彼氏がいる。オムライスが好きだ。

もはやケチャップをかけておけばなんだって喜ぶんじゃなかろうか、とも思う。



その日は深夜、日付を越えた頃に家に来る予定だった。



チーン「せっかくだしオムライスでも作ってやるか」




チーン「ケチャップないわ」




フランスは店が閉まるのが早い。21〜22時くらいの間にはだいたいどこの食料品店も閉まっている。当然24時間営業のスーパー&コンビニなんてものはない。



時刻は既に23時半。幸いにも一つだけ0時まで開いている店を見つけた。イギリス行きのユーロスターやベルギー、ドイツ行きの長距離列車が発着する北駅の前。家からも近い。



閉店10分前に店に滑り込み。



数人の客と共に店をうろつく。ケチャップ発見。とっとと帰ろう。



レジへ急ぐ。はたと気づく。





チーン「ウソだろ......」





チーン「財布忘れた。」




慌てて彼氏へ電話する。あと5分か10分もすれば駅につくと言う。


早く来てくれ〜煽りとジリジリしながら店の中をさ迷っていると、黒人のでっかい店の警備員のおっちゃんに閉店だからとっとと帰れと促される。



人見知りの内弁慶。普段なら諦めて何も買わずに帰るところだが、その日の夜は何故か「絶対にオムライスを作らなければ!」という使命感に取り憑かれていた。



レジにはドレッドヘアがいかした若い黒人のにーちゃん。



半泣きになりながら下手くそなフランス語で必死に懇願する。




チーン「ア、アノ...サイフ! サイフワスレマシタ! ト、トモダチ! トモダチガクルカラ...アノ、ソノ...」



気怠げなレジのにーちゃんは私を一瞥してこう答えた。




うーん「いいよ、お金。払っとくから。」




チーン「へっ?」




うーん「ハイ、ケチャップ。」




チーン「ほ、ほんとに?ほんとにいいの...?ありがとうございます...」



レジのにーちゃんは相変わらず怠そうにしながら、少しだけ微笑んだ。





こうして、私の中で「黒人のにーちゃん達は優しい説」の種が生まれたのだった(後日友達に、面倒くさいから早く帰らせたかっただけでしょ!と一蹴される)。






にほんブログ村 海外生活ブログへ



キラキラこの記事を読んだ方へのオススメ記事⬇

星 


お月様