86 デイサービスの見学 | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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翌日の土曜日、健太は母親の君江を

連れて、利用を検討する2か所の

デイサービスの見学に出かけた。

 

まず、午後2時に予約の入れてある

「デイサービス ぽかぽか」に出かけた。

ここは、定員が10人の事業所だ。

 

見た目は普通の民家の1軒家という

感じだったので、看板が無ければ通り

過ぎるところだった。

 

庭のような場所に車を入れると、玄関から

ニコニコしながら初老の男性が出てきた。

 

「こんにちは。佐藤さんですね。

お待ちしてました」

 

優しい笑顔であいさつされて、母親の君江

も笑顔だった。

 

「今日はよろしくお願いします。

息子の佐藤健太です」

 

健太はぺこりと頭を下げた。

 

「さあ、どうぞどうぞ」

 

男性は、玄関の中に招き入れた。玄関も

健太の家と同じぐらいの広さだった。

 

スリッパに履き替えて中に入ると、少し

大きめのリビングになっていて、家庭に

あるようなテーブルが二つ並んでいる。

 

奥の方には、男性が3人、手前の方には

女性が5人座っていた。

 

案内してくれた男性は、健太に名刺を

出しながら言った。

 

「私が管理者の山崎です。手前にいる

のが介護士の金山さん、奥にいるのが

看護師の大山さんです」

 

二人の女性が、利用者さんたちと話を

しながら、健太と母親に会釈をした。

 

「どうぞ、こちらに座ってください」

 

山崎さんは、空いている奥のテーブル

の椅子に、健太と君江を座らせた。

 

「こんにちは」健太があいさつすると、

女性の5人は口々にあいさつを返して

くれたが、男性の方は無言だった。

 

男性の二人は、将棋を指していて、

そちらに集中している様子だったし、

もう一人の男性は新聞を読んでいた。

 

女性たちは、金山さんと大山さんと

おしゃべりをしながら、一人は編み物

をしていて、二人は折り紙をしていて、

後の二人は塗り絵をしていた。

 

みんなが好き勝手に、自分のしたい

ことをしているという感じだったが、

日差しの入るリビングは明るくて、

温かい雰囲気の場所だった。

 

「君江さんは、何か趣味とかお好き

なことはありますか」

 

山崎さんに聞かれたが、君江は少し

困ったような顔をして答えなかった。

年配の男性と話すのが久しぶりで、

戸惑っている感じだった。

 

「母は、2年前まで働いていたので、

あまり趣味らしいものも無くて・・・」

 

と健太が代わりに答えた。

 

「そうですか。でもご心配はいらない

ですよ。介護士の金山が色々なご提案

をしますから、その中で興味の持て

そうなものを楽しんでいただければ

いいですよ。

利用者さん同士で教え合ったりもあり

ますしね」

 

君江は、女性たちが楽しそうに話して

いるのを眺めていた。

健太は、山崎さんからパンフレットを

もらって、「デイサービス ぽかぽか」

の理念や、一日の過ごし方、年間行事

などの説明を受けていた。

 

「佐藤さん、家の中をご案内しますね」

 

看護師の大山さんが、君江に声をかけて、

リビング以外の場所を案内してくれた。

トイレやお風呂場、横になれる和室など、

知り合いの家に遊びに来ている雰囲気を

大切にしているんですよ!と話しながら

案内してくれた。

 

母親が大山さんとニコニコしながら

話しているのを見て、健太はホッとした。

 

30分ほど見学させてもらって、健太と

君江は次の予約があるのでと言って

リビングを出た。

 

「良かったら、また遊びに来てくださいね」

帰り際に山崎さんが君江にそう言うと、

君江はにっこりした。

 

次に出かけたのは、最初に健太が君江を

乗せて飛び込みで出かけた事業所、

「デイサービス プレジール」だった。

 

このデイサービスは、定員が45名の

大きな事業所だった。

駐車場も広くて、送迎用の車両が何台も

停めてある。

外観は、おしゃれなカフェのようだった。

 

車を駐車すると、二人は玄関まで行って、

インターホンを押した。

「すみません、3時に見学予約を入れた

佐藤です」

 

すると、中から鍵が開けられて、若い女性

が出てきた。

「こんにちは。どうぞ」

 

玄関でスリッパに履き替えて、左手のドア

を開けて中に入ると、小さめの体育館の

ような広い空間があった。

40人程の利用者が、奥の方に向かって

横に10名ほどで縦に4列の隊形で椅子

を並べて座っていた。

 

「今日は、ボランティアさんが来る日

なので、皆さん、始まるのを待って

いるんですよ」

 

健太と君江に椅子をすすめた女性が

教えてくれた。

 

間もなく、横の扉が開いて、きれいな

ドレスを着た女性が3人現れた。一人は

バイオリン、一人はフルートを持っていた。

 

「皆さん、こんにちは。音楽トリオ 

フルールです」

 

楽器を持っていない人が司会進行のよう

だった。

最初に1曲きれいな曲を演奏した後は、

利用者さんたちが歌える童謡や懐かしい

唱歌、懐メロの演奏などがあった。

利用者さんたちは大きな声で一緒に歌ったり、

司会者の質問に答えたりして、とても楽し

そうだった。

 

健太は母親を見ていた。

君江は目をキラキラさせて演奏する人たちを

見ていた。知っている歌になると、顔を

輝かせながら一緒に口ずさんでいた。

母親のこんな顔を見たのは久しぶりだった。

 

スタッフの人数も、先ほどのデイサービス

とは比べ物にならないぐらいたくさんいて、

若い男性もいた。みんな楽しそうに手拍子

したり一緒に歌ったりしていた。

 

大きな窓の開放的な建物で、部屋の隅には

リハビリや筋トレに使うような道具も色々

と置かれていた。

 

大きなスクリーンのテレビの横には、

カラオケの設備も置かれていた。

 

「音楽トリオ フルール」の演奏会が

40分ほどで終わり、利用者たちは、

手前に置かれたテーブルの方に戻って

きた。

 

その時、少し年配の女性が健太に話し

かけてきた。

 

「あちらの相談室でお話を伺います」

 

玄関の右手横の相談室と書かれた小さな

部屋に、健太は案内された。

 

「私が管理者の水野です」

 

名刺を健太に差し出すと、水野さんは

パンフレットを使って、施設の内容など

を説明し始めた。

 

「プレジール」はフランス語で「楽しみ」

という意味で、利用者さんに楽しんで

もらえることを一番に考えています!

と水野さんは言った。

 

その頃君江は、そのまま利用者さん

たちと一緒におやつを食べていた。

若い男性スタッフに声をかけられて、

嬉しそうに話していた。

 

水野さんの説明を10分ほど聞いて、

健太が戻ると、母親はニコニコしながら

若い女性スタッフと話をしていた。

 

「母さん、帰るよ」

 

健太が声をかけると、君江は名残惜し

そうな顔をして席を立った。

 

健太! どっちにする?

 

TO BE CONTINUED・・・