333 平穏な日々 | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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特養に母親の君江の面会に行った健太は、

帰り際に仕事を終えて帰る高橋さんに会った。

 

健太は、みどりが入院していたこと、退院

して今、自分の家にいることなどを話した。

 

「それで、高橋さん、グリーフケアの会なん

ですが、今月の総会、お休みさせてもらい

たいんですが、大丈夫でしょうか」

 

「心配いりませんよ、健太さん。この一年で

随分と会員さんも増えて、世話人をして

くださる人も増えましたからね。

 

それよりも、みどりさんのこと、大事にして

あげてくださいね」

 

高橋さんは、認知症で亡くなった妻の俊子が、

50代の時に、みどりと同じように乳がんを

患ったことを健太に話す。

 

「みどりさんは、強い人ですから、ついつい

我慢してしまいます。健太さんがしっかり、

支えてあげてくださいね」

 

健太が自宅に戻っても、みどりはまだ眠って

いた。健太が着替えて、夕飯の支度を始め

ようと思った時、渡辺さんから電話が入った。

 

「健太君、今どこにいますか?」

 

「渡辺さん、お久しぶりです。今自宅に

帰ったところです」

 

「ちょうど良かった。天ぷらをたくさん

揚げたから、お夕飯に食べてもらえないかと

思って」

 

20分ほどして渡辺さんが現れた。

お皿に大盛りの天ぷらを持っていた。

 

「楓さんから聞いたんですよ。みどりさんが

こちらにいるって。

健太君、明日からお仕事なんでしょう」

 

姉貴の情報網は素早いと健太は思った。

 

「もし良かったら、お昼間私がお洗濯とか

やりに来ましょうか」

 

母親の君江をずっとお世話してくれていた

渡辺さんは、本当に心の優しい気の利く人だ。

 

「ありがとうございます。でも、しばらくは

僕一人でやってみます。

今までみどりには散々世話になって来たから、

恩返ししたいんです。

 

どうにも大変になったら、またヘルプを

出しますね」

 

渡辺さんは、大きくうなずきながら言った。

 

「それじゃあ時々、夕飯のおかずを差し入れ

させてもらうわね。

 

そうそう、うちの主人、3月いっぱいで仕事

を終わったから、今、我が家のリビングを

改装して、高齢者サロンの準備を始めてる

ところなの。

 

また開所する時は、お二人をご招待するわね」

 

渡辺さんの声を聞きつけたのか、奥から

みどりが出てきた。

 

「あら、みどりさん、寝てないとダメ

じゃない。

私の大きな声が起こしちゃったかしら」

 

健太が振り向くと、ガウンを着たみどりが

立っていた。

 

「大丈夫ですよ、渡辺さん。お昼からずっと

寝てましたから。

ああ、美味しそうな天ぷらですね」

 

みどりは、渡辺さんが持っているお皿に

目が行った。

 

「食欲あるなら大丈夫ね。

みどりさん、健太君にしっかり甘えるのよ」

 

みどりは、微笑むと大きくうなずく。

 

玄関に、天ぷらの香ばしい匂いが

立ち込めていた。

 

健太! みんな優しいね!

 

TO BE CONTINUED・・