この前の秋、ニュージーランドに演奏旅行に行った時のこと...。


フランスからニュージーランドへの直行便はどうやら無いらしい。移動時間はパリから10時間かけ北京空港へ、そこで19時間40分待った後、さらにニュージーランドのオークランドまで12時間の計42時間!


日本パリ間の15時間程度のフライトしか経験がないので、初の2日がかりの移動にドキドキ。その上到着した次の日に本番なんて、どうなっちゃうんだろうあせると、さらにドキドキしながら出発の日を迎える。


ツアーの主催者のご厚意で、北京での乗り換え待ちの間街を観光する予定であった。中国ではGoogleやらFacebookやらのメジャーなSNSは一切使えないと評判だけど、フランスから中国へ帰国した友人達は普通にインスタに写真をアップしている。


VPNというアプリを使ったら可能とのことで、幸いフランスから日本専用のサイトに接続にするために既にアカウントを持っていた私。これでネットは使えるはず!


私より少し先に中国へ研修へ行っていたという知人から、「中国って入るのにビザ必要なんじゃないの?!」と言われて焦り、ちょろちょろっと調べてみると、細かいルールがごちゃごちゃと書いてあったけど、とりあえず乗り換えついでに北京の街を観光する場合のビザは免除されるようだった。


なんだかよくわからんけど、



チーン「まぁなんとかなるじゃろ!」



そして降り立った北京空港!早速ネットに繋げようと、VPNをオンにしたりオフにしたりと四苦八苦。何十分挑戦しても結局のところ、



チーン「繋がらんやないかい!」



誰だ、VPNがあれば繋がるなんて言ったやつは...。メンバーのフランス人たちも誰一人ネットが繋がらず、冴えない表情。


とりあえず北京の街に出ようとゲートを探す。途中一時入国ビザ取得のためのカウンターを発見。書類を書かなきゃ!いややっぱフランス人は免除だから要らないらしい!なんてやっているうちに何十分も経ち、やっとの思いでゲート到着。


この演奏旅行、メンバーは6人のフランス人+ニュージーランド人+私の計8人。ニュージーランド人は一足先に現地入り済み。ほぼ全員初対面、リハーサルで数回会っただけの関係なので、まだ私の方も借りてきた猫状態。とりあえずみんなの後ろに引っ付いて行くだけ。


ゲートを通るときのしんがりも私。目の前で6人のフランス人が無事入国を果たし、さあ私もと思った瞬間、



「ビザを見せて。」



チーン「え?」



「ビザ!」



愛想のかけらもない中国人のねーちゃんが、ぶっきらぼうにビザを見せろと言ってくる。



チーン「いや、ビザ要らないよね...?」



私の英語は死んでいる。なんて言ったのかも覚えてないけど、とりあえず「いやビザ要らんよね...?」と訴える。



「ビザ!!!」



チーン「あ!ニュージーランドのビザ?!」



パァっと顔を明るくし、ニュージーランド入国のために取らされたビザを見せようとすると、中国人のねーちゃんの方も「はァァ?」と顔をひん曲げる。


にっちもさっちもいかなくなったところで、職員のにーちゃんが小走りで現れ、ゲートからUターンさせられる。来た道を指さし、あっちでビザ頼んで!と言ってくる。



チーン「もしやさっきのカウンター、フランス人は免除だけど日本人は必要だった...?!」



まじかよ!とにかく戻って書類を書いて提出してくるしかない!がしかし、ゲートの周りは視界が遮られていて、先に入国してしまったメンバー達に身振り手振りで伝えられない!ネットは繋がらない!きっとフランス人達にとっては、「さっきまで後ろにいた日本人が突然消えたぞ!」状態!



チーン「えらいことになったぞ...!」



汗をダラダラ流しながら来た道を戻る。さっき途中まで書きかけた書類は、ポケットに丸めて突っ込んであった。シワを一生懸命伸ばして、心臓バクバクさせながら列に並ぶ。



頼むから早くしてくれ〜!と神に祈り、待つこと十数分。やっと一時入国ビザをもらい、ゲートへダッシュ!さっきのぶっきらぼうなねーちゃんにビザを見せ、やっとみんなと合流できたのであった...。


早朝の北京空港。
合流したメンバーから口々に「びっくりしたわ!」と言われた。私もびっくりしたわ。






ありがたいことに北京観光はガイド付きだった。なんやかんやで何十分も待たされ、うんざり顔な中国人のガイドのにーちゃんと合流。


これまた主催者のご厚意で、午前1時過ぎに北京初の飛行機に乗る前に仮眠できるよう、ホテルが予約してもらえていた。


すでに若干お疲れ気味の私達。観光はしたいけどその後のホテルでの休憩はもっと魅力的。メンバーの一人が尋ねる。



「ホテルってここの空港のホテルですよね?」



ニコ「ホテルはないですヨ。」



「ハハハ」



ニコ「ジョークじゃないですヨ。」



「・・・。」



一同蒼白。今すぐ主催者に確認しなきゃ!でもネットが繋がらない!ネットは無理だよ〜と他人事のガイドのにーちゃんに、VPNあるから一応!と頼み込み、にーちゃんのスマホからテザリングをしてもらう。すると、私のスマホだけが時々繋がるという謎現象が発生。


空港から北京の街へと走るバスの中、景色を眺めながら談笑しているメンバーを横目に必死でスマホをポチポチする私。事の真相は、主催者がうっかりホテルの場所を間違えた。日本で言うなら、成田発なのに羽田併設のホテルを予約した!というような話であった。


そこからは、新しいホテルを取り直すだなんだで大騒ぎ。観光そっちのけで必死にスマホをポチポチ。私のスマホしか使えないので、他のフランス人メンバーはなんだかもうどうでもよさそうにぼんやりしている。


ガイドのにーちゃんに、あなた達のことなんだからもっと真剣に話を聞きなさい!これだからフランス人は!なんてお小言を頂戴する始末。あぁフランス人、怒られている時は死んだ魚の目なんだね..。





なんとか新しいホテルを予約し、街を散策し、ご飯を食べ、ホテルへ到着。すっかり日も暮れ、時刻は18 時。


ガイドのにーちゃんに別れを告げ、チェックインを済まし、各々部屋に引きこもる。北京の11月は寒かった。チョロチョロと出の悪いシャワーで、冷えた体をゆっくり温める。


19時。そろそろ寝るか。数時間だけど、着いた翌日の本番のために体を少しでも休めよう。ベッドに横になると、



コンコンコン...



小さくドアをノックする音が聞こえる。だ、誰...?と思いながら恐る恐るドアを開けると、さっき受付にいたにーちゃんであった。なんだか困ったような顔をして、英語話せる?と聞いてくる。話せんよ、と答えると翻訳アプリをとり出し文字を打ち込み始める。何の用だと思ったら...



「あなたの名前の中国語読みを教えてください。」



チーン「???」



なんだそれは。中国語の読み方ってなんだ。知らんよ!と答えると、なおも下の名前の中国語読みを教えろと言ってくる。知らんもんは知らん。というより、アルファベットでも書いてある通りだ。そのまま読んでくれ。


今度は「沙」の漢字の中国語の読み方がわからないんだと言い始める。きみが分からんのに、日本人の私が分かるかいな。スマホのキーボードで沙を探してみなよ!と言っても、見つからないんだよ!と言ってくる。


とにもかくにも知らんもんは知らんので、知らんよ!!!と突っぱねると、なにやらポチポチ打ち出し見せてくるには...



「分からなければ、一足先に靴を履いてもらうことになります。」



チーン「プフーーーー!」



あまりのことに、下顎を突き出して息を吹き出し前髪をぴろぴろさせていると、面白そうにヘヘッと笑い出すにーちゃん。いやいや、笑い事じゃないんですよ。


この寒空の下、私を追い出すっていうのかい?まじっすかの目で見つめていると、困ったなぁと頭をカキカキしながらにーちゃんはドタドタと背を向けて去って行った。


え、どうなったの?許されたの?よく分からないけどとにかくドアを閉める。とりあえず、寝る?ベッドに横にはなったものの、にーちゃんが戻ってきて追い出されるんじゃないかと気が気ではなく、全く寝付けないままぎゅっと目をつむったのであった...。


23時半。空港へ向かうためにロビーへ集合。先ほどの出来事をメンバーに話すと、可哀想に!そういう時は私達に助けを求めなさい!と言ってもらえた。そうか、言っていいのか...ちょっとだけみんなと打ち解けた気がした。





半々に分かれてタクシーを待つ。勤務交代したらしい、先ほどとは別の受付のにーちゃんが突然「Where are you from ??」と聞いてくる。「アイムジャパニーズグッド!グッド!」と元気に答えると、下を向いたまま黙りこくってしまった。一体何が聞きたかったんだ!


タクシーに乗り込み10分ほど。再び北京空港着。さぁニュージーランドへ行くぞ!と歩き出した瞬間、2番ヴァイオリンのマダムが凍りつく。



「スマホ、忘れたかも.....」



チーン「え.....」



顔面蒼白で鞄を漁るが、やっぱりさっきのホテルに忘れてきたとのこと。



「取りに、戻れるかな.....??」



チーン「・・・。」



搭乗まで残り1時間と少し。片道10分ではあるけど、ネットは使えないしホテルの住所も知らない。どないすんのと思っていたら、上海のオーケストラに在籍していたことのあるファゴットのにーちゃんが、男前にも「よし、戻ろう!俺がついて行く!」と言ってくれた。


2人を見送り、タクシー先発組のメンバーと合流。まあ手荷物検査があるだけだし、ホテルまで往復20分だし、きっと間に合うだろう...信じて待つしかない私達。


チクタクチクタク。時間は進む。一向に2人が現れる気配はない。ついに搭乗が始まってしまう。いやいや、ね、まさか。夜にオークランドに着いて次の日すぐ本番なのに、乗り遅れるとか、ないよね?


人がどんどん搭乗ゲートに吸い込まれていく。ガランとしたロビーに残されたのは私達だけ。職員に聞くと、予定通りあと10分で搭乗終了、それ以上は待てないとのこと。最年長でまとめ役のコントラバス奏者の顔は、強張っている。


残り7分。大急ぎで走ってやってくる人がチラホラいるけど、人違いだ。いやいや、ね、そんな。大事なコンサートのための飛行機に乗り遅れるとか、ある?まだ信じられない。なんだか夢のようだ。やっぱり私は生粋の日本人らしい。


残り5分。もはやシャレにならない。次の飛行機が上手く取れなかったら、最初のコンサートってキャンセルになるのかな。こんな大がかりな企画なのに、こんなことって、あるんだな...。


残り3分。終わった。終わりました。もう終わりだ。なんだかんだ間に合うでしょって思ってたけど、そんなことはないらしい。神様、人生っていろんなことが起きるんですね...。


どないすんのと白目を剥きかけていると、遠くの方から疲れ果てた様子でこちらへ向かってくる人影が2つ。終わってなかった!


もはや早歩きをする元気もなく、げっそりした表情で歩いている2人。間一髪、コンサートキャンセルの危機に直面したせいでげっそりしている待っていた3人。その真ん中で、良かったぁ〜!と、大きく大きく2人に向かって手を降る私なのだった...。



ヒツジヒツジヒツジ



これが全て、北京滞在中の19時間の間に起きた出来事。演奏旅行って、こんなに大変なの?!フランス人と一緒だから?!北京だったから?!


人生初の演奏旅行は、たくさんのアクシデントと共に華々しく幕開けしたのでした爆弾ドンッドンッ




2025.8.1 
酒と音楽とブーフーウーにてブタ





にほんブログ村 海外生活ブログへ



キラキラこの記事を読んだ方へのオススメ記事⬇

星


お月様