何年か前、モナコへオーケストラのオーディションを受けに行った時のこと...。
パリからモナコへは、まず飛行機でニースの空港まで行ってそこから30分ほどまた電車。フランスの中では右下、イタリアとの国境近く。海沿いを走る電車からは地中海が見えて気持ちがいい。
モナコ公国に関して知っていること。カジノ、グレース・ケリー、F1...とにかくセレブの街。どんな豪華絢爛な街が広がっているんだろうとドキドキしながら電車を降りると、意外にも駅前は質素な住宅街。
とりあえずホテルへ向けて歩みを進める。坂が多い地形らしく、道は入り組んでいる。調べたところ、モナコはアルプス山脈の南端の裾野に位置しており、町全体が崖に張り付くように作られているそう。
数十分歩き、やっとホテルに到着。ホテルの前には幼稚園、子供たちの歓声が聞こえる。モナコって子供住んでるんだ...!当たり前なんだけど、なんだか驚いてしまう。ここの子たちが年賀状を書いたら、住所は「モナコ公国〇〇番地 モナコ太郎」か。なんかすげーな!
オーディションの前日、夕方に着いたので、ホテルに荷物を置いてちょっと散策。有名なカジノの前、セレブそうな人たちが談笑している。しげしげ眺めた後はしっぽ巻いて退散!
そして翌朝、オーディション!
8時45分集合。早めに到着し、大部屋に通される。シーンとした空気の中、受験者たちが手持ち無沙汰にスマホをいじったり宙を眺めたりしている。45分になったら演奏順を決めるくじ引きだ。
くじということは、何番にでもなる可能性があるということだ。当たり前なんだけど、さっぱり考えの足りなかった当時の私。札を引いて驚愕。
初めての1番、ひょえ〜となっている間に、係員に「10分後にステージね!」と告げられる。わたわたと楽器を組み立て、移動する。心の準備は1ミリもできていない。
そしてステージへ。曲はウェーバーの協奏曲第1番。緊張の第1音目。息を吸った瞬間髪の毛が1本口に入ってしまい、楽器の吹き口に入り込む。もちろん音は出なくなり、ぷす〜っとした音の立ち上がりで見事撃沈。ほどなくしてベルが鳴らされあっけなく退場。
荷物を片付け、ホールを出る。時刻はまだ9時15分。地中海を眺め呆然とする。
ここまで来るの、大変だった。楽器が3本入ったリュックは亀の甲羅のように重い上、交通費もバカにならない。帰りの飛行機は明日の朝。なのに私の目的、もう終わってしまった。
放心した頭で考える。そういえば昨日ニースからモナコに来る途中、電車で「Èze(エズ)」という駅を通った。昔地球の歩き方で見た場所だ。記事はとても小さかったけどすごく魅力的に見えて、いつか行きたいなぁ〜ってずっと思っていた。まさかこんな所にあったとは。
ふと我に返る。
つづく


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