292 入所の準備 | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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哲也の法人のグループホームの入所待ちを

したいと言った健太の言葉に、みどりは

うなずいた。

 

「わかったわ。健太、それなら、入所できる

前提で準備を進めましょう。18番目の枠が

決まるのは先の事だけど、決まったらすぐに

やらないといけないことが色々あるわ。

 

楓先輩も健太も土日しか動けないから、

まずは健康診断の予約を入れないとね」

 

入所施設は、感染症のある人は入れないので、

必ずレントゲンなどをして、結核などの

感染症が無いか等の診断書を提出

しなければならない。

 

「確か哲也の法人は、どこの医療機関の

診断書でもOKのはずだから、うちの病院の

健診を予約できるか聞いてみるね」

 

さっきまで、辛そうな顔をしていたみどりが、

健太の決心を聞いた途端に、敏腕ケアマネの

顔つきに変わっていた。

 

「健太、3月4日の土曜日なら予約取れる

そうだけど、どうする?」

 

「俺がダメでも、姉貴に頼めると思うから、

予約を頼むよ」

 

健太は、入所に向けて少しずつ動き出した

ことで、心が少し明るくなる気がした。

 

翌日の日曜日、健太はぽかぽかさんに

出かけた。母親の君江の様子を見たいのと、

洗濯物を受け取りに行くためだった。

 

お泊りサービスは利用していても、洗濯まで

はやってもらえないからと、みどりから

聞いていたからだ。

 

ぽかぽかさんに着くと、日当たりのよい部屋

で、君江は他の利用者さんと一緒に塗り絵を

していた。

 

「おふくろ、元気そうだな」

 

健太が声をかけると、君江は振り向いて

満面の笑みを浮かべた。

 

「健太、よく来てくれたわね。

仕事は大丈夫なの?」

 

「ああ、今日は日曜日だから大丈夫だよ」

 

そう言いながら、健太は君江の横に座って、

しばらく君江の様子を見ていた。

 

スタッフや他の利用者さん達と談笑しながら、

塗り絵を描いている君江は、とても楽しそう

だった。

 

管理者の山崎さんが健太を呼んだので、

健太は奥の和室に行った。

 

「佐藤さん、みどりちゃんから聞きました。

グループホームは入所待ちをするそうですね」

 

みどりの仕事の速さは相変わらずだった。

 

「入所が決まるまで、しばらくお世話に

なります。よろしくお願いします」

 

健太が頭を下げると、山崎さんは言った。

 

「無事に決まると良いですね。

うちのお泊りサービスは、長くても3月

いっぱいまでですから、その間に落ち着き先

が決まるのを祈っています」

 

山崎さんの優しい言葉に、健太は心が

温かくなるのを感じた。

 

「あの、洗濯物を受け取りに来たんですが」

 

健太が言うと、山崎さんが笑いながら言った。

 

「渡辺さんが金曜日に持って行かれましたよ。

佐藤さんはお仕事が忙しいから、私が担当

しますって。

 

ついでに、午後から一緒に皆さんとお話して

いってくれました。

 

渡辺さんは、お年寄りの集まるサロンを開き

たいと言っていらしたので、色々と勉強に

なると言ってました。

 

月曜日に、洗濯物を届けに来ますって言って

ましたよ。本当に、君江さんは人気者ですね」

 

山崎さんの言葉の意味が分からなくて、

健太は怪訝そうな顔をした。

 

「君江さん、この前は、食材を届けに来た

スーパー安西のおじさんと、何やら楽し

そうに話してましたよ。

 

昨日は、おやつのケーキを持って来てくれた

カフェのル ボワ シャルマンの林原さん

ともおしゃべりしてましたしね」

 

健太は、何だか嬉しくなった。

 

「話が通じているかどうかはともかくとして、

安西のおじさんも林原さんも、おふくろの事

をちゃんと覚えていてくれて、声をかけて

くれたんだ。

 

そして、おふくろも楽しそうにおしゃべり

していたんだ」

 

健太は、施設に入所すると、君江が一人で

放っておかれて寂しい思いをするのでは

ないかと思っていたが、そうではなかった。

 

君江には、君江の世界があって、その中で

楽しく暮らしていけるのだと、健太は

改めて感じた。

 

「おふくろ、今度の土曜日は、弥生病院に

健康診断に行くよ。

久しぶりにイケメン先生に会えるから、

楽しみだな」

 

帰り際、今言っても覚えていられないかも

しれないと思いながらも、健太は君江に

来週の予定を話した。

 

「そうなの、みどりちゃんの病院ね。

楽しみだわ」

 

君江の言葉に、健太は驚く。

時々、どこかにスイッチがあって、

記憶の線がつながるらしい。

 

認知症だからと言って、なんでも勝手に

決めるのではなくて、きちんと君江に説明

してから進めていこうと、健太は決意を

新たにした。

 

健太! それって大事だね!

 

TO BE CONTINUED・・