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平野幸夫のブログ

ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。

北海道・利尻島でも新型コロナウ
イルスの感染クラスターが発生し
た。ウイルスは「GoToトラベ
ル」キャンペーンの旅行客が持ち
込んだとみられ、感染者は14人。
北海道の医師会長は「『GoTo
』を控えて欲しい」と訴えるのに
、菅義偉首相は「見直す状況にな
い」と居直る。各地から上がる悲
鳴に耳を傾けようとしないばかり
か、赤羽一嘉国交相は来年1月ま
での期間延長と予算増を言い出す
始末だ。14日の感染者は1700
人を超え、各地で過去最高になっ
た。冬場の感染爆発の危機感が募
る。人命を軽視し続けるこの政権
を倒さなければ、欧米のように取
り返しのつかない状況に陥る。


既に「GoToトラベル」利用者
の感染者は判明分だけでも、13
8人にのぼり、感染が分かった施
設は31都道府県の84施設にものぼ
る。これらの旅館やホテルは検温
、消毒の徹底など手を尽くして感
染防止対策をとっていた施設が多
い。それでも、防ぎ切れなかった
のである。これから紅葉やカニの
シーズンを迎え、キャンペーンの
中止は大きな痛手になるかもしれ
ないが、クラスターが発生したら
それ以上の打撃になるのは必至だ
。政府が支援すべきは利用客では
なく、感染拡大に防止に協力した
観光業者ではないか。一定期間、
利用人数を減らした業者には持続
化給付金とは別に、経営支援金を
支給すべきではないか。


そもそも、このキャンペーンは手
続きは複雑で一部の人しか利用で
きない。ネットの使用に慣れてい
ないシニア世代から「不公平だ」
という声が上がっている。大手旅
行サイトや旅行代理店ばかりが潤
うばかりである。1兆円を超える
血税が政府とパイプのある特定の
業者だけに流れる仕組みを、メデ
ィアはもっと検証し批判すべきで
ある。


雇用も深刻だ。今年2月から9月
までに非正規労働者が約80万人が
減少した。解雇や雇い止めで職を
失った人に公的支援の手を差しの
ばす時だ。「GoTo」の資金は
こちらの方にこそ向けるべきでは
ないのか。テレビメディアは「G
oToトラベル」で利用客がどれ
だけ得になったかという画像ばか
りをたれ流す。社会の深層で起き
ていることに目を向けない浅まし
い風潮が強まる一方でコロナで弱
い立場に立たされた人の困窮度が
より高まっている。


政府の分科会は「GoTo」を「
今すぐやめる状況にない」と言う
だけで、政府に継続のお墨付きを
与える機関に堕している。自ら警
戒レベルを4段階に設定した上か
ら2番目のステージにあたる県境
越え移動の制限、飲食店・観光施
設の入場制限などの判断を下すべ
き時だ。「今やらないでいつやる
か」だ。お追従だけの専門家集団
は必要ない。



今傾聴すべきは地域の医師会長の
警告だろう。第二波の若者中心の
感染より今回の第三波は年代を問
わない広がりが特徴といい、危機
感が一層募る。


政府のちぐはぐな対応は外国人旅
行客に入国後二週間待機を免除し
公共輸送機関の利用を認める方向
で検討していることにも表れてい
る。欧米の感染爆発を見れば、今
は逆に水際対策を強める時ではな
いのか。五輪開催に固執して入国
緩和の実績を作ろうとしか思えな
い。人命軽視の五輪開催などあっ
てはならないことだ。


         【2020・11・15】

答弁に窮して、また官房長官時代
の傲慢な物言いが戻ってきた。「
当たらない」「答えを差し控える
」「問題ない」……。日本学術会
議の任命拒否についての国会審議
で菅義偉首相が説明を拒み続けて
いる。前政権でも見たことのない
居直りぶりだが、メディアも問題
視しない。それどころか、組織改
革への「論点ずらし」をメインに
報じ、世論調査の質問にも手心を
加えている。6人の任命拒否は「
官邸ポリス」による時代錯誤の「
赤狩り」(レッドパージ)である

という危機意識を持っていない。


短い臨時国会の審議の大半を費や
す6人の任命拒否について、暗然
とする世論調査結果が出た。8日
付けの毎日新聞によると、菅内閣
の支持率は7ポイントさがっても
まだ57%もあった。菅首相がまっ
たく拒否理由を説明しない姿をみ
たら、20ポイントぐらい下がって
もおかしくないのに、そうはなっ
ていない。調査内容をよくみると
、その原因の一つが腑に落ちた。
任命拒否について「問題だ」「問
題とは思わない」「どちらともい
えない」の選択肢だけで、答えが
多くなるはずだった「説明は十分
か」を入れていない。もし入って
いたら7割近くになったのではな
いか。


そして論議の焦点にもなっていな
い「学術会議の見直し」について
聞き、そちらに誘導するように「
適切だ」の答えを用意し、58%が
同意、「適切でない」の24%を上
回っていた。まるで政権をアシス
トするような「論点ずらし」の設
問だった。権力の暴走を止めるた
め世論を喚起するのもメディアの
責務なのに、その自覚もない。菅
首相の高笑いが聞こえるようだ。


共同通信は先週、「官邸、反政府
運動を懸念し6人の任官を拒否」
とか「反政府先導を懸念」などと
配信した。菅政権に近い共同の政
治部記者が「官邸ポリス」の言わ
れるままに報じたとみられる。政
権の「メディアコントロール」が
ついに行きつくとこまで行った感
がして、寒気をもよおす。戦前

、戦中、戦後の「赤狩り」を思わ
す言論統制へのいつか来た道であ
る。


近現代史を知らない若い記者が書
かされたか、真に思い込んでいる
か分からないが、まるで6人を反
政府活動家のように扱う共同編集
局の劣化に暗然とする。


メディアがただすべきは50回近く
も「答弁を控える」と繰り返す菅
首相の姿勢と資質だろう。所信表
明で前代未聞の「6回言い間違え
」以来、貧困な言葉遣いしかでき
ない本性をさらけ出たのだろうが
、言論の府で許されることでない
。釈明しないのなら即辞任すべき
だ。


推薦名簿を「見ていない」と答え
た菅首相は支離滅裂な答弁ばかり
を繰り返すが、こともあろうに参
院の自民党議員の質問にも、言っ
てはならないことを口にして野党
に追い込まれている。「以前は、
正式な推薦名簿を提出する前に、
内閣府と学術会議会長との間で一
定の調整が行われていた」と事実
上の「検閲」をばらしてしまった
のである。後であわてて「調整」
を「事前説明」と言い直したが、
もう遅い。「学問の自由への介入
」であることは明白だ。


答弁は機転もきかず棒読みばかり
。その頭の中を見て見たくなるお
粗末ぶりだ。権謀術数で人を蹴落
とすことだけを考えてきたせいか
。貧相な顔貌がそれを象徴してい
る。


    【2020・11・10】


「政事乱るるは、すなわち冢宰(

ちょうさい)の罪なり」。政治の

乱れは、一国の宰相の罪責である

という意味の中国の古典・荀子の

警句である。日本学術会議の任命

拒否で杉田和博官房副長官による

陰の差配ぶりが国会で指弾されて

いる。菅義偉首相が安倍内閣から

継承したこの「官邸ポリス」は加

計学園疑惑でも暗躍ぶりが指摘さ

れ、今回も参考人招致が求められ

ている。衆参の予算委員会で、何

度も答弁不能状態に陥る菅首相の

姿は、改めて宰相としての資質の

無さと、恣意的に権力を行使する

薄汚さを思わせる。


昨日の衆院予算委では、杉田副長

官の新たな疑惑が浮上した。立憲

の本多平直氏によると、杉田副長

官が菅首相と親しい「グルナビ」

の滝久雄氏を文化功労者に選考し

たというのだ。同社は「GoTo

キャンペーン」で多大な利益を上

げたことで知られる。本多氏は情

実人事ではないかと追及した。



滝氏の関連会社は菅首相の政治団

体に多額の政治献金をしており、

伊藤詩織さんへのレイプ事件を起

こした元TBSの山口敬之に資金

援助をしていた人物でも知られる

。安倍前首相の加計学園疑惑で「

国家の私物化」批判が高まったの

と同じように、また杉田副長官の

関与が発覚。菅首相への利益誘導

が繰り返されたのではないか。


関係者の証言によると、菅首相は

滝氏に「山口氏の家賃を払ってく

れないか」と依頼したといい、実

際に家賃月42万円が支払われたと

いう。そもそも滝氏が文化功労者

の資格があるか極めて疑わしい。

二人一組で打つ「ペア囲碁」を普

及させたという選考理由も飾り立

てただけの経歴で菅首相に近いと

いうだけで選ばれた疑いが募る。

文化功労者は年金として350万

円を終身にわたって受け取れる。

そうだとしたら、「モリ、カケ、

サクラ」に匹敵する「菅スキャン

ダル」に発展してもおかしくない

ほど腐臭が漂う。


文科省事務次官だった前川喜平氏

は文化審議会の人選で、杉田副長

官から大臣了解の人物を「好まし

くない」と差し替えを要求された

と証言している。前川氏は「出会

い系サイトの店」に出入りしてい

たのを杉田副長官に注意されたあ

げく、読売新聞にリークされた。

官僚を支配下におくための脅しを

駆使していたのである。菅首相は

官房長官当時から杉田副長官を「

官邸ポリス」として重用していた

ことは明白である。日本学術会議

の任命拒否も一連の「杉田差配」

の一つだったとみられる。


一連の疑惑は菅政権の権力構造の

醜悪な姿を見せつける。全容を知

るためにも杉田副長官の国会招致

が欠かせない。「官邸ポリス」に

よる陰の権力行使にストップをか

けなければ、また民主主義国家の

土台が棄損し続ける。


    【2020・11・5】

国会論戦で前代未聞のことが起き
た。衆院での初の所信表明演説を
した菅義偉首相が6カ所も言い間
違えた。「重点化」を「ゲンテン
化」と読んだり、「そこにある」
を「そこそこにある」と言うなど
頭の中をのぞいてみたくなるほど
のお粗末さであった。日本学術会
議の任命拒否では次々と後付けの
理由を述べるが、どんどん論理破
綻の底なし沼に陥っている。週明
けの予算員会を控え、与党内部か
らさえ「もう耐えられないのでは
」と不安視されている。記者の質
問や民意を強権的な振る舞いで踏
みにじってきたが、もう通用しな
くなってきた。


一つ二つなら言い訳も通るが、6
カ所はあまりにひどい。側近官僚
に書かせた演説の文言の意味をま
ったく理解せず、棒読みするから
間違う。その言い方も基礎的な政
治用語も知らないと疑わせた。「
薬価改定」を「薬価改正」と間違
え、「被災者」を「被害者」と意
味が変わることさえ気づかず、平
然と言い放った。他にも「貧困対
策」を「貧困世帯」にしたり「打
ち勝った」を「勝った」と表現、
語句に込められた意味を理解して
いないと思われ、与党議員さえ赤
面したはずだ。


演説直後に衆院事務局が速記録を
改ざん、言い間違いがなかったよ
うに訂正したという。事実なら歴
史に残る公文書の書き替えで、犯
罪的でさえある。時代が200年
以上さかのぼり、暴君が現れたの
かと錯覚させる。


「あたらない」「問題ない」とい
う言葉だけで記者の質問を封圧し
てきた官房長官時代の応答がずっ
と通るという驕りが垣間見える。
。しかし、一問一答形式で質疑す
る予算員会で納得する答弁ができ
ず、立ち往生するのは目に見えて
いる。


学術会議任命拒否についての代表
質問ではさっそく、論理破綻の答
弁を次々繰り出した。そもそも記
者インタビューで「6人の推薦名
簿」を「見ていない」と説明して
おきながら、今度は「出身大学や
大学にも大きな隔たりがある」と
言い始めた。これも官僚が考えた
釈明をそのまま使ったのか。しか
し、それが事実誤認の妄言だった
ことが判明してしまった。学術会
議が東大出身偏重や国立大出身

を減らしていることが判明。メディ
アのファクトチエックで、でたら
めな反論をこれ以上繰り出せなく
なった。


首相就任一カ月のつまずきは自ら
の資質の無さが招いた。芥川賞作
家で元共同通信記者の辺見庸さん
は28日の毎日新聞夕刊で菅首相を
「手に負えないという怖さがある
」と警告した。「安倍さんだって
同じではないか」という記者の質
問に対しこう答えている。


「そうなんだけど、安倍の方が育
ちが言い分、楽だった。でも菅さ
んはもっとリアルで違うよ。今ま
で為政者をみてきてね、こいつは
怖えなと思ったのは彼が初めて」


「僕は戦争を引きずっている時代
を知っているわけ。だから特高警
察的な顔をしているやつがいまし
たよ。たたき上げ、ノンキャリア
でさ。(情状の通じない)手に負
えないという怖さがあるんだ」


記者は「物書きの繊細なセンサー
がとらえる直観である」と結んで
いたが、菅首相という人物の本性
を言い当てている。辺野古埋め立
ての容赦ない手法。従わない官僚
らの左遷……。どれも陰湿で酷薄
。逸見さんが「顔は大事だよ。す
べてが出ているよ」と言い切った
。その険悪な顔貌の首相は「独裁
者」という国会の野次に眉を吊り
上げ、最も敏感に反応したのであ
る。


        【2020・10・31】

 

「分断して統治せよ」。18世紀半
ば、英国はそんな権謀術数を駆使
し、ヒンドゥー教とイスラム教の
対立をあおり、植民地支配を固定
化させた。専制政治に走る国の多
くがこの統治手法を見習った。こ
の国でも安倍政権を継承した菅政
権も露骨に民意の分断を謀る。日
本学術会議の推薦候補拒否につい
て政府は梶田隆章会長の取り込み
を図り、「御用メディア」は「学
術会議不要キャンペーン」を展開
する。戦前の「赤狩り(レッドパ
ージ」を想起させるこのたくらみ
を排するには、メディアや有権者
の覚醒が欠かせない。


政府に呼ばれ、のこのこ出かけて
6人の任命拒否に強い抗議もでき
ない梶田会長の姿に失望した人も
多かったのではないか。ノーベル
賞受賞者の頭の中がこんな空疎だ
ったのかと驚き、心底情けなくな
った。おまけに井上信治科学技術
担当相の「学術会議のあり方見直
し」要請にも応じてしまった。政
府の「分断の罠」にまんまとはま
った。政府に組織見直しのお墨付
きを与えてしまい、会員らから「
会長を辞任すべき」と言われても
仕方がない位の大失態である。


読売、産経、日経など「御用メデ
ィア」も醜悪な広告キャンペーン
を展開し始めた。23日、この3紙
が「日本学術会議を廃止せよ」と
題した意見広告を掲載した。広告
主は「国家基本問題研究所」で、
桜井よしこ理事長の目をむくよう
な大きなポーズ写真が付けられて
いた。冒頭から学術会議を「日本
を否定することが正義であるとす
る戦後レジュームの「遺物」と断
じている。


極右メンバーの集まったこの組織
らしく「憲法も学術会議も国家・
国民の足枷と化したのです」と何
の論拠も示さず乱暴な文句を並べ
ている。3紙の読者に偏見を植え
付け、熱狂を駆り立てようとよう
と必死の気配だ。しかし、中身は
デマ、捏造、歪曲ばかりだ。


桜井よしこ氏はBSフジの番組で
「防衛大の卒業生が大学院に行き
たくとも、東大を始め各大学は『
防衛大から来た、防衛相の人間な
ど入れない』と断っていたと発言
した。しかし、東大などの大学院
に入った防衛大や自衛隊出身者は
複数おり、まったく事実と違うこ
とが分かって、フジは訂正や発言
部分画像カットに追い込まれた。
桜井氏がジャーナリストを名乗る
なら、自身の事実誤認に落ち込み
、しばらく外に出れなくなるのが
まともな倫理感ではないのか。恥
しげもなく、その直後に自身の顔
写真を今回の意見広告に掲載する
厚顔ぶりに驚かされる。この振る
舞いだけでも本性が分かる。


「言論の自由に政府が手を突っ込
んできた」という異様な光景に海
外メディアは日本のメディア以上
に敏感だった。日本外国特派員協
会が23日、今回任命拒否をされた
6人の学者の言い分を聞く記者会
見の場を初めて設けた。米国メデ
ィアの女性は「(菅首相が)人事
権を掌握して強権的にやっていく
傲慢な首相であることが見えてき
た。日本の民主主義の行方が不安
になる」(毎日新聞24日付記事)と
話していた。その言葉通り、必ず
見過ごしてはならない歴史の転換
点になるかもしれない危機意識を
強く持ちたい。


作家の保坂正康さんが毎日新聞の
文化欄で紹介していた反ナチス運
動をしていたドイツの牧師、マル
ティン・ニーメラーの言葉がしば
らく頭から離れない。


「ナチスが共産主義を攻撃したと
き、私は声をあげなかった。私は
共産主義者でなかったから。(略
)ユダヤ人を連れて行ったとき、
私は声をあげなかった。私はユダ
ヤ人でなかったから。そしてナチ
スが私を攻撃したとき、私のため
に声をあげる者は誰一人残ってい
なかった」


次の攻撃は既に始まっている。


    【2020・10・26】


 







スクリーン全編に忍び寄る戦争の
影。それが今の時代に重なって震
えがくる。ベネチア国際映画祭で
監督賞を受賞した「スパイの妻」
は国家機密を知った夫婦の告発の
物語だが、台詞回しはまるで舞台
を観ているような感覚にさせ、極
上のエンターティメント性にもあ
ふれる。開戦前夜の神戸の街を見
事に再現したフィルムワークにも
最大の賛辞を送りたい。コロナの
感染拡大で長く映画館に行けず、
意を決して出かけたのだが、見終
わった後も長く余韻が残るのは、
今に通じる時代や政治の空気の凶
暴さに立ち向かう強いメッセージ
性があるからだろう。近年ベスト
1の傑作である。


神戸の裕福な貿易商の妻聡子を演
じた蒼井優の際立つ美しさとその
変貌ぶりに終始目が離せない。相
手役の高橋一生はヒユーマニズム
あふれる貿易商優作を気高く演じ
る。しかし、町には憲兵たちの靴
音が高まり不穏な空気が覆う。


聡子は当初「アメリカが日本の敵
になるのですか」と無邪気に問い
かけていた。そんな中、憲兵隊本
部の分隊長になった幼馴染の泰治
役の東出昌大が優作の言動を不信
を募らせつけ狙う。優作が国家反
逆の疑いのある言動を見せ始めて
から酷薄な振る舞いに出る。


夫の秘密を知ってからの聡子の変
化がこの映画の最大のテーマ性で
もある。「女の目覚めと覚悟」と
も言うべきか。幼さとしたたかさ
を備えなければ演じられない役だ
。この二面性を持つ蒼井優という
女優なしでは、この作品は成り立
たなかったかもしれない。蒼井優
は毎日新聞のインタビューに「自
分の行動で国の未来が変わり得る
ような役だった。その重みを強く
感じ、演じていてつらかった」と
振り返った。それだけ主役になり
きっていたということだろう。大
学時代、授業を聴講したことのあ
る映画評論家の蓮實重彦さんは「
聡子の変貌に世界は救われる」と
朝日新聞に寄稿していた。


ほぼ全編神戸ロケで仕上げたとい
い、まだ豊かだった人々の生活と
風景が8Kでリアルに映し出され
、見る人をその世界に引き込む。
エンドロールでNHKの名が流さ
れると、撮影技術の高さに納得で
きた。特にうれしかったのは、夫
婦の住む洋館が、以前「ひょうご
へりテージ」という新聞連載で取
材した「旧グッデンハイム邸」を
使っていたことだ。神戸・塩屋の
海を見下ろす高台に立つこのコロ
ニアル様式の洋館は取り壊される
寸前だったのを、ステンドグラス
作家の女性が私財をなげうって購
入、今は一般開放されている。


神戸出身の黒沢清監督は「今まで
使っていたような生活感のある洋
館は、日本全国であそこしかない
」(神戸新聞)で絶賛した。また
この洋館の存在を世に広く知らし
めてくれ、わが事のよう喜ばしく
なった。


ミステリー性も豊かで、最後まで
ノンスットップの面白さがある。
ラストは「希望と再生」を漂わす
。上映館がもっと増えてよい。ア
ニメ「鬼滅の刃」ブームに席捲さ
れるばかりでは、情けない。きょ
う21日は「国際反戦デー」。若い
人に「こんな上質の映画を見逃し
ては損だよ」と叫んでみたくなっ
た。

          【2020・10・21】


(写真は「スパイの妻」のポスタ


ー)


ひたひたと専制国家の足音が聞こ
える。日本学術会議の候補任命拒
否で「学問の自由」に手を突っ込
んだ菅政権が今度は国立大に中曽
根康弘元首相の合同葬に弔意を表
明するよう求める通知を出した。
元首相はロッキード事件のP3C
哨戒機疑惑の捜査対象だった人物
でもあり、、歴史上の評価は定ま
ってない。ましてや国葬でもない
。政府は「強制ではない」(加藤
勝信官房長官)とするが、対応に
よっては大学交付金を減らしかね
ない。人の心の自由まで侵害し、
従わなければ容赦なく罰する「公
安・警察国家」の本性をまた露わ
にし、その「知」への凶暴性は一
段と高まっている。


前川喜平元文科事務次官の証言通
り、警察庁警備局長だった杉田和
博官房副長官は安倍政権当時から
思想統制の動きをあからさまに各
省庁に示していた。前川氏が杉田
副長官にあげた「文化功労者名簿
」の二人を差し替えさせられたの
が一例である。理由は「安保法制
に反対し、メディアで政権批判し
たから」だった。今回の学術会議
の任命拒否と符合し、政権に刃向
う者を排除する大きな流れは変わ
らず、強まっている。この杉田副
長官を重用し、公安・警察情報を
吸い上げ自身の権力の源泉にして
いたのが菅首相だ。自身はけっし
て表に出ず、策謀に自信を持って
いたはずだ。


それが、今回推薦名簿を「見てな
い」と不用意に言い放った。これ
こそ菅首相の「学問への敬意」を
持てない粗暴で姑息な人間性を表
す。それだけでなく、刃向う者を
権力でねじ伏せると思っているの
か国会開会まで引き延ばしてきた
。それでも10日後は表に出て、予
算員会の審議に応じざるを得なく
なった。これまで記者会見で「問
題ない」「あたらない」「あなた
に答える必要はない」と逃げ回っ
ていたが、それはもう通用しない


戦々恐々として夜も寝れない心境
ではないか。その表れか、首相は
相談するブレーン作りに懸命だ。
内閣参与に登用された宮家邦彦、
高橋洋一氏ら6人の顔ぶれをみる
と、御用学者やエコノミストばか
りで斬新な政策を打ち出せる人物
は見当たらない。成長戦略会議の
メンバーに起用したデービッド・
アトキンス氏は「全国に世界レベ
ルのホテルを50カ所新設」と提言
したが、菅首相は官房長官時代か
ら口移しのようにぶち上げたが、
富裕層ばかりに目を向けた政策に
「他にやることがある」と批判も
高まった。氏の工藝社もその乱雑
な仕事ぶりが「週刊文春」のトッ
プ記事で書かれたほどだ。


高橋氏とはアベノミクス礼讃者で
、以前ラジオ報道番組で討論をか
わしたことがあるが、政府が目論
み通り経済が好転しない状況を指
摘すると、「来年春には間違いな
く景気が回復しているはず」と論
拠も示さず断言した。その後、実
質賃金は下がり続け、赤字国債ば
かりが増えてアベノミクスは破た
んした。看過し難いのは、高橋氏
が2009年、東京豊島区の温泉
施設で現金5万円入りの財布と数
十万円の高級腕時計「ブルガリ」
を盗んだとして、警視庁に書類送
検された経歴である。不起訴になっ

たのは誰かが手を回したのか。本

人の説明はなお不十分だ。


宮家氏も嫌中嫌韓発言で安倍外

交に賛辞を送り、「ヘイト」と受け
取られる発言を繰り返している。

首相に善隣友好関係を再構築す
る気配はなく、それどころか今秋
の韓国ソウルでの日中韓首脳会談
まで徴用工問題を口実に出席を拒
否した。薄汚れた経歴や硬直した
考えのブレーンらは日に日に陰湿
な性情を見せつける菅首相にふさ
わしいのかもしれない。


       【2020・10・16】

決して口にしてはならない言葉だ
った。菅義偉首相が日本学術会議
の推薦名簿を「見てない」と言い
放ったのである。既に悔やみきれ
ない思いになっているのではない
か。任命権者である首相は「総合
的で俯瞰的に判断した」と強弁し
ていた。「見ていない」のになぜ
判断できるのか、子供でも不審が
る虚偽答弁だろう。その場にいた
記者らが黙って見過ごすだろうと
いう驕りと、学問を見下す卑しい
精神性がまた露見した。陰湿な権
謀術数ばかりを駆使して政権をつ
かんだ首相の自業自得の禍根で

ある。


早くも自民党から「自民党から全
部が全部、首相がやるわけないじ
ゃない。事務的に前さばきを任せ
ることはある」とかばう発言が飛
び出すが、最終判断を明言した任
命権者である首相が、名簿を見て
いなかったでは済まない。推薦者
名簿は除外した6人を含む105
人全員が記されていた。首相は決
済前に99人分の名簿を見ただけと
述べており、明らかに矛盾する。
内閣府の参事官は99人と105人
の名簿を首相に渡したと認めてお
り、105人の推薦名簿は間違い
なく首相執務室にあったことにな
る。


もし、見ないで決済したら怠慢を
免れない。99人だけを見たとする
なら6人の名を誰が何故抜いたの
かという説明が必要になる。ここ
で大きな疑惑として浮上するのは
最側近の杉田官房副長官の存在だ
。杉田副長官は安保法制や特定秘
密法に反対していた研究者を「「
外すのは当然だろう」と話してと
いう証言がある。


杉田副長官は以前にも安倍政権を
批判した文化功労者候補を差し替
えさせたことを前川喜平元事務次
官が証言している。加計学園の疑
獄封じにも暗躍した杉田副長官は
菅政権で絶大な権力を握った警察
・公安人脈の頂点に立った。野党
が次国会でこの問題を追及する時
、真っ先に糾弾の矛先を向けるべ
き人物だ。


菅首相は2017年の選考時から
学術会議の推薦メンバーをそのま
ま任命することに拒否反応をみせ
ていたのといい、今回は杉田副長
官の「6人の名簿排除」をそのま
ま追認したという見方が成り立つ
。実際に見てないから、あの失言
が出た可能性もあるが、それでも
自身で言ってはならない言葉だっ
た。


「疑を以って、疑を決すれば必ず
当たらず」


中国の古典である荀子の言葉だ。
あやふやな根拠にもとづき、あや
ふやな心によって判断を下せば、
必ず見当はずれな結論が導かれる
という警句である。逆からみたら
、公正な判断をするには、十分な
情報がなければ、的確な結論が得
られないことを示す。為政者とし
ての自戒が見えない菅首相は、こ
の機会に学術会議の会員に教えを
請うたらどうか。


「菅総理の教養レベルが露見した
」と批判した川勝平太静岡県知事
は政権支持者らからネット攻撃を
にさらされているが、反知性的な
言動が際立つ首相に学者として言
わずにおれなかったのでないか。


海外の科学誌や主要紙も批判的に
報じた。英科学誌ネイチャーは6
日付け電子版で社説で言及。「政
治の科学介入」と強く警告した。
同誌は「ブラジルのトランプ」と
いわれたボルソナ大統領が森林縮
小を報告した国立研究所のトップ
を解任したことを指弾していた。
菅首相は世界の科学者らから「学
問の敵」と見られ始めている


       【2020・10・11】


「権力を持つ者がすべてそれを濫
用しがちだということは永遠の経
験が示すところである」。フラン
スの思想家、モンテスキューは約
300年前から為政者の専制政治
化にこんな警句を発していた。政
府が日本学術会議の新会員の任命
を拒否した問題は、その指摘が時
空を超えて見事に当てはまる。拒
否理由も明らかにしない菅義偉首
相を問いただすこともなく、オフ
レコの朝食会で一緒にパンケーキ
を食す官邸詰め記者の醜悪ぶり。
「学問の自由」に臆面もなく介入
してきた菅首相のまるで露払い役
のようにさえ映るその姿に憤然と
させられる。


今回任命を拒否されたのはいずれ
も極右化した安倍政権の政策に異
議をとなえた学者でいずれも優れ
業績が評価されている。特に戦前
の日本が戦争への道に突き進んだ
経緯を克明に解き明かした加藤陽
子東京大教授の新聞コラムには学
ぶことも多かった。宇野重規東京
大教授による安倍政治の分析はど
れも傾聴すべき論評だった。



菅首相は5日、読売新聞などのイ
ンタビューで「『学問の自由』と
はまったく関係ない」と言い放っ
たが、任命拒否理由は述べられな
かった。判断の根拠も示せず、強
行するのは「安倍政治」の常套手
段で、「悪事」を継承する陰湿な
菅政権の本性がまた出た。


不都合なことや誰もが嘘と見破る
ことでも臆面もなく繰り返す「問
題ない」「当てはまらない」など
の物言いぶりは、官房長官時代か
ら続く酷薄さをさらに際立たす。


菅首相の人物像と学問との関わり
を浮かび上がらせる亡き父親和三
郎氏の11年前のインタビュー(週
刊朝日9月15日号)が印象深い。
秋田に住む和三郎氏は息子の高校
時代をこう罵倒しながら振り返っ
た。


「アレは全然勉強しなかったの。
『バカか』と言ったの。北海道大
学を受けて弁護士か政治家になり
たがっていたけれど、全然勉強し
なかったから入れるわけないの」
「集団就職しても1カ月で帰って
きた。役内川でアユ釣りばかり」

菅首相の知られざる青春の蹉跌だ
が、その後法政大に進学したこと
はよく知られる。父親からずっと
「バカ」呼ばわりされ、学問に関
心を持たなかった屈折した青春が
その後のひたすら権力だけを追い
求める生き方をもたらしたのかも
しれない。


今回、菅首相の母校法政大は田中
優子総長名で「この問題を座視す
るならば、いずれは本学の教員の
学問の自由も侵されることになり
ます」と抗議声明を出した。田中
総長は「研究者の研究内容がたと
え私の考えと異なり対立するもの
であったも、学問の自由を守るた
めに、私は同じ声明を出します」
と痛烈に「OB首相」を批判した


「学問の自由」との関係を否定し
た菅首相に再質問もせず、押し黙
った記者らは自分たちが読者や視
聴者らから課せられた責務など知
らないようだ。「良き官邸村の村
民」として振る舞うことだけが大
事とでも考えているのだろう。権
力の「愛玩犬」を生みやすい記者
クラブ制度の暗黒面である。きっ
と世界の報道の自由度ランキング
が66位(2020年)からまた落
ち続けることだろう。


         【2020・10・6】


「アーリースモールサクセス」。
「初期に素早く出す小さな成果」
という意味のビジネス英語だが、
菅義偉首相の指南役、竹中平蔵パ
ソナ会長が盛んにこの言葉を口に
する。菅政権もひたすら小さくて
も成功実績目指しているように見
える。ハンコ廃止、デジタル庁設
置、携帯電話料金……どれも積み
木のようにまとまりがなくちまち
まとして、目指す国家像はまるで
見えない。一方で、中曽根康弘元
首相の葬儀に政府が9643万円
も予備費から支出するという。こ
んな血税からの野放図な支出を審
議する国会も開かない政権の強権
体質がまた露わになった。



竹中氏は、人材派遣大手パソナの
会長職として約1億円以上の年間
報酬を受けながら、安倍政権時代
から様々な経済政策会議の委員を
務め、まさに「政商」という言葉
がふさわしい。規制改革という美
名の下、自分に近い会社や組織に
利益誘導してきた。何より「小泉
郵政改革」以後、富裕層有利の政
策に旗を振った張本人だ。この結
果、この国では貧富の差が拡大、
比較的豊かだった総中流社会を崩
壊させたが、その反省もない。


菅首相はかつて副総務相として当
時の総務相だった竹中氏に仕え、
その後も頻繁に会合を重ねている
。29日、TV「ニュース23」に出演し
た竹中氏は、菅首相との交遊ぶり
を誇示しながらしたり顔で語って
いた。その言動から菅政権もさら
に格差社会を拡大させる予感が高
まった。


自身に政治への確固とした信念が
うかがえず、権謀術数で政界をの
し上がった経歴からは強権で霞ケ
関官僚を強引な恐怖人事で支配し
た首相の陰湿さばかりが浮かび上
がる。自治体の税収をゆがめる「
ふるさと納税」制度に反対した総
務官僚を自治大学校校長に左遷さ
せた。この官僚は将来の事務次官
候補だったことから、思いもかけ
ない異動に他省庁の官僚も震え上
がった。後に政権の言う通りに動
く「官邸官僚」が跋扈する素地を
作ったのが菅首相なのである。


「雪深い秋田の農家出身」「集団
就職で段ボール会社に勤めた」と
いうイメージ戦略に惑わされてか
、支持率が74%(読売)にもはね
上がって、気を良くしてか早くも
、ベトナム、インドネシアに外遊
に出かけるという。世界的なコロ
ナ感染拡大が収まらないこの時期
に、出かけなければならない格別
な理由は何ら見当たらない。不得
意な外交での得点稼ぎが狙いだろ
うが、血税の無駄遣いにしかなら
ないだろう。


メディア戦略もしたたかだ。柿崎
明二共同通信論説副委員長を首相
補佐官に起用した。柿崎氏はテレ
ビでいつもどっちつかずの論評を
述べるので知られていたが、その
ジャーナリストとしての矜持とモ
ラルのなさに改めて驚く。「幅広
い知識と経験を有しており適任だ
と首相が判断した」と加藤勝信官
房長長官が説明したが、今後政府
寄りかそうでないかだけを見極め
、一層メディアの分断を図るため
の知恵を授けてもらう意図が透け
て見える。それにしても、距離感
を保ち政権を監視する責務をいつ
忘れ去ったのだろう。


           【2020・10・1】