94 父と母のロマンス | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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颯介は、祖母の君江の話をどんどん

聞いていく。

 

「おばあちゃん、高校卒業してからは

どうしたの?」

 

「康平兄さんはね、長男だからって

地元の機械メーカーに就職したんだ

けど、すぐに会社の合併があって、

関東に行くことになったの。

だから私は、地元の建設機械の卸の

会社に就職したの。

帳簿を付けたり書類を作ったりね。

残業もあるから、上ノ山村からは

通えないでしょう。

でも娘一人でアパート借りるのは

危ないからって、お父さんの知り

合いの紹介で、お稲荷さんの近くの

喫茶店の2階に下宿したのよ」

 

「えーっ、初耳だわ。お店の名前は

なんて言うの」

 

楓がビックリしながら聞いた。

 

「ひまわりっていう喫茶店。ママと

マスターがとっても良い人でね。

朝と夜は喫茶店で食べさせて

もらって、お昼はおにぎりを持た

せてくれたの。

会社が早く終わった時はお店を

手伝って、洋食の作り方はそこで

覚えたのよ」

 

それから、君江は妹の華江のことを

話した。

華江は高校を卒業すると、S市内の

大きい病院の受付をすることになって、

女子寮があったので、そこに住んだ。

自分は、毎週末、上ノ山に帰って

よろず屋の手伝いをしたが、華江は

交代制の勤務で、月に1回ぐらいしか

帰れなくて可哀想だった。

やがて、病院に出入りしていた製薬

会社の営業マンに見初められて、

21歳で結婚した。

旦那さんの転勤で東京に引っ越して

から、子供が二人生まれたこと。

親戚から田舎者と言われて、ずいぶん

苦労したことなどを話した。

 

「おばあちゃんとおじいちゃんは、

どうやって知り合ったの?」

 

颯介が聞くと、

 

「そう言えば、詳しい出会いの話、

私も聞いたことなかったわ」

 

と楓が言った。

 

君江は少し恥ずかしそうな顔を

しながら話し始めた。

 

関東に行った康平兄さんが結婚して

家を建てたので、上ノ山の両親を

関東に引き取って、よろず屋の土地

建物を全て処分した時、君江は26歳。

 

「その頃はね、25歳過ぎたら売れ残り

って言われる時代だったの。私はもう、

一生お嫁に行けないかと思ってたわ」

 

毎年、年末年始は上ノ山に帰ってお店

の手伝いをしていたが、もう行く所が

無くなってしまって、君江は喫茶店の

手伝いをしていた。

そこに現れたのが、楓と健太の父親に

なる佐藤強だった。

 

「うちの会社のお得意さんだったから、

顔は知っていたし、仕事のことで話は

したことあったのよ。でも、個人的な

話はもちろんしたことなかったの。

その年の暮れは大雪でね。東北の実家

に帰る列車が止まってしまって、帰れ

ないから、ご飯食べるところを探して

いたんですって。

社員寮のおばさんも年末年始はいない

からね。

で、偶然ひまわりに入ってきたの。

お互いに顔を見てびっくりして、年末

年始の間、毎日3回食べに来るじゃない。

だから色々と話すようになって、

それからお付き合いするようになったの」

 

「ええっ、じゃあ、列車が動いて東北に

帰っていたら、おじいちゃんとおばあ

ちゃんは出会わなかったってこと?

何だかロマンティックだねえ」

 

颯介の言い方に、みんなが笑った。

 

「結婚してからは、社宅だったんだけど、

狭かったから、お父さんもお母さんも

関東から呼べなくてね。楓を産んだ時も

健太を産んだ時も、ひまわりのママに

助けてもらったの」

 

君江は、ひまわりのママとマスターを

親のように慕っていたようだった。

 

それから、君江の話は、夫の強が亡く

なってからの話に飛んだ。

 

「華江ちゃんがね、私が一人で楓と健太

を育てるって言ったら、お金を送って

きてくれたの。

それも、毎年お盆とお正月にね。しかも、

子供達に渡すお小遣いとは別に、私にも

送ってくれて、姉ちゃん、無理しないで

体に気を付けて、これで美味しい物

食べてね!って。

本当に気持ちの優しい子でね。そのお金

のお陰で、あなたたちの部活のジャージ

や高校の制服が買えたのよ」

 

「そうだったの。そんなことちっとも

知らなかった」

 

楓が言うと、

 

「今のうちにあなた達にきちんと

教えておきたかったの」

 

と君江が言った。

 

「華江おばさんのこと、誤解してたな」

 

健太は、前に姉の楓と話した時に、華江

おばさんのことを悪く言ってしまった事

を思い出して反省していた。

 

「いっぱいお話したから、

眠くなってきちゃったわ」

 

君江が言ったので、楓は布団の敷いて

ある和室に君江を案内した。

 

浩介と颯介が、部屋の冷蔵庫からビール

と缶チューハイを出してきて、夕飯の

残りをつまみにしながら、飲み始めた。

 

健太は、肝心な話が聞けなかったな、と

思いながらも、自分の知らない母親の

思い出話が色々と聞けたので、浩介と

颯介にお礼を言った。

 

「浩介、颯介、二人ともありがとな。

こんな風におふくろの思い出話が聞けて、

俺は本当にうれしいよ」

 

「健兄ちゃん、話が長くなっちゃって、

お葬式とかの話が聞けなくてごめんね」

 

颯介が頭をかきながら言うと、浩介が

言った。

 

「健兄ちゃん、明日また、機会を見て

話をしてみるからね」

 

「ああ、ありがとう。頼むな」

 

と健太は両手を合わせてお願いした。

 

「お母さん、ぐっすり寝ちゃったわ」

 

と言いながら、楓が戻ってきた。

 

「私にもビールちょうだい」と楓が言う

ので、4人は改めて乾杯をした。

 

「ねえ、母さん。おばあちゃんが避けて

いるみたいだったから、聞けなかったけど、

おじいちゃんって早くに亡くなったん

だよね。病気だったの?それとも事故?」

 

颯介の疑問に楓が話し始める。

 

「あれは、私が小学校6年で、健太が

4年の時ね・・・」

 

健太! ちゃんと覚えてる?

 

TO BE CONTINUED・・・