345 お世話になった人々 | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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葬儀会館のスタッフが退席すると、楓は健太

に言った。

 

「健太、お母さんの通帳とキャッシュカード

持って来てくれた」

 

健太が差し出すと楓が残高を確認して言う。

 

「健太、とりあえず200万円下ろしてきて。

 

後で、会館の人が見積書を持って来てくれる

けど、おおよそで計算して、葬儀から初七日

までで80万円、東福寺さんのお布施が30

万円、華江おばさんや颯介に交通費を渡す

でしょう。

 

それから、明日お母さんに会いに来てくれる

人達に出すお茶菓子や、浩介、颯介、健太、

哲也、私の職場に手土産がいるし、華江

おばさんの家にもお土産が要るわよね。

 

それから、四十九日の法要の費用もいるから、

200万円あれば、何とかなると思うわ」

 

楓は、会館のスタッフと話しながら、頭の中

で計算をしていた。さすが元経理担当だ。

 

通常、葬儀の費用などは喪主が払うことに

なる。

 

家族の仲が悪いと、亡くなった人の預貯金は

相続対象だから、絶対に手を付けて欲しく

ないという場合もある。

 

しかし、楓と健太の場合はもめることも無い。

母親の預貯金で、葬儀費用をまかなうことに

二人とも異論はない。

 

一般的には、預金者が亡くなると銀行口座が

凍結される。しかし、金融機関が亡くなった

ことを知った場合であって、まだ知らない

うちに葬儀費用などを下ろすケースは

よくあることだ。

 

楓は、職場の先輩たちに、もしもの時の為に、

容体が悪くなったら少しずつ預金を、

キャッシュカードで下ろしておくのよと、

指導されていた。

 

健太は、お金を下ろした後、会館での相談が

一通り終わったので、会社に行くことにした。

母親のお別れに来るお客様の世話は、楓に

任せることにした。

 

楓の職場はパート職員なので、葬儀が終わる

までは出勤できないと伝えてあった。

 

お昼ごろ、渡辺さんが清掃会社時代の仲間を

連れて、君江に会いに来た。

 

楓がLINEでお願いしてあったので、楓の

お弁当と一緒に、お客様用の茶菓子も

買い込んで来てくれた。

 

楓がお弁当を食べている間、清掃会社時代の

仲間が、君江との思い出話を色々と聞かせて

くれる。離れて暮らしていた楓にとっては、

初めて聞く話もあって、女同士でおしゃべり

に花が咲いた。

 

午後3時頃になると、デイサービスぽかぽか

さんの管理者の山崎さんが、カフェ ル 

ボワ シャルマンのオーナー林原さんを

連れて来てくれた。

 

林原さんは、お供え用にとケーキを持って

来てくれた。3人でケーキを食べながら、

ひとしきり君江の思い出を語り合った。

 

夕方4時過ぎに、中央包括支援センターの

早川さんが来てくれる。早川さんに君江が

お世話になっていたのは、2年も前の事だが、

健太が認知症フェアで講演をしたりして、

ご縁は深かった。

 

夜の6時過ぎに、健太が会社の人達を連れて

きた。家族葬だからと言ったのだが、部下達

がどうしてもお参りだけしたいと言って

来たのだ。

 

黒木を始めとする部下たちは、健太が在宅で

介護と仕事の両立をしてきたのをずっと

見守って来た。部下たちの温かい気持ちが、

健太は嬉しかった。

 

午後7時頃に、楓と健太が夕食をどうしよう

かと言っていると、スーパー安西のおじさん

が現れた。

 

「店の売残りだけどな」と言って、お弁当と

饅頭を差し入れてくれた。

 

安西のおじさんは、健太の家族があの家に

引っ越して以来の長い付き合いだ。

おじさんは、君江の顔を見ながら、長い間

君江に話しかけてくれた。

 

午後8時頃になって、ようやくみどりと哲也

と高橋さんが来た。3人とも週末の仕事を

しっかり片付けてから来てくれたのだ。

 

そして、富岡建設の社長が現れた。白い花の

大きなアレンジメントを両手で抱えていた。

 

「健太が、香典もお供えの花も受け取らない

ってうるさく言うから、これは俺から

おふくろさんへの、プレゼントだよ」

 

「親父さん、かえって気を遣わせて

すみませんでした」

 

健太が恐縮して頭を下げる。

そこに、富岡建設の顧問社労士の

川崎先生もやってきた。

 

「川崎先生まで、ありがとうございます」

 

「富岡社長からお聞きしましてね。佐藤さん

には、講演をしていただいて、本当にお世話

になりましたから」

 

川崎先生は、健太の講演で君江の話を聞いて

いたので、他人のようには思えなかったのだ。

 

午後9時を過ぎると、さすがにもう、

訪ねてくる人はいない。

 

哲也と楓、健太とみどり、高橋さんの5人で、

林原さんの持って来てくれたケーキや、

安西のおじさんの差し入れてくれたお弁当や

お饅頭を食べながら、静かに君江の思い出を

話し合う。

 

午後10時過ぎ、明日も出勤の哲也と高橋

さんが帰って、みどりも喪服などの準備を

するからと帰って行った。

 

「健太、お母さん、本当にいろんな人に

お世話になったわね」

 

「姉ちゃん、俺が何とか介護を頑張れたのも、

たくさんの人が手を差し伸べてくれた

お陰だよな」

 

健太!  本当にありがたいね!

 

TO BE CONTINUED・・