子が尋ねた。
「…別にいいけど。どうしたの、ママ?」
「別にどうもしないけど…何か、久しぶりに愛実と眠りたくなっちゃったの。いいでしょう」
「ママは、甘えん坊ね」
愛実が笑う。
「そうね…」
知永子は、つられて笑った。愛実を胸に抱き、愛する娘の成長を傍で見守れる幸福に打ち震える。
つづく
「ありがとうございました」
富士山のお膝元、富士吉田市にある寂れた食堂の中、知永子は客に礼を言った。客が残して行った皿を片し、テーブルに布巾をかける。
あの日、愛実とふたりであてのない旅路に出てから、もうすぐ二年という歳月が経とうとしていた。
亡き母織江の故郷である山梨に身を寄せた知永子は、愛実との生活を支える為に昼はこの食堂、そして夜は近所にある小さなスナックで昼夜を問わず働いている。休みのない毎日に体はきつかったが、愛する娘とふたりで平穏な日々を過ごしていた。
「あら、明生さん。いらっしゃい」
食堂に姿を見せた長谷部明生に、知永子は声をかける。明生は軽く手を上げ、いつもの指定席に座った。
「…だいぶ、慣れたようだな」
明生のテーブルに水を置いた知永子に、ぼそりと言う。
「えぇ。もうすぐで、二年ですもの。嫌でも慣れるわ」
知永子は、そう言って笑った。
「全ては、明生さんのお蔭よ。感謝しているわ」
そうつけ加える。
明生は知永子の遠縁に当たる男で、山梨に何の縁もなかった知永子がこの地で暮らせるようにと、色々手を貸してくれていた。
明生は照れを隠すように、ぐいっと水を飲み干す。知永子から目を逸らしたまま
「…生姜焼き定食」
とだけ呟いた。
明生はぶっきらぼうで寡黙だが、心根は優しい男なのである。知永子も、当初はそれに戸惑いを感じたが、今では微笑ましくさえ思っていた。
知永子は、笑顔で注文に注文を通す。
<愛実を巡る、知香子との争いの日々がまるで嘘のように、知永子は穏やかな毎日を送っていた。しかし、またも知永子は知香子との愛憎の渦に巻き込まれて行くのである。
最後の修羅場は、間近に迫っていた。>
「社長。よろしくお願いします」
撮影スタッフを引き連れ、『office C』の社長室に招かれた渡邊景子は、そう言って知香子の前に腰かけた。知香子に、名刺を差し出す。
「えぇ。こちらこそ、よろしく頼むわ」
景子の名刺を眺めながら、知香子は言った。優雅に足を組み、受け答える。
「社長のご活躍には、目覚ましいものがありますよね。手がけた商品は悉く大ヒット、ご自身も美貌の女性実業家として、メディアに取り上げられことも珍しくありませんから」
「あら。美貌の女性実業家だなんて…。面と向かって言われると、照れるわ」
景子の言葉に、知香子は足を組み替えながら笑った。カメラのフラッシュが光る。
「いえいえ。私のいる雑誌業界でも、社長の美貌と手腕は評判ですもの。本日は、ぜひ社長の美しさの秘密、成功の秘訣を教えて頂ければ幸いですわ」
「秘訣や秘密なんて言える程のものはないけれど。ご期待に添えればいいわ」
さりげなくカメラを意識しながら、知香子は微笑んだ。
和やかな空気の中、取材は続いて行く。
「どうだ、上手く行ったか?『office C』の社長の取材は」
会社に戻った景子は、編集長から聞かれた。
「えぇ、もちろん」
重い取材用バッグを自分のデスクに置きながら答える。仮原稿を、編集長に手渡した。
「それにしても…すごい女だな。父親から引き継いだ会社の社長に就任してから十年、業績は右肩上がり。今じゃ、一躍美容業界のカリスマなんだから」
景子から渡された書類に軽く目を通しながら、編集長は呟く。景子は人目を気にしながら、編集長の耳元に口を近づけた。
「そのことなんですけど…」
小声で耳打ちする。
「…何だ!?」
「あの社長の成功の裏には…何か秘密があるような気がするんです」
「だから…それがこれだろう?」
編集長は、書類を指で弾いた。
「いえ。取材では上手くはぐらかされてしまいましたが…あの社長には、謎が多過ぎるんです。社長に就任するまでの間、何をしていたのかも明らかにはされてません。それに…編集長もご存知でしょう?二年前には元秘書からの傷害事件を起こされてます。もっと取材を進めて行けば…きっとスキャンダラスな事実が出てくると思うんです。あたしの…記者としての勘が働くんですよ」
景子は、編集長に言い募る。スクープの予感に、記者としての探求心が疼いた。
「渡邊…」
編集長が、景子の言葉を遮る。
「…はい!?」
「お前、いつになったら自分の立場を自覚するつもりだ」
編集長は、そう言って煙草に火をつけた。景子に、煙を吹きかける。
「あの会社は、うちの雑誌のスポンサーなんだぞ。つまり、今回の記事は、『office C』に対する接待記事なんだ。社長のスキャンダルを暴いてどうする?」
「でも…」
景子は、思わず言い返した。
「お前が一流の報道誌に籍を置いていたのは、もう過去の話だ。お前は、ここに左遷されて来たんだよ。気楽な専業主婦が鬱憤晴らしに読むような…三流娯楽雑誌の記者なんだからな!」
景子の反論をねじ伏せるように、編集長が声を荒げる。手近にあった雑誌を、景子に投げつけた。
肩を怒らせながら、編集長は部屋を出て行く。景子は無言のまま、その場に立ち尽くした。
「渡邊さん、また編集長とやり合ってるわね」
「あぁ…いつまでも、一流誌にいたプライドを捨てられないんだよ。困ったもんだ」
背後から、同僚達の揶揄が聞こえる。
景子は、唇を噛み締めた。床に投げ捨てられた雑誌を拾い上げる。
今流行りの韓流スターが、笑顔で表紙を飾っていた。
「あたしは、諦めない…」
雑誌を握り締めながら、景子はひとり呟く。
「…絶対に、もう一度返り咲いて見せるわ」
余裕の笑顔を浮かべる知香子の写真を凝視しながら、そうつけ加えた。
「ただいま」
仕事を終え帰宅した知永子は、そう言ってドアを開ける。しかし、愛実からの返事はなかった。
足音を忍ばせ寝室を覗くと、すでに愛実はすでに寝息を立てている。
知永子は、寝室にある時計に目を遣った。時刻は、もう十二時を回っている。
知永子は愛実の脇に座り、愛実の寝顔を眺めた。彼女に再会した二年前に比べれば、愛実の顔はずいぶんと大人びて来ている。
だいぶ背も伸び、愛実は日に日に少女らしさを増していた。
知永子は、愛実の頭を撫でる。
「ママ…帰って来たの?」
知永子の気配を察したのか、愛実が目を覚ました。
「あら、ごめんなさいね。起こしちゃった?」
知永子は、笑いながら愛実に詫びる。
「うん…」
まだ寝ぼけているのか、愛実はむにゃむにゃと応えた。知永子は、愛実の小さな布団に潜り込む。
「今日は、このまま…一緒に寝ましょう」
愛実を抱き締めながら、知永子が尋ねた。
「…別にいいけど。どうしたの、ママ?」
「別にどうもしないけど…何か、久しぶりに愛実と眠りたくなっちゃったの。いいでしょう」
「ママは、甘えん坊ね」
愛実が笑う。
「そうね…」
知永子は、つられて笑った。愛実を胸に抱き、愛する娘の成長を傍で見守れる幸福に打ち震える。
つづく
思わずゾワッと来た最終回『美しい隣人』

正直

中盤辺りゎ多少の中弛み感が漂ってましたが
今クールでhyが①番楽しみにしてた
ドラマ『美しい隣人』が
つぃに最終回

ゃっぱり
この
ドラマの肝ゎ何故に仲間由紀恵がぁそこまで檀れいに執着するのか
だと思ぅんですが
ぃやあ…
そぅ来ましたかぁ


まさか
池で溺れたのが自分の息子ぢゃなぃと知った檀れいが思わず漏らした
「良かった」
のひと言だったなんて…
本当にゾワッとしました

ただ
その後ゎぃらなかったかなぁ
個人的な好みとしてゎ
「良かった」でバッサリ終わってた方が良かったカモ
そして
最後マデ消化不良に終わったコトがふたつ
ひとつ目ゎ
仲間由紀恵の役名がマィヤー沙希だった件
何故にマィヤー
ふたつ目ゎ
スゴぃ意味ありげだったのに
結局ぞんざぃな扱ぃされてた根暗な男のコの件
ぁんだけ引っ張っておぃて
仲間由紀恵が好きって


この
ドラマで初めてぉ見受けしたんでつが
彼ゎ誰かのバーターだったんでつかねぇ(=_=;)

今クールでhyが①番楽しみにしてた
ドラマ『美しい隣人』がつぃに最終回


ゃっぱり
この
ドラマの肝ゎ何故に仲間由紀恵がぁそこまで檀れいに執着するのか
だと思ぅんですが
ぃやあ…
そぅ来ましたかぁ



まさか
池で溺れたのが自分の息子ぢゃなぃと知った檀れいが思わず漏らした
「良かった」
のひと言だったなんて…
本当にゾワッとしました


ただ
その後ゎぃらなかったかなぁ

個人的な好みとしてゎ
「良かった」でバッサリ終わってた方が良かったカモ

そして
最後マデ消化不良に終わったコトがふたつ

ひとつ目ゎ
仲間由紀恵の役名がマィヤー沙希だった件

何故にマィヤー

ふたつ目ゎ
スゴぃ意味ありげだったのに
結局ぞんざぃな扱ぃされてた根暗な男のコの件

ぁんだけ引っ張っておぃて
仲間由紀恵が好きって



この
ドラマで初めてぉ見受けしたんでつが彼ゎ誰かのバーターだったんでつかねぇ(=_=;)

永遠の姉妹 第52話『あてのない旅路』
「おばちゃん…何があったの?」
階下の異変を聞きつけたのか、階段を下りて来た愛実が知永子に問いかける。知永子は、愛実を抱き止めた。
「こっちに来ちゃ駄目!!」
「でも…」
「逃げるのよ!!早く、勝手口から逃げるの」
愛実を抱き締めたまま、早口で言い聞かせる。知永子の表情にただならない気迫を感じた愛実は、小刻みに首を揺らした。
「行くわよ!」
知永子は、言いながら愛実の手を握る。愛実は、強く知永子の手を握り返した。
ふたり手に手を取り合って、夜の闇に駆け出して行く。
「どうやら…行ったようだね」
フキは笑いながら言って、力を抜いた。とうに、フキの体力は限界を超えていたのである。
「絶対に、逃がすもんか。地の果てまでだって追いかけて…愛実を取り戻して見せるわ」
フキを突き飛ばした知香子は、入って来た入口に取って返した。
「あんたも…哀れな女だね」
知香子の背中に、フキが声をかける。知香子は、鬼の形相で振り返った。
「何ですって!?」
そう口走って、フキに詰め寄る。知香子の動揺を、フキは鼻で笑った。
「ふん。哀れな女って言ったんだよ。あんたは…永遠に報われない片想いをしているのさ。あんたは結局、知永子には勝てない。あのふたりには、あんたにはけして割り込めない、強い絆があるんだ。互いの血を分けた…母娘の絆がね!!」
「ちくしょう!」
激昂した知香子は、手近にあったグラスを叩き割る。グラスの破片で傷ついた手から血を流しながら、知永子達の後を追った。
「知永子…あんたは、愛実ちゃんと幸せになるんだよ。そうじゃなかったら…たたじゃ置かないからね」
フキは、疲れてぐったりしながら呟く。僅かな期間をひとつ屋根の下で共にした、知永子と愛実の幸せを願った。
外に出た知香子は左右に首を振り、知永子と愛実を探す。しかし、どこにもふたりの姿はなかった。
「どこに、行ったのよ…」
そう呟いた知香子の脇腹に、鋭い痛みが走る。
振り返ると、鼻先の距離に多英が立っていた。
「あ、あんた…なんでここに…!?」
言いながら、自分の脇腹に視線を向ける。多英が握り締めたナイフが、深々と突き立てられていた。
ふいに、視界が霞み始める。
「あんたが、悪いのよ。慎治を…あたしの愛する男を、誑かしたりするから。あんたなんか…死んでしまえばいいんだわ」
遠くなる意識の中、知香子は多英からの呪詛の言葉を聞いた。
「ねえ、おばちゃん…」
「何?」
「あたし達…どこに行くの?」
愛実は、知永子に問いかける。
着の身着のまま、フキのところから逃げ出したふたりは、新宿発の夜行バスに揺られていた。行き先は、山梨である。
「今から行く山梨はね…おばちゃんのお母さんの故郷なの。おばちゃんも、一度行ったことがあるんだけど…とてもいいところだったのよ」
「そこで…あたし達は一緒に暮らすの?」
「…ううん。解らないわ。もしかしたらそこで暮らすかも知れないし、もしかしたらまた別の場所に行くかも知れないの…」
知永子は、素直に答えた。愛実は、知永子の服の裾をぎゅっと握り締める。
知永子は、愛実の小さな手を包み込んだ。
「ねえ、愛実ちゃん…」
逆に、愛実に問いかける。
「何?」
「愛実ちゃんは…おばちゃんと一緒に来たこと、後悔してる?」
知永子の質問に、愛実は少しの間考え込んでから
「う~ん…解んない」
と答えた。
「でも…愛実は、おばちゃんと一緒に暮らしたいよ。フキママと三人で暮らしてる時も楽しかったし…あの家にいた時よりも、ずっと良かったもん」
そうつけ加えた。
「…ありがとう。そう言ってもらえて、おばちゃん嬉しいわ」
言いながら、知永子は愛実の髪を撫でる。
「おばちゃんのこと…ママって呼んでもいい?」
愛実は、意を決したように切り出した。愛実の言葉に、知永子は我が耳を疑う。
「…えっ!?」
「だって、おばちゃんが…愛実の本当のママなんでしょう?」
愛実は、知永子の顔を見上げながら聞いてきた。愛実のふたつの瞳には、涙が並々と湛えられている。
「えぇ。そうよ。わたしが…愛実の本当のママなのよ!!」
言いながら、知永子は愛実を抱き締めた。
「ママ!!」
愛実は、知永子の胸にしがみつく。
「たとえ…この先にどんな過酷な運命が待ち受けていたとしても…ママは、愛実のことを離さないわ」
愛実を胸に抱き、知永子は誓った。
夜行バスは山梨を目指し、暗い夜道をひた走っている。知永子は、一層強く愛実を抱き締めた。
<母娘して肩を寄せ合いながら、知永子はやがて来る夜明けを待ちわびていた。
しかし、知永子の切なる願いを嘲笑うかのように、姉妹の因縁は尽き果てることがなかった。>
数日後、知香子は病室のベッドの上で目を覚ました。
「知香子ちゃん!?起きたのね」
澄江が、知香子に呼びかける。
「良かった。このまま、一生目を覚まさなかったら…どうしようかと思っていたのよ」
ぽろぽろと涙を零しながら、澄江は知香子を抱き締めた。
「ママ。あたし…何でこんなところに!?」
ぼんやりとした頭のまま、知香子は問いかける。一体、自分に何が起こったのか解らなかった。
「あなた…刺されたのよ。かなり傷が深かったらしくて、一時は命も危うかったんだから…」
澄江の言葉に、次第知香子の記憶が戻り始める。
そうだ。自分は、路上で多英からの襲撃を受けたのだ。その時、自分は知永子と愛実を追っていた…。
「愛実!!」
全てを思い出した知香子は、声を荒げて上半身を起こす。まだ傷の癒えない脇腹が痛んだ。
「無理したら駄目よ。まだ、傷が塞がっていないんだから…」
脇腹を押さえ、屈み込んだ知香子を、澄江が宥める。
「愛実は…愛実はどうしたの!?」
知香子は、顔をしかめながら尋ねた。澄江は、無言で首を振る。
知香子は、がっくりとうなだれた。
「愛実。こんなにも、愛しているのに…」
狂おしい声を上げる。自然と溢れ出した涙が、頬を濡らした。
「あのふたりには、あんたにはけして踏み込めない、強い絆があるんだ。互いの血を分けた…母娘の絆がね!!」
フキの言葉が、知香子の脳裏に蘇る。
つづく
階下の異変を聞きつけたのか、階段を下りて来た愛実が知永子に問いかける。知永子は、愛実を抱き止めた。
「こっちに来ちゃ駄目!!」
「でも…」
「逃げるのよ!!早く、勝手口から逃げるの」
愛実を抱き締めたまま、早口で言い聞かせる。知永子の表情にただならない気迫を感じた愛実は、小刻みに首を揺らした。
「行くわよ!」
知永子は、言いながら愛実の手を握る。愛実は、強く知永子の手を握り返した。
ふたり手に手を取り合って、夜の闇に駆け出して行く。
「どうやら…行ったようだね」
フキは笑いながら言って、力を抜いた。とうに、フキの体力は限界を超えていたのである。
「絶対に、逃がすもんか。地の果てまでだって追いかけて…愛実を取り戻して見せるわ」
フキを突き飛ばした知香子は、入って来た入口に取って返した。
「あんたも…哀れな女だね」
知香子の背中に、フキが声をかける。知香子は、鬼の形相で振り返った。
「何ですって!?」
そう口走って、フキに詰め寄る。知香子の動揺を、フキは鼻で笑った。
「ふん。哀れな女って言ったんだよ。あんたは…永遠に報われない片想いをしているのさ。あんたは結局、知永子には勝てない。あのふたりには、あんたにはけして割り込めない、強い絆があるんだ。互いの血を分けた…母娘の絆がね!!」
「ちくしょう!」
激昂した知香子は、手近にあったグラスを叩き割る。グラスの破片で傷ついた手から血を流しながら、知永子達の後を追った。
「知永子…あんたは、愛実ちゃんと幸せになるんだよ。そうじゃなかったら…たたじゃ置かないからね」
フキは、疲れてぐったりしながら呟く。僅かな期間をひとつ屋根の下で共にした、知永子と愛実の幸せを願った。
外に出た知香子は左右に首を振り、知永子と愛実を探す。しかし、どこにもふたりの姿はなかった。
「どこに、行ったのよ…」
そう呟いた知香子の脇腹に、鋭い痛みが走る。
振り返ると、鼻先の距離に多英が立っていた。
「あ、あんた…なんでここに…!?」
言いながら、自分の脇腹に視線を向ける。多英が握り締めたナイフが、深々と突き立てられていた。
ふいに、視界が霞み始める。
「あんたが、悪いのよ。慎治を…あたしの愛する男を、誑かしたりするから。あんたなんか…死んでしまえばいいんだわ」
遠くなる意識の中、知香子は多英からの呪詛の言葉を聞いた。
「ねえ、おばちゃん…」
「何?」
「あたし達…どこに行くの?」
愛実は、知永子に問いかける。
着の身着のまま、フキのところから逃げ出したふたりは、新宿発の夜行バスに揺られていた。行き先は、山梨である。
「今から行く山梨はね…おばちゃんのお母さんの故郷なの。おばちゃんも、一度行ったことがあるんだけど…とてもいいところだったのよ」
「そこで…あたし達は一緒に暮らすの?」
「…ううん。解らないわ。もしかしたらそこで暮らすかも知れないし、もしかしたらまた別の場所に行くかも知れないの…」
知永子は、素直に答えた。愛実は、知永子の服の裾をぎゅっと握り締める。
知永子は、愛実の小さな手を包み込んだ。
「ねえ、愛実ちゃん…」
逆に、愛実に問いかける。
「何?」
「愛実ちゃんは…おばちゃんと一緒に来たこと、後悔してる?」
知永子の質問に、愛実は少しの間考え込んでから
「う~ん…解んない」
と答えた。
「でも…愛実は、おばちゃんと一緒に暮らしたいよ。フキママと三人で暮らしてる時も楽しかったし…あの家にいた時よりも、ずっと良かったもん」
そうつけ加えた。
「…ありがとう。そう言ってもらえて、おばちゃん嬉しいわ」
言いながら、知永子は愛実の髪を撫でる。
「おばちゃんのこと…ママって呼んでもいい?」
愛実は、意を決したように切り出した。愛実の言葉に、知永子は我が耳を疑う。
「…えっ!?」
「だって、おばちゃんが…愛実の本当のママなんでしょう?」
愛実は、知永子の顔を見上げながら聞いてきた。愛実のふたつの瞳には、涙が並々と湛えられている。
「えぇ。そうよ。わたしが…愛実の本当のママなのよ!!」
言いながら、知永子は愛実を抱き締めた。
「ママ!!」
愛実は、知永子の胸にしがみつく。
「たとえ…この先にどんな過酷な運命が待ち受けていたとしても…ママは、愛実のことを離さないわ」
愛実を胸に抱き、知永子は誓った。
夜行バスは山梨を目指し、暗い夜道をひた走っている。知永子は、一層強く愛実を抱き締めた。
<母娘して肩を寄せ合いながら、知永子はやがて来る夜明けを待ちわびていた。
しかし、知永子の切なる願いを嘲笑うかのように、姉妹の因縁は尽き果てることがなかった。>
数日後、知香子は病室のベッドの上で目を覚ました。
「知香子ちゃん!?起きたのね」
澄江が、知香子に呼びかける。
「良かった。このまま、一生目を覚まさなかったら…どうしようかと思っていたのよ」
ぽろぽろと涙を零しながら、澄江は知香子を抱き締めた。
「ママ。あたし…何でこんなところに!?」
ぼんやりとした頭のまま、知香子は問いかける。一体、自分に何が起こったのか解らなかった。
「あなた…刺されたのよ。かなり傷が深かったらしくて、一時は命も危うかったんだから…」
澄江の言葉に、次第知香子の記憶が戻り始める。
そうだ。自分は、路上で多英からの襲撃を受けたのだ。その時、自分は知永子と愛実を追っていた…。
「愛実!!」
全てを思い出した知香子は、声を荒げて上半身を起こす。まだ傷の癒えない脇腹が痛んだ。
「無理したら駄目よ。まだ、傷が塞がっていないんだから…」
脇腹を押さえ、屈み込んだ知香子を、澄江が宥める。
「愛実は…愛実はどうしたの!?」
知香子は、顔をしかめながら尋ねた。澄江は、無言で首を振る。
知香子は、がっくりとうなだれた。
「愛実。こんなにも、愛しているのに…」
狂おしい声を上げる。自然と溢れ出した涙が、頬を濡らした。
「あのふたりには、あんたにはけして踏み込めない、強い絆があるんだ。互いの血を分けた…母娘の絆がね!!」
フキの言葉が、知香子の脳裏に蘇る。
つづく