健太は急いで中央包括支援センターの
早川さんに電話をして、プレジールに
決めたいと報告した。
すると、みどりに言われた通り、母親
の君江と面談したいことや、ケアプラン
の内容を相談したいこと、プレジール
との契約のことを言われた。
健太が、土曜日しか動けないことを
説明すると、早川さんが今度の土曜日
に、アセスメントから契約までできる
ようにセッティングしてくれることに
なった。
健太はホッとする間もなく、今度は
姉の楓に電話をした。
今日、デイサービスの見学をすること
を聞いていた楓は、母親の気に入る
デイサービスがあった事と、母親が
行く気になってくれた事を聞いて、
安心したようだった。
「良いわよ。今度の土曜日なら空いて
るから。午後1時くらいからにして
もらえると、ありがたいな。
それと、健太。この前言ってた温泉
旅行の話。浩介が良いところ見つけて
くれてもう予約したからね。絶対に
その日はちゃんと休みを取ってよ」
「うん、わかった。
姉貴、世話かけて悪いな」
「何言ってるのよ。私にできることは
いつでもちゃんと協力するからね。
私も、包括の人に会っておきたいし、
お母さんが行くデイサービスの場所も
知っておきたかったの」
楓の言葉に、健太はやっぱりそうか!
と思った。
「それで、旅行の話もゆっくりしたい
から、また土曜日泊まるからね」
よし!これで安心だ!と健太は思って、
みどりにLINEで報告した。その時、
ふと同級生の中村哲也のことが頭に
浮かんだ。
「そもそも、哲也がみどりを紹介して
くれたから、ここまでうまく話が
進んだんだよな」
健太はそう思うと、哲也にお礼をする
べきだ、と考えてみどりに聞いた。
「みどり、俺、哲也にデイサービスに
行けることになりました、って報告
がてらお礼をしたいんだけど、最近
哲也に連絡したことあるか?」
「仕事の上では話したことあるけど。
そうそう、風の噂で聞いたんだけど、
中村君ね、最近奥さんに逃げられて
離婚したらしいわよ」
みどりが小声でつぶやいた。
「おいおい、みどりは個人情報には
うるさいんじゃないのか」
健太があきれて言った。
「それは、利用者さんの場合!まあ、
あくまでウ・ワ・サだけどね」
「そっか、あいつも色々と大変なん
だな。じゃあ、一回連絡してみるわ」
健太が中村哲也に電話をすると、
ちょうど休みの日だったらしく哲也は
すぐに出た。健太が、状況報告とお礼
を言うと、哲也から一度飲みに行か
ないかと誘われた。今度の土曜日なら
姉貴が泊まるからいいぞ!と言うと、
早速話がまとまった。
次の週の土曜日の朝、健太は午後から
楓が来てくれて、デイサービスの
手続きをしてくれることを母親に
伝えて出かけた。
楓が昼に来て、食事を済ませると、
中央包括の早川さんが自宅に来た。
「こちらの方はどなた?」
君江が聞いたので、楓は
「みどりちゃんの後輩なの。デイ
サービスの手続きを色々してくれる
のよ」
と言った。みどりの名前を出して
おけば大丈夫と健太から聞いて
いたからだ。
早川さんも心得たもので、「みどり
先輩の後輩です!」と挨拶して、
アセスメントを始めた。
「それでは、プレジールさんに行か
れるのは、火曜日と木曜日、お迎え
の時間は8時50分で良いですね」
中央包括のお話が終わったころに、
今度はプレジールの管理者の水野
さんが現れた。
「こんにちは。先日見学にお越し
いただいたデイサービスプレジール
の水野です」
君江は、水野さんとあまり話して
いないので、覚えていなかった。
水野さんは、楓に名刺を渡すと、
契約書と重要事項説明書を出して
説明を始めた。
どちらの文書も、法律のように第何条
という書き方がしてあり、使われて
いる言葉も難しいので、君江には理解
できない部分が多かった。
最後に利用者本人と家族が署名する時、
楓は君江の動きを注意深く観察した。
「前にみどりに言われた時は、おふくろ、
住所が書けなかったから、姉貴、よく
見てフォローしてやってくれよ」
と、健太から頼まれていたからだ。
案の定、君江は住所を書くところで
手が止まったので、楓は小声で住所を
言って教えた。
契約が終わると、水野さんが簡単に
デイサービスで必要な基本事項の
アセスメントをして、緊急連絡先に
健太の携帯電話や勤務先、楓の携帯
電話や勤務先などを記入して終わった。
「それでは、来週の火曜日からお迎えに
参りますね。8時50分にインターホン
を鳴らしますから、すぐに出かけられる
ように準備しておいてくださいね。
持ち物はこちらになります」
水野さんが、持ち物の一覧表を渡した。
「それでは、私たちはこれで帰ります」
と早川さんが言うと、楓が水野さんに
言った。
「すみません。プレジールさんの場所
だけ確認したいので、私の車で後に
ついて行っても良いですか」
水野さんは、どうぞどうぞ、中まで見学
してください、と楓に笑顔で言った。
楓は、母親を乗せてプレジールに行き、
中を見学して帰ってきた。
帰りの車の中で、楓は言った。
「お母さん、とってもおしゃれで素敵な
ところね。良かったじゃないの」
すると、君江は少し心配そうな顔をして
聞いた。
「さっき、なんだか難しそうな書類に
名前を書いたけれど、大丈夫かねえ」
楓は、母親が気にしていたことに
驚いて言った。
「お母さん、大丈夫よ。市役所から
9割分もらうためには、色々と書類
がいるんですって」
「ああ、そう言う事なのね。
それじゃあ、良かったわ」
君江は納得したようだった。
「健太が言ってた通り、お母さん、
お金のことはすごく気になるのね」
姉の楓から、無事契約が終了した
連絡を受けた健太は、哲也との
飲み会の会場に向かった。
母親の認知症を疑い始めてからは、
ずっと母親を夜一人にできなかった。
飲み会に出かけるのは、本当に久し
ぶりだった。
健太! 飲みすぎ注意だよ!
TO BE CONTINUED・・・