96 墓じまいして欲しい | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

社会保険労務士・行政書士・認知症ケア准専門士のはまじゅんが、介護や認知症についておしゃべり。介護にかかわるすべての人に笑顔を届けます。

翌朝、健太達5人は、朝食バイキングの

豪華さにびっくりした。子供のように

大騒ぎしながら、男3人でバイキングを

食べまくる姿を見て、君江と楓は大笑い

していた。

 

旅館の前に、昨日の運転手さんのタクシー

が迎えに来てくれて、四季折々の花が

楽しめるお寺に案内してくれた。

 

お庭を眺めながら、緋毛氈に座って、

お抹茶をいただく。芸術品のような

和菓子の美しさに、君江と楓は喜ん

でいた。

 

「お抹茶って、意外と苦くないんだね」

 

人生初体験のお抹茶に驚く颯介が言うと、

みんなで笑った。

 

穴場なのか、他の観光客も少なくて、

鹿威しの音だけが響く静かな空間、

健太は、このまま平穏な日々が続く

ことを願った。

 

温泉駅で買った駅弁を持ち込んで、

健太達は特急の中で遅めの昼食を

食べた。

 

みんなが食べ終わったころ、

浩介がさりげなく切り出した。

 

「おばあちゃん、さっきのお寺は静かで

良いところだったね。ところで、おじい

ちゃんのお墓はどこのお寺にあるの?」

 

「上ノ山村のふもとにある西福寺だよ。

故郷の方が喜ぶだろうって、康平兄さん

が言うもんだから、お父さんとお母さん

のお墓も一緒になっているよ」

 

「そうか、それじゃあ、おばあちゃんも

そのお墓に入るんだね」

 

浩介がいうと、君江は少し考えてから

言った。

 

「実は、前からね、お墓を移して欲しい

と思っていたんだよ」

 

「ええっ、そんな話聞いてないぞ!」

と健太は心の中で思った。

 

「上ノ山のお寺だと、遠くてなかなか

お墓参りもしにくいしね。それに、

健太もこの年まで独身じゃあ、お嫁さん

も来そうにないし、そうすると墓守する

人がいなくなっちゃうからね。

あの、扉が付いた箱みたいな・・・」

 

「ああ、永代供養の納骨堂のこと?」

 

と楓が聞いた。

 

「そう、その納骨堂を、S市内で探して

もらって、お墓を移して欲しいと、

思っているのよ」

 

「うん、わかったよ。それで、お葬式は

どうしたいの。

たくさん人を呼んで、豪華にしたいの?」

 

浩介は、ここぞとばかりに一気に聞く。

 

「そんなもったいないことしなくて良い

わよ。あなた達だけで、静かに見送って

くれれば十分だわ」

 

「華江おばさんは呼んだほうが良い?」

 

楓が聞くと、君江は答えた。

 

「そうね、あの子ももう年だから、無理

しない方が良いだろうからね。連絡だけ

して来れそうなら来てもらえば良いわ」

 

「おばあちゃん、延命治療はどうしたい?

入院した時にいっぱい管を付けて、最後

まで治療して欲しい。それとも、自然に

そのままの方が良い?」

 

浩介は、続けて聞いた。

 

「強さんが病院に行ったとき、いっぱい

管を付けられて苦しそうだったの。

結局助からなくて・・・。だから、私は

自然にそのままが良いわ」

 

「うん、わかったよ。おばあちゃんが

どうして欲しいのか、みんなでしっかり

聞いておいたから、その時にはちゃんと

おばあちゃんの希望通りにするから、

安心してね」

 

浩介が言うと、君江は微笑みながら

うなづいた。

しばらく、誰も話さなかった。

 

その時、この特急名物のアイスクリーム

を売る売り子さんが通りかかった。

 

「おばあちゃん、アイスクリーム食べ

ようよ。このアイス、この特急列車で

しか食べられないんだよ!」

 

颯介が言ったので、健太が売り子さん

を呼び止めた。

 

「アイスクリーム、5つください」

 

健太! 意思確認出来て良かったね!

 

TO BE CONTINUED・・・